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127.「ヴィヴィアンと魔女協会」


 【レイチェル・ポーカー】


──エミリアとカルタをくっつけるために企画したモールでのショッピングは、概ね良好な終わりを迎えた。


 集合した時にプレゼントを購入していたのは結局カノンだけだったけど、エミリアとカルタはなんだかモールに来る前よりも仲良くなったみたいだし、本懐は遂げたはずだ。


 そしてモールに来る前と雰囲気が変わったのはエミリア達だけではなかった。カノンが何故か妙にソワソワしていたのだ。しきりにポーチからスマホを出し入れしてみたりとやけにせわしないから、わたしはこっそり何かあったのか聞いてみた。


 すると、なんと以前ゲーセンで会ったという男と再会して連絡先まで交換したらしい。中々抜け目ない子である。


 モールでのショッピングは午前中に無事終わり、午後には各々予定があったので自然と解散の運びとなった──



* * *



「──ったく、日曜までヴィヴィアンのアホヅラ拝みに行くハメになるたぁな」


「わざわざついて来てくれなくても、別にわたし一人でもよかったんだよ?」


 わたし達は現在VCUの事務所に向かって歩いていた。片手に持った袋には、さっきテイクアウトしたハンバーガーが入っている。


「アタシは櫻子が行くなら何処にでもついて行くんだよ」


「堂々としたストーカー宣言だねぇ」


「褒めても何もでねぇぞ」


 他愛もない会話をしながら、わたしはこの後ヴィヴィアンに聞きたい話を頭の中で整理していた。


 螺旋監獄ヘリックスの話も聞きたいし、それに何よりヴィヴィアン本人の話を聞きたい。特にどうして魔女協会セラフを抜けたのかを。


 エミリアはヴィヴィアンの事を警戒しているようだったけど、わたしにはどうしてもヴィヴィアンが他人を貶めるような事をするとは思えない。いいかげん敵か味方か、はっきり見極めたいのだ。




* * *



──事務所に着くと、ヴィヴィアンはソファに腰掛けてトマトジュースを啜っていた。八熊はいつも通りデスクでタバコを蒸している。


「おはようございまーす」


「おっす、暇だから来てやったぞ」


 ヒカリと二人で窓際から挨拶すると、ヴィヴィアンは待ってましたと言わんばかりにソファから飛び上がった。


「ようやく来おったか! 例のブツは持って来たかの!?」


「はい、クアトロトロトロチーズバーガートマト増し増し」


「ん〜! これじゃこれじゃ、先日以来どハマりしてしもうての、魔性の味じゃ!」


 ヴィヴィアンはハンバーガーの入った袋をひったくるように受け取って、ニコニコしながらソファに座った。


「じゃあ社長、ハンバーガーも買ってきた事だし、約束通りまた話を聞かせてよ」


 わたしとヒカリもヴィヴィアンの向かいのソファに腰掛ける。ヒカリは隣に座らせると例によってぐいぐい距離を詰めきて窮屈になるから、膝枕してあげる事にした。こうすると大人しくなるし、わたしもヒカリのフワフワを触りながら話を聞ける。


「うむ、話くらいいくらでも聞かせてやるが……なんかお主いつの間にかタメ口になっておらんか? 別に構わんが」


「構わんならいいじゃん、さっさと本題に入ろうよ」


「……そうじゃなぁ……あれは茹だるような熱い夜の事じゃった。月明かりの下、此方こなたが水浴びをしていると……」


「あ、ストップストップ、社長の昔話じゃなくて螺旋監獄ヘリックスの話が聞きたいんだけど」


「……ほう、螺旋監獄ヘリックスじゃと? まさかお主の口からそのような名が出るとは、いったい何処で聞きつけてくるんじゃ? まあ話せと言うなら話すが……」


「おいちょっと待て、さっき言いかけてた話も何気に気になるから簡潔にオチだけ教えろよ」


 わたしの膝に頭を乗せたヒカリが偉そうにそう言った。この体勢でこの態度はかなり大物である。


「ふむ、オチだけ言うとじゃな、バンビが覗きを……」


「……してねぇよ」


「ぁ痛あッ!?」


 ものすごい勢いで飛んできた灰皿がヴィヴィアンの頭に激突した。持っていたバーガーはテーブルに落ち、具がバラバラに散らばった。


「……ああ、何ということを……トマト、トマトトマト……」


 ヴィヴィアンは頭に灰皿が飛んできた事には触れず、テーブルに四散した増し増しトマトを掻き集めている。メガネメガネみたいだ。


「八熊はやっぱロリコンだったんだな……で、へりっくすってのは何なんだよ」


 そういえばヒカリは勝手に付いてきただけだから何も知らないんだ。エミリアみたいにわたしの事情を知っているわけでもないし、まあ別に聞かれて困るような話ではない。


「うん、前に温泉で会ったレイヴンの人がさ、確かそんな事を口走ってた気がしてね。何か気になったから社長に聞きにきたんだよ」


「ふーん、なるほどな」


 ヒカリがわたしと一緒に行動するのは当たり前のことみたいになってたから、事務所に来る理由なんて殆ど説明しなかったわけだけど、この子もこの子でよくここまで何も聞かずに付いてきたもんだ。


