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109.「洗い物とバカ」


 【レイチェル・ポーカー】


──昨日は散々な目にあった。順調かのように思えたCM撮影が、思わぬところで急展開を迎えたのだ。


 結論から言うと、プリティーチェリーのCM撮影はわたしがする事になった。なぜか? ヒカリが途中で投げ出したから……というわけではない。


 ヒカリの代わりにわたしがすることになったという点では同じ事だけど、経緯が違うのだ。のっぴきならない、止むに止まれぬ事情があった。


──ヒカリのおっぱいが大き過ぎたのだ。


 私服での撮影時は特に気にならなかったけど、プリティーチェリーのフリフリドレスに着替えてからはもうダメだった。


 ドレス自体は何種類かサイズが用意されていて、小柄なヒカリにもピッタリの物があった。しかし、胸の部分がどうしようもなかった。


 ヒカリの巨乳ゆえに生地が引っ張られて、本来見えるはずのない谷間が豪快に露出してしまったのだ。


 中に服を着せるという案も出たが、その後の撮影中、動くたびに揺れるたわわな胸が子供向け玩具のCMには不適切だという事で、とうとうヒカリは撮影を降ろされてしまった。


 散々恥ずかしい思いに耐えながら撮影したのに、おっぱいが大きすぎるというなんとも言えない理由で降ろされたヒカリは、魂の抜けたような顔をしていた。


──そして、ヒカリがいなくなればもちろん代役がいるということで、わたしに白羽の矢が立ったのだ。まあ地獄だった。


 アレが全国区で放送されるのかと思うと、テレビ局を爆破したくなる。


 ちなみに他の皆んなは恙無つつがなくCM撮影を終えた。わたしとは違うベクトルでいつ放送されるんだろうと気にしているみたいだった。


──今日は、そんな酷い日の翌日だ。


「あーあ、誰かテレビ局爆破してくれないかなぁ」


 日もとっぷり暮れた午後七時、洗い物の音を聞きながらため息混じりに呟いた。


「まだ言ってんのかよ、アタシが撮影してる時は笑って見てたくせに」


 独り言だったけど、台所にいるヒカリにも聞こえたらしい。


「バチが当たったのかなぁ……いや、これはヒカリのせいだよ」


 わたしはソファからのそっと起き上がって、洗い物をするヒカリの方へ向かいながら言った。


「あぁ? アタシは別に何も悪かねぇだろ」


 ヒカリはわたしが背後に移動しても、特に気にする様子もなく洗い物を続けている。わたしが冷蔵庫を漁りに来たとでも思っているのかな?


「……このおっぱいが悪いんだあぁぁ!!」


「わ、バカ止めろ!?」


 わたしが背後からやにわに抱きつくと、ヒカリは持っていた皿を落としそうになって、しかし何とか堪えた。しかしけしからんな、これは。


「このおっぱいが世間から隠れて燻っているなんて、勿体ない話だよね。もっと大々的にアピールしていこうよ、人類のためにさ」


「……お前はアタシの胸をなんだと思ってんだ!」


「……おっふ!?」


 ヒカリの両手が洗い物で塞がっているのをいいことに胸を揉んでいたら、ヒップアタックが炸裂した。


「……ったく、バカルタみてぇな事を。だいたい、こ、こういうのはもっとこう、ムードのある状況でだな……」


「あ、ごめん。そういうんじゃないから」


 ヒカリがごにょごにょ言いながら頬を赤らめだした。胸を触ったくらいでこんな初心な反応されたらこっちまで恥ずかしくなるじゃない。ヒカリみたいに顔には出さないけどね。





* * *




 【平田正樹】


「──枢機卿からの勅令か。分かった、僕達に出来る事なら協力するよ」


「やりましたねダーリン! ゴザルさんゲットです!」


「……なんか、やけにあっさりだな」


 安藤兄妹に協力を要請した翌日、俺とこころはレオナルド、シャーロットペアの下を訪れていた。


 そして、俺が要件を伝えるとレオナルドは二つ返事でオーケーを出した。他の奴らとの対応の差に、少し肩透かしを食らった気分だ。


「僕達ワシントン支部から流れてきたばかりでこっちの仕事って中々なくてね、向こうには戻るつもりもないし」


「ふふ、まだ日本を満喫していないものね。忍者とか侍とか、お殿様はどこへ行けば会えるんだろ」


「すごい、『ザ・外国人が思い描く日本像』ですね。なんか感動しました」


「まあ、京都に行きゃ見れねぇこともないけどな」


 なんというか、レオナルド達は他のメンバーと比べてあさっての方向に異質だ。お国柄なのか妙にのんびりしてるというか、こっちまでこいつらのペースに乗せられそうになる。


「ちなみ他のメンバー構成はどうなってるのかな、さすがに僕達だけで出来る仕事じゃないよね」


「あの子達、結構強かったもんね。場慣れしてる感じはなかったけどポテンシャルはかなりのものだったし」


「轟ペア以外は前回の協同作戦と同じメンバーだ。あと枢機卿のお抱え魔女が一人助っ人に来るが……正直こいつは未知数だな」


 一度仕事をしたレオナルド達は、ある程度魔法や能力が把握できているから役割分担も考えやすいが、あのヒメとかいう奴は放り投げたお菓子を口でキャッチするのが上手いって事しか分かっていない。


 レオナルド達で欲しい人材は揃った事だし、そろそろアイツも含めた全員でミーティングした方がいいな。


「わたくし、そういえばその方にまだお会いしていないんですよね。可愛かったですか?」


「……お前は何の話をしてんだよ」


「はぐらかさないで下さい! わたくしが居ない間にダーリンが知らない女にうつつを抜かしていたかもしれないじゃないですか!」


 こんなアホらしいことを真顔で言えるのは、ある種凄いことかも知れない。迷惑以外の何者でもないが……。


「別に、顔なんていちいち気にして見てねぇよ」


「ふぅん、平田は顔よりも身体が大事なタイプなんだね」


「マサキ、僕はそういうのどうかと思うよ? 大事なのはやっぱりハートさ」


 最悪な事にこころとこの外人二人は悪い意味で相性がいいらしい。いや、シャーロットの方はおそらくわざと掻き回してるんだろうが、レオナルドは多分天然だ。


「ちょっとゴザルさん!? いつの間にダーリンのことを下の名前でよぶような間柄になったんですか!? 浮気ですか!