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146.「鉄道橋とブラックマリア」


 【辰守晴人】


──鋼鉄と鋼鉄が激しくぶつかる音。頭の奥を震わせるようなこの音を聞いたのは昨日、イースとスカーレットが喧嘩していた時以来だった。


 マリアの魔剣『ハイロジョーカー』が俺の顔面を切り飛ばす直前……視界の端をかすめた影と衝撃音、そして宙を舞う鮮血。


 スローモーションのように流れていた時間は、あっという間に等速に戻った。


「──ハレ、ボサッとしてんじゃないわよッ!!」


 声に反応して反射的にその場から飛び退くと、さっきまで俺が居た場所が爆炎に呑まれた。


「……っ危ねぇな! 俺まで燃やす気か!!」


「はぁ!? せっかく人が助けてあげたってのに何よその態度は! アンタもう死んだから!」


「生かすも殺すも自由自在かよ」


 俺とマリアの間に割って入ったのは龍奈だった。大鎌を叩き落とすように切り下ろし、マリアの腕に斬撃を浴びせて爆炎を放ったのだ。


 龍奈がマリアの魔力を察知したのか、はたまた何か別な事情で外に出てきたのかは知らないが神がかり的なタイミングだった。


 龍奈が駆けつけるのがあと数瞬遅れていれば俺の顔面は真っ二つになっていたかもしれない……ついでにあと数瞬回避するのが遅ければ火だるまになっていたところだったかもしれない。マジでどっちも危なかった。


「ったく、アンタって何でちょっと目を離すと厄介ごとに巻き込まれるわけ!? バカなの!?」


「んなもん俺が知りたいわ!」


 龍奈の爆炎はちょうど道路の真ん中、半径五メートル程の範囲で轟々と燃え盛っている。旧都の外れとはいえ近くに住民が住んでいないわけではない。通報されてサイレンが鳴り出すのも時間の問題だ。


 それまでに()()()()()()()()()()()()()……!


「……やれやれ次から次へと、貴様何者だ。魔女協会セラフの者ではないだろうが……まさか魔女狩りの人形ドールか?」

  

 ガスの元栓を閉じたように炎がかき消えた。焼け跡のついた道路には鎌を肩に背負ったマリア。どうやら完全にノーダメージ、鮮血を散らしていたはずの右腕にも外傷は見当たらない。


「マリア、これ以上騒ぎを起こせば厄介なことになる。警報が鳴ればこの地区を守護している魔女が出てくるぞ」


「なるほど、それは厄介な事だな。では無駄に足掻くのを止めてさっさと死ね」


 マリアは背負っていた鎌をグルグル回しながら俺の方へ突きつけた。やはり話が通じる相手ではない。


「ハレ……五分、いや十分なら龍奈が稼いでみせるから、フーちゃん連れてさっさと行って」


「バカ言え、そんなこと出来るわけないだろ。逃げるなら全員でだ。それに──」


 ようやく二人に再会出来たってのに、またこんな形でバラバラになってたまるか。俺はこんな時のために、もう大切なものを取りこぼさないために強くなったんだ。


「──俺たちなら案外何とかなる気がするんだよな」


「ふん、ようやく男らしくなってきたじゃない。バカハレ」


 相手はレイヴンの魔女。マリアがイースやスカーレット並みの強さだとすると無謀にも思えるが、その一方で『何とかなる』と言った言葉も嘘では無かった。


 明確な殺意をもって大鎌を構えるマリアを視界の中央にしっかりと捉えたまま、俺は龍奈に呟いた。


「俺に作戦がある」

 



