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122.「パーティと大臣」



 【エミリア・テア・フランチェスカ・ヘルメスベルガー】


──日曜日の午前十時、新都の駅前にあるバーガーショップに私達VCUメンバーは集まっていた。


 遅刻癖が否めない先輩達だけど、今日は全員約束通りの時間に集まった。ヒカリさんは現在レイチェルさんと同居中だから寝坊する事がないし、カルタは私が朝から起こしに行った。カノンさんはショッピングがえらく乗り気だった様子で一番早く来ていたほどだ。


 今日は駅前のモールでショッピングをする予定だけど、取り敢えずその前に朝食をバーガーショップで済ませることになった。


「──エミリアとカルタでまとめて注文してきてよ、席取っとくからさ。わたしクアトロトロトロチーズバーガーのセット五個ね。ドリンクは全部コーラで」


「分かりました、メモ出すのでちょっと待ってくださいね」


 私はスマートフォンのメモに言われたオーダーを打ち込んでいく。レイチェルさんはヒカリさんと軽く食べてきたと言っていたけど、結構がっつり食べるみたいだ。


「アタシはゴールデンバーガー単品八個なピクルス増し増しで」


 ヒカリさんもレイチェルさんに負けず劣らずの食いしん坊。


「ヒカリ、ドリンクいらないの?」


「櫻子五個もセット頼むんだからコーラ分けてくれよ」


「もう、しょうがないなぁ」


 何気ない会話のやりとりだけど……この何気なさが本当に一緒に住んでいて何もないのだろうかと考えさせる。なんというかカップルを通り過ぎて夫婦みたいに見えなくもない。


わたくしは期間限定のタスマニアンキングクラブバーガーにしますの。四個でお願いしますわ。ドリンクはあっさり赤ブドウで」


 カノンさんはいつものおしとやかな口調でそう言ったけど、注文内容が全くお淑やかじゃい。値段とか諸々。


「……うわ〜一万円バーガー頼む人ほんとにいるんだ〜ナリキングの名は伊達じゃないよね〜」


 さっきからコアラの子どもみたいに私の背中にへばりついているカルタがそう言った。


「おい成金、後でアタシにも一口食わせろよ」


「あら、わたくしは別に構いませんけど、櫻子はいいんですの? 間接キスになりますけど」


「え、何でそれをわたしにふるの?」


……しまった! そういえば依然カノンさんと二人きりで昼食を食べた時に、ヒカリさんとレイチェルさんが付き合い始めたと言ってしまったのだ。早とちりだったって言うのをすっかり忘れていた。


「と、とにかく混んできてはいけませんし早速買ってきますね、席の確保はお願いします! ほら、カルタ行きますよ!」


 背後霊みたいなカルタを引きずって注文カウンターへ向かう。スマートフォンのメモを改めて確認するとちょうどメールが届いた。レイチェルさんからだ。


『エミリアとカルタが注文してくれてる間に色々用意しとくね。今日は頑張ろう!』


──色々、というのが何か妙に気がかりだけど、レイチェルさんは好意で協力してくれている。私も頑張らないと。


……ヴヴッ! と、注文待ちをしていたらもう一件メールが届いた。再びレイチェルさんだ。


『クイーンバーガーパテ増し増しのやつ奢ってくれるなら、カノンに余計な事を言ったことは許してあげまーす^ - ^』


 さっきのメモに、バーガーが一つ追加された。





* * *




「──クリスマスパーティ、ですか?」


 注文を済ませてレイチェルさん達の席に合流すると、急に『クリスマスパーティしようよ』と言われた。


「……と、唐突ですね」


「ふふ、人は皆わたしの事を唐突の魔女と呼ぶんだよ」


 レイチェルさんは何故かドヤ顔でそう言うと、私が隣に座れるように椅子を引いてくれた。


「いったい誰が呼んでいるんですかそれ、というかクリスマスパーティって……」


「なになに〜エミち〜もしかしてクリスマス知らないの〜?」


 わたしの向かいに座ったカルタは既にスマートフォンを横向きにしている。もちろんクリスマスを知らないわけじゃないけど、すこし言い淀んだのはその日がカルタの誕生日だからだ。クリスマスパーティに参加してしまうと二人きりで誕生日を祝えなくなってしまう。


