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111.「バイキングとミーティング」


 【平田正樹】


──新都にあるこの店は、前回緊急招集で集まった三龍軒に比べると月とスッポンだった。オンボロ中華料理と新設のバイキング店という意味でもそうだが、絶品料理と食い放題の粗末な料理という点でもそう言える。



「へー凄いねジャパン、焼肉もお寿司もカレーも食べ放題なんてテーマパークみたいだ」


「これで従業員がしのびだったら完璧だったのにねー」


 なぜ今回のミーティングをこんな民間人だらけの店で行う事になったのかというと、あのヒメとかいう魔女が原因だ。アイツがここじゃないと参加しないとかふざけた事をぬかしやがったのだ。


「シャーロットさん、ここだけの話、実はさっき案内してくれた店員さんはくのいちだったんですよ。変化の術で化ているんです」


 案の定、空気に当てられて早速バカ共がバカ話を繰り広げている。緊張感が行方不明だ。


「まぁ聞いたレオ? 桐崎さん厨二病みたいだわ」


「シャーロット、チューニビョーってなに?」


「いつまでも子供心を忘れない素敵な人の事よ」


「なるほど、ナイスチューニビョー!!」


 レオは満面の笑みを浮かべながら両手でグッドサインを作った。


 こころは目の下をピクピク痙攣させながら苦笑いしている。さっき店で暴れたら家から追い出すと脅した成果が早速発揮されているようで何よりだ。


 てか今のは先にからかおうとした自業自得だけどな。


「……ダーリン、早速この人達と上手くやっていける気がしません」


「俺は初対面の時からそう思ってたぞ」


「え、ほんとですか?」


「ああ、こいつ自分の事可愛い可愛い言って頭悪そうだなぁって」


「……それわたくしの事じゃないですか!!」


 こころが俺の肩をバシバシ叩いた。普通に痛えんだが。


「──ちょっとお兄、なんでそんな野菜ばっか取ってくるかなー、肉食べなきゃ勿体ないじゃーん!」


「ばっかお前、分かってねぇなぁ! こういう店の肉は安いの使ってるけど、野菜はグレードの振り幅少ないから野菜いっぱい食った方が元取れるんだよ! 今年は台風のせいで野菜クソ高えし!」


 安藤兄妹は両手に大量の肉と野菜が盛られた皿を持って何やら言い合っている。コイツら、目立つ事はすんなとアレほど言ったのに──


「ほら、玉子のお寿司もあるわよユウ君。え、普通にマグロも食べれる? やだぁ、いつの間にかお兄さんになったのねユウ君!!」


 寅邸とらやしきのチビと姉狐あねこはたから見たら歳の離れた姉と弟、もしくは歳の近い親子に見える。俺を除いたメンバーの中ではチビが一番大人しいな。


 言ってるしりから安藤兄弟は掴み合いのケンカをしだしているし、レオナルド達はその横で自撮りしてやがる。何してんだこのバカ共は……。


「……おいお前ら、分かってると思うが今日は飯を食いにきたわけじゃないからな」


「え、バイキングなのにご飯食べにきたわけじゃないって何か矛盾してないですかダーリン……あ、白ご飯じゃなくておかずをいっぱい食べろという意味ですね!?」


「おい平田、だからおかずよりも野菜の方が原価が……」


「……お前ら、これ以上くだらねぇ事言うとマジでぶっ飛ばすぞ」


 騒いでいたバカ共を右から左へ睨みつけると、バカ共はしゅんと項垂れて席に着いた。修学旅行の引率の教師の気分だ。


「──まあまあそんなにトサカを立てることはないのだ。ここはヒメの顔に免じて一つ手打ちにしてやるのだ!」


「……こりゃお早いお着きで。もう来ないかと思ったぜ」


 声に振り返るとこのカオスを生み出した元凶とも言える女が立っていた。両手にアイスクリームを持って。しかも格五段。


「ちょっと裏の商店街で食べ歩きをコンプリートしてたのだ!……というか、まだ乾杯してないのだ? まだ全員揃ってないのだ?」


 会社の飲み会で遅れてきた上司かお前は。


「……なんでもいいけどさっさと自己紹介でもして席に座れ。お前で最後だよ」


 この狭い個室にこんだけ詰め込んでるんだから一目で分かるだろうが。


「……ごはん、遅れて悪かったのだ!」


 今『……こほん』って言ったのか? 確実に『……ごはん』って聞こえたが、咳払いするみてぇにごはんって言ってんじゃねえよ。


「ヒメは今回の作戦に協力するためにわざわざ来てやった偉い魔女なのだ! お前様達とは仲良くしてやるからヒメの事はエキドナと呼ぶのだ!」


 凄えな、自己紹介から馬鹿が滲み出してやがる。本当に大丈夫かこいつ。


「エキドナさん質問でーす」


「なんなのだ栗毛!」


 手を挙げたのはシャーロットだ。未だにコイツの事は計りかねているが変な事聞くなよ。


「枢機卿との関係はー?」


 いやいや触れちゃダメなとこに決まってんだろバカか。


「あ、それ僕も気になるなー」


 いやいやお前は自分の女を諌めろよバカか。


「お二人ともそれを聞くのは野暮というものですよ、エロい関係に決まっています!」


 こいつはただのバカ。


「バカかお前ら、姫様なんだから娘に決まってんだろ。な、オルカ」


「え、私は専属キャバ嬢だと思ってたけど」


 コイツらもマジでバカ。


「ユウ君、ドリンクバーついてるけど身体に悪いからジュースは最初の一杯だけよ? 後はお茶、分かった?」


「……はい、お姉さん」


 お前らは乗ってこねぇのかよ。逆に疲れるわ。


「お前様達、ヒメとバーンズの関係を知りたいのか? バーンズはヒメの眷属だぞ! つまりバーンズよりもヒメの方が偉いのだ! さあ敬え! そして崇めたてまつらうのだ!!」