* * *




 何より大事なのは場所選びだ。僅かでも他人を巻き込む可能性がある場所では絶対に戦えない。よって第一条件は絶対に人が居ない場所。そして第二条件は──


「──なんだ、逃げるのはもうやめたのか」


「……まあな、ここらでひとつこの前のデートの続きといこうぜ」


「ちょっとハレ、その話後でちゃんと聞かせなさいよね」


 かつて旧都には鉄道が通っていた。魔獣災害によって三分の一が崩れ落ちた鉄道橋は今も尚取り壊される事のないまま無残な姿で放置されている。


 俺と龍奈は全速力で旧線路を伝い、その鉄道橋までやって来たのだ。なぜならこの場所こそがマリアを何とかするための第二の条件だからだ。


 前方にはマリア、後方十数メートルには崩れた橋の切れ目。うまく誘い込んだのだが状況的には追い詰められたとも言える。


「お前の考えは読めている。大方おおかたこの私を橋の下へ落とそうとでもいうのだろう」


「安心しろよ、前みたいに溺れたらちゃんと助けてやるからよ」


 そう、本人にもバレているが第二条件は水だ。俺の知る限りマリアの唯一の弱点、それはこいつがカナヅチだということ。


 鉄道橋の下を流れる川にマリアを落とす事ができれば俺達にも勝機はあると踏んだのだ。


「もうお前の減らず口はうんざりだ人間ッ!!」


「……ッ!?」


 ここにきてようやくマリアの表情に明確な怒りと殺意が出てきた。いよいよ本気で俺の事を殺しにくるのだろう、けど怖気付いてもいられない。ここでしくじれば俺だけじゃなく龍奈とフーも危ないのだ。


「ちょっとハレ、アイツを下に落とせばいいってのは何となく分かったけど、まさか作戦ってそれだけなわけ?」


 魔剣を構えてマリアを警戒する龍奈が小声でそう言った。俺もマリアから目は離せないから龍奈の表情は分からないが、多分訝るような目をしているに違いない。


「大筋はな、あとは俺達のチームワークだ」


「チームワークってアンタ……」


「なあ、フーと初めて会った日のこと覚えてるか?」


「はあ? こんな時に何言ってんのよ!?」


「作戦だ、フーに俺がストックしてる服を貸してやった時、お前が何て言ったか覚えてるか?」


「はあ?……えっと……うん、覚えてる……覚えてるわ!」


 マリアに作戦を知られないためにかなり暗号めいた説明になったが、反応を見る限り俺が伝えたい事を察してくれたようだ。


「俺は()()()()()()()()()()()、合わせてくれ」


「いいわ、五分で済ませるわよ!」


 龍奈は構えていた魔剣を横薙ぎに振り抜いた。マリアとは十メートル以上離れているが、龍奈の放った斬撃は巨大な炎となって前方へと飛んだ。


「ぬるいッ!!」


 マリアは飛んでくる火炎の斬撃をこともなげに大鎌で両断した。真っ二つに別れた火炎がマリアの両脇をすり抜けて後方で爆ぜる。


「まだまだぁッ!!」


 一度目の攻撃直後に大きく跳躍していた龍奈が、今度は空から炎の斬撃をマリアへ向けて繰り出した。先程よりも火力は抑え目だが手数が多い。


「ふん、この程度の火炎魔法が効くとでも思っているのか!?」


 マリアは避けるどころか飛んでくる炎に向かって跳躍、鎌で斬り払いながら龍奈へ迫った。


「俺もいるぞマリア!!」


 龍奈に向かったマリアを横から強襲するが、マリアは俺と龍奈の攻撃を空中旋回する様に鎌を回していなす。


 橋に着地すると同時に、マリアは標的を龍奈から俺へ変更、猛攻を仕掛けてきた。俺は龍奈みたいに魔剣はまだ出せない、全神経を回避に集中する。


 龍奈は常に俺とマリアを挟んだ対角線に位置取って背後から攻撃を仕掛けるが、マリアの大鎌は多対一に向いている。一回しするだけで全方位に即死級の斬撃が飛んでくるのだ。


 リーチも素手の俺はもとより、日本刀型の魔剣を持つ龍奈の二倍以上はある。中遠距離ができる火炎魔法が効かない以上近接に持ち込むしかないのだが、なにぶん隙が無さすぎる。


「……ハレッ!」


 大鎌の大旋回を転がるように躱した龍奈が、起き上がりざまに何かをマリアへ投げつけた。大振りの攻撃直後で弾く余裕がなかったマリアは、しかし難なくそれを避ける。


 だがマリアが避けるということは、投げられたそれは対角線に位置取っている俺に飛んでくる事になるのだ。


「……ナイスッ!!」


 俺は飛んできた物のをしっかりと捉えてキャッチした。魔力始動して尚ズシリとくる重量感。俺が作る出来損ないとは別格の密度を感じる。これが完成形の魔剣──


 この魔剣さえあれば鎌を捌いてマリアの間合いに踏み込める。超近距離まで詰めれば鎌も使えまい。


「そろそろ行くぞ龍奈!!」


「分かったわ!」


 龍奈に声をかけてタイミングを合わせる。マリアの大鎌にも目が慣れてきたし嬉しいプレゼントも貰った、ここからが本番だ──


 





 


 

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