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139.「バックヤードとランプの精」


 【レイチェル・ポーカー】


 駅前にある中央区最大の大型ショッピングモール。その三階にある雑貨屋にわたしとヒカリは居た。


 いや、正確に言うと雑貨屋のさらに奥ににあるバックヤードに、わたし達は居た。


「──まあそこら辺座って適当にくつろいでー。最近店移したばっかでちょお散らかってるけど堪忍やでぇ」


 確かに、周りには未開封の段ボールとか筒状の紙がいっぱい詰まった箱やらと、多少散らかっていた。


 しかし、そんな空間の中でも中央にある長テーブルと椅子の半径1メートルだけは綺麗に整っていた。つまりここに座っておけと。


「なんか、秘密基地みたいだね」


「どっちかっつうとヤクの密売場じゃねぇか?」


「どっちでもいいけど無駄に広くない?」


「無駄に広いヤクの密売場だな」


 一見するとこの雑貨屋、モールに入ってる他のショップに比べると小さく感じるのだが、バックヤードを含めるとむしろ大きい部類だ。


 なんかバックヤードに雑貨屋で蓋をしているような感じ。こっちが本体ってことね。


「──櫻子ちゃんヒカリちゃーん、コーラとペプシどっち派ー?」


 鈴国は何やら奥の巨大な冷蔵庫に頭を突っ込んでお尻をフリフリしている。


「どっちでもいい派だよ」


「わたし右に同意派」


「あい了解でーす!」


 そう言って鈴国は冷蔵庫から頭を出すと、床に積まれていた段ボールから紙コップの束を取り出した。

 

「はいはーい! じゃあ早速仕事の話しよかぁ」


 言いながら鈴国がテーブルにカルピスと紙コップを置き、向かいに腰掛ける。コーラとペプシのくだりなんだったんだよ。


 それにしても、実際ここまで連れてきてくれたという事はさっきの話やっぱり本気らしい。何でも三つ仕事を請け負ってくれるというやつ。


「つーかよ、何でも請け負うとか言われても、こっちはお前が何を出来んのかとか分かんねぇんだよ」


「んー、ウチ殺し以外は基本的に何でもできるで? スーパーキャリアウーマンやから」


「胡散臭……」


 バーガーショップでほんの一瞬感じたあの威圧感はやはり気のせいだったのか、途端に詐欺師か何かに見えて来たな。


「もしかして疑ってる? よしよし、じゃあウチの実力を見せたろかぁ、ほんのちょっとだけな!」


 鈴国はキャスター付きの椅子に座ったまま地面を蹴って、床に散乱した箱やらを蹴散らしながら壁際の段ボールの前まで移動した。そしてごそごそと箱の中身を弄ると、再び戻ってくる。


「ほら、これ最近のウチのお気に入り、ごっつかぁいらしぃやろ?」


「……んなっ!?」


「え、これって……」


 鈴国が箱から取り出したのは数枚の写真だった。それを見たヒカリは絶句している。それもそうだろう、なにせ写っていたのはヒカリだったからだ。


「テメェ、どこでこれを! 返せ、燃やしてやる!!」


 ヒカリは赤面しながら鈴国から写真を奪い取ろうとするが、ひょいと躱された。何故こんなに必死なのかと言うと、写っているヒカリがプリティチェリーの格好をしていたからだ。つまり、先日のCM撮影の時のものである。


「どや、これがウチの実力……の、ほんの片鱗や! ウチの手にかかれば撮影スタジオのPCにクラッキングして削除されたデータ復元するくらい訳ないっちゅうことですわ!」


「あ、魔法とかじゃないないんだ」


「手に職ってヤツやなぁ!」


「ふざけんなテメェ! ただの変態じゃねぇか!!」


 ヒカリは目を血走らせて椅子から立ち上がった。今にも掴みかかりそうな勢いだ。


「はいはい落ち着いて落ち着いて、写真欲しいんやったらなんぼでもあげるからぁ」


「ぶっ殺すぞテメェ!!」


「ほらヒカリ、落ち着きなよ。確かに変態だけど使える変態だよこの人」


「櫻子ちゃんちょくちょく毒吐くなぁ」


 ともあれ、これでさっき鈴国が言っていた『殺し以外は何でも』が満更でもない話になってきた。


「誰かの個人情報調べたりも出来るの?」


「もちもち! 大抵の事は三分から五分あったら調べ上げれんで!」


「じゃあテメェをぶっ殺しても罪に問われねぇ方法を調べやがれ」


 ヒカリ、相当キレてるな。


「え、そんな事に三つしかない願い事つこてえぇの?」


「ランプの精みたいな口振りだなぁ」


 実際、考え方としては的を得ているのかも知れない。本人曰く何でも出来るらしいし、千夜一夜物語のアラジンになったつもりで無茶振りしてみようか。


「ヒカリ、耳貸して」


「あぁ? 何だよ櫻子」


 わたしはヒカリに一つ目の願い事を伝えた。鈴国はあくまでもヒカリのためにタダで仕事をすると言っているからな。ヒカリの口から言ってもらわなければなるまい。ちなみにわざわざ耳打ちした理由は特に無い。


「おう、変態。じゃあ早速一個頼みてぇ事があるんだが」


「へ、変態て……まあええわ。何でも言うてみぃ」


 ヒカリが確認のためかわたしの方を向いたので、こくりと頷いた。


「北区に三龍軒って中華屋があるんだが、そこで働いてる奴のことを調べて欲しい」


「ほう……ほうほう!」

 

 鈴国は椅子の背もたれにもたれかかって少し驚いたように手を合わせた。


「……出来ないの?」


「出来る! けど意外やなぁ、もっと俗物的な事言うてくんのかとおもてたわ! 大金持ちにしてくれとかな!」


 即答とは恐れ入るけど、鈴国も結構毒吐いてるよね。ていうか大金持ちにしてくれって言ったらしてくれるのか……。


「──で、調べて欲しい奴の情報は他には無いんか? 従業員ってだけやと絞り込むのに余分な手間かかるんやけど」


「あぁ、そこでバイトしてる男だ。辰守何某とかいう学生」  


「なんや男かいなぁ、もしかして気になる子ぉやったりするんー? 青春やなぁ、おねぇさんハァハァするわぁ」


 鈴国は両手で自分の肩を抱きしめて身を捩った。何言ってんだこいつ。


「あの、全然違うから」


「なんやそんな照れんでもえぇやん。辰守君かわいそうやん」


「いや、そうじゃなくて……わたしが調べて欲しいのは辰守君じゃないの。ヒカリも勝手に変な事言っちゃダメじゃん」


「ちげぇのか? てっきり辰守何某の事かと思ったぜ。温泉土産買ってたしよ」


 よく覚えてるなヒカリ、辰守君の話なんて温泉街のお土産屋さんで一回しただけじゃなかったっけ。そういえばお土産も自分の家に置きっぱなしで放置してるな、どうしよアレ。


「もう、めんどくさいからヒカリ通さないでわたしの口から言ってもいいかな?」


「せやな、ヒカリちゃんがええなら別にかまへんよー」


「アタシはかまわねぇよ」


 わたしは小さく深呼吸して記憶の海に潜った。そう、確か名前は知っていた筈だ。辰守君……ハレ君が名前を呼んでいたから、確かあの子の名前は──


「……龍奈、三龍軒で働いてる龍奈って女の子の事を調べて欲しいの」








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