「クリスマスを知らないわけないじゃないですか。けど、その日は……」

 

「ああ、ちなみにパーティは二十四日のイヴね。二十五日はわたし予定が入っててさ」


「あ、なら大丈夫です! 全然問題ありません!」


 さすがレイチェルさん、そういうことか。今クリスマスパーティをするという前振りを振っておけば、この後のショッピングでそれとなく欲しい物の探りを入れやすくなるだろう。素晴らしい。


「なあアレやろうぜ、プレゼント交換。アタシやったことねぇんだよな」


「あらヒカリのクセにたまにはいい事言いますわね、賛成ですの。わたくしもやったことはありませんけど」


 ヒカリさんとカノンさんのおかげでさらにいい流れになってきた。もしかしてこれがレイチェルさんがメールで言っていた()()なのだろうか。


「わたしも賛成ー。あれって一人一つプレゼントを用意すればいいんだよね? やったことないから分かんないけど」


「誰がどのプレゼント受け取るか分かんないんだっけ〜? くじ引きとか音楽回しでよくやってるよね〜まあ、やったことないからよく分かんないけど〜」


……私以外の全員クリスマスにプレゼント交換をした事がないみたいなんですけど、これって突っ込んでいいのだろうか。


「えっと、プレゼントは一人一つで大丈夫ですよ。カルタが言ったようにくじ引きとか音楽回しとか、他にもビンゴなんか楽しいですよね」


「なんだよエミリアはやったことあんのか、じゃあ仕方ねぇからクリスマス大臣の座はエミリアに譲ってやるよ、仕方ねぇからな」


「え、なんで二回言ったんですか? というかクリスマス大臣とは?」


 ヒカリさんは妙に大袈裟にため息をついた。なんというか、わざとらしい。


「ああそっか、エミリアはドイツっだから知らないんだね。日本ではクリスマスパーティに必ず一人大臣がいるんだよ」


 隣のレイチェルさんは朗らかな顔でそう言ったけど絶対に嘘だ。さすがにこれは騙されない。


「ま、常識だな」


「常識ですの」


 そしてやはりこの二人はレイチェルさんと共謀しているらしい。私を騙すメリットなんてないだろうし、ということは──


「カルタ、そうなんですか?」


「……え? ああ〜うん、まあ〜常識……常識だよね〜うんうん」 


 そう、カルタを騙すためだということ。それにしてもこんなにちょろくて大丈夫なのだろうか、こういうところが放っておけないのだ。  


「ちなみに、クリスマス大臣になるとどうなるんですか?」


「他のメンバーを好きにこき使えるよ。大臣の言うことは〜?」


「「ぜったーい」」


 レイチェルさんの言葉に、示し合わせたかのようにヒカリさんとカノンさんが続いた。まあ示し合わせたんだろうけど。


「な、なるほど。王様ゲームみたいで分かりやすいですね。せいぜいカルタをこき使うとします」


「ん、エミち〜なんで私だけ……」

 

 スマートフォンから少しだけ目線を上げたカルタは、何か抗議しようとしたみたいだけど店員さんに遮られた。


「お待たせしました。商品失礼しますねー、クアトロトロトロチーズバーガーのセットが五つと──」


 カートに乗せられた商品が次々とテーブルに並べられていく。広かったテーブルはあっという間にジャンクフードまみれになってしまった。


「よし、取り敢えず食べようか。クリスマスパーティの話はモールに行ってからってことで」


「「いただきまーす」」


 こうして、ささやかな陰謀渦巻く平凡な休日は幕を開けた──


 


 




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