「ふむ、螺旋監獄ヘリックスの事は魔女であるならば知っておいた方が良いじゃろう……此方こなたが超絶分かりやすく教えてやろうではないか」


「よっ、待ってましたー」


「こほん、螺旋監獄ヘリックスとはじゃな……ずばり魔女の監獄じゃ!!」


 ヴィヴィアンはこれまで見た中で一番のドヤ顔でそう言った。


「あの……それは知ってるんだけど」


「なんじゃ、知っておるならわざわざ聞くでないわ」


 ヴィヴィアンはつまらなそうな顔で、かなり不細工になったバーガーを齧った。


「いや、なんていうか……わたしが知りたいのはもっとこう、詳しい話で……」


 そう、どうしてわたしが収監したライラックがレイヴンにいるのかとか……そういう部分に繋がる話が聞きたいのだ。


「むう、詳しい話か。そうなると此方こなたも大した事は知らんわけじゃが……現在百八人の魔女が収監されておるとか……」


「めちゃ詳しいじゃん」


「まあその内の六人は此方こなたがぶち込んでやったからのぅ、四年に一度ヘリックスから使いが来おるし」


「……と言いますと?」


「此方が収監した六人のうち五人は既に刑期が満了になっておる故な、其奴らを釈放するかどうか、使いの魔女が定期的に確認しに来るんじゃ」


 そういえば確か、収監者は被収監者を釈放する権利があるとか何とか言ってたな、四年に一度というのは初耳な気がするけど。


「へぇ、釈放するかどうか社長が決めれるの?」


 この辺りの話はわたしも頭が痛くなるほど聞いたから知っている。知っているけど形だけ聞いておく。


「左様じゃ。まあ釈放するというよりは、面倒を見ると言う方がニュアンスが近いがのう、一度監獄から出してしまえば其奴の事を一生監督せねばならんし」


「なるほど、じゃあライラックは誰かに出してもらったんだ」 


「……ライラックじゃと? はて、聞き覚えがあるような無いような……」


「いやいや、この前温泉合宿の時に会ったじゃん。あの前髪長い人、螺旋監獄ヘリックスに収監されてたみたいなんだよね」


 ヴィヴィアンはほんと人の顔を覚えないな、わたしとレイヴンで再会した時も完全に忘れてたし。


「……おぉ、思い出したぞあの小娘か!」


「お前の方がチビじゃねぇか」


 わたしの膝の上から的確なツッコミが飛んだ。ヴィヴィアンは気にする様子もないけど。

 

「あの娘が螺旋監獄ヘリックスにのぅ……いや、というかライラックというと七罪原プレアデスの傲慢の魔女ではなかったかの?」


「社長知ってるの?」


 知ってるの? というよりは覚えてたの? って感じだ。


「うむ、確かレイチェルに収監された魔女じゃのう。其奴が監獄から出たという事は、大方おおかたバンブルビーの仕業じゃろうな」


「……バンブルビー」


 ヴィヴィアンがその名前を口にしたのが凄く懐かしく感じて、気がついたらわたしもバンブルビーの名を口ずさんでいた。


「あぁ、バンブルビー・セブンブリッジはレイヴンの魔女で此方こなたの姉貴分に当たる奴じゃ。奴はレイチェルの後見人になっておった故、レイチェル亡き後ライラックの所有権が回ってきたんじゃろ」


「はあ、なるほど……」


 そうだ、ライラックを螺旋監獄ヘリックスに収監したあの日……わたしはたまたまそばに居たバンブルビーを後見人に選んだのだ。 


 確かライラックの刑期は四百年、それ以降にバンブルビーの権限で出所したという事は、バンブルビーは確実に今も生きていて、かつレイヴンに所属しているという事だ。言いようのない安心感が胸に込み上げてくる。


「それにしても、一度監獄送りにした魔女まで仲間に引き込むとは、レイヴンの人員不足は深刻なようじゃの。アイビスが頭を抱える様子が目に浮かぶわ……あやつ頭痛持ちじゃし」


「実際今はどのくらいの規模なんだろう、レイヴンって」


「さてな、此方こなたも詳しくは知らんがかつて程の大所帯でない事は確かじゃろうな」


「……ふーん」


 これ以上深く聞く事は出来なかった。受け入れ難い話に触れてしまいそうな気がしたのだ。


「……櫻子よ、話は済んだかの? もう用がないならバーガーのお代わりをたのみたいんじゃが──」


 ヴィヴィアンはいつの間にかバーガーを平らげたようで、指についたソースを名残惜しそうに舐めていた。


「じゃあ、あと一つだけ」


「ふむ、申してみよ」


 今日一番聞きたかった事だ、小細工なしでストレートに聞こう。


「──ヴィヴィアンはどうして、急に魔女協会セラフをやめたの?」






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