「……それ言っていいのかよ」


 堪らずツッコんでしまったが、今のはコイツの妄言まがいのセリフを肯定したようなもんだった。まずい、俺までバカに毒されつつあるぞ。


「別に問題ナッシンなのだ、バーンズからも言っちゃダメとか言われてないし。誰に知られようが関係ないのだ」


 バーンズのおっさんよ、このバカに放任主義が過ぎるだろ。いいのかマジで。


「とにかく、集合したのだから一にもニにも乾杯なのだ! その後はご飯をしこたま食べてカラオケで二次会、締めにラーメン食べて解散なのだ!!」


「会社の飲み会かよ」


「お前らちゃんとヘバリーゼ飲んできたのだ? 今日はとことん呑むのだ!」


「会社の飲み会かよッ!!」


 


* * *

 



「──真面目な話、どんな作戦立ててるのだ?」


「……は?」


 会社の呑み会の最中に、クソ上司が急に意味不明な事を言い出した。


「いやいやお前様、今日何しに集まったと思ってるのだ? バーンズからの仕事のミーティングなのだぞ?」


「……」


 俺は唖然として焼き上がった肉をトングから取りこぼした。すかさず安藤妹がそれを掻っ攫っていく。


「あ、オルカさんそれダーリンが育てていたカルビですよ!? ダーリンに返してください!!」


「残念もう私の箸で掴んじゃったもーん! 今返したら関節キッスになっちゃうけどいいの?」


「ぐぬぬ、仕方ありませんね……けど次やったら顔の皮を剥ぎますからね!?」


「……ひ!?」


「ちょっと桐崎さん? うちのユウ君が怖がるから物騒な事を言わないでください! ハンバーグにしますよ? 物理的な意味で」


「そっちの方が怖えじゃん」


 クソ上司ことエキドナの話は全員華麗にスルー。もしかしてわざとやってんのか?


「……取り敢えず枢機卿から聞いてる任務期間は年内までだから、一週間はレオナルドのゴーレムを使ってVCUの奴らの監視と情報集めだ。その後に具体的な暗殺の計画を立てるが、出来れば同日に各個撃破が望ましいとは思ってる」


 俺はさっきのエキドナのセリフを聞き間違いじゃないと信じて、考えていた作戦をざっくりと話した。


「なるほどなのだ、お前様もしかして有能な奴だったのだ? 下手なツッコミばかり言っているから芸人崩れか何かだと思っていたのだ」


「誰が下手なツッコミさせてんだよ」

 

 マジでぶっ飛ばすぞこのアマ。バーンズのおっさんのお抱えでさえなけりゃだが……ちくしょうめ。


「まあ作戦なんて適当でもいいのだ、ヒメ達にかかればそこらの魔女なんてまな板の上のシャトーブリアンと一緒なのだ」


「──おい十六番目のヒメ、そこは肉じゃなくて魚なのだ、鯛でいいのだ! 肉ばっかり食ってるからバカなのだお前様は!」


「「……は?」」


 おそらく個室にいた全員が()()()の事を見た。


 唐突に現れた()()()()()()()()()


「お前様、十八番目のヒメのくせに生意気なのだ! だいたい魚ばっかり食ってるからそんな細かい事でカッカするのだ!」


「──十六番目のヒメも十八番目のヒメもケンカはよくねーのだ。結局ジャンクフードが至高なのだバカ共」


 さらに現れた()()()()()()()()


「……おい、エキドナ。説明しろ、これはいったい何の冗談だ」


「こ、これがジャパニーズ忍法!? BUNSHIN!?」

 

「レオ、ちょっと黙ろうか」


 ド天然のレオナルドを除いて、さっきまでふざけ倒していた全員が困惑や緊張の面持ちだ。無理もない、急にエキドナが三人になったんだからな。


「説明もなにも、ヒメはお前様達の作戦手伝いに来ただけなのだ。もしかしてバーンズから何も聞いてなかったのだ?」


 最初に俺たちの前に現れたエキドナがさも不思議そうな顔でそう言った。どうやら冗談を言っているわけではないらしい。


「……少なくともお前が三つ子だなんて話は聞いてねぇな」


「クク、ヒメは別に三つ子じゃねーのだ。ヒメ達は『最初のヒメ』から生まれたヒメの分身にしてヒメ自身なのだ!」


「……い、今やっぱりBUNSHINって……アウチッ!?」


「黙ってて下さいゴザルさん」


 こころがレオナルドの口に熱々のカルビをぶち込んだ。珍しく気の利いた事を。


「つまり、クローンみたいなもんってことか?」


「おーむねそれで合ってるのだ、ちなみに数いるヒメ達の中でも番号付きのヒメは特別強いヒメなのだ! 今回は十番目のヒメと……」


「十六番目のヒメと!」

 

「十八番目のヒメが手伝ってやるから、大船に乗ったつもりでいるのだ! クハハハハ!!」


 バーンズのおっさんがあっさりとエキドナを紹介した理由が分かった。初めて会ったアイツも、この場にいる三人のエキドナも、おそらく本物・・ではないのだ。


 つまり、仮にコイツらが死んだところでバーンズのおっさんは何の問題もないんだろう。


「……凄い、魔法みたいですね」


 こころが感心したように漏らした。魔法だよバカ、と言ってやりたかったが……まあ、気持ちは分からんでもないな──



 




 


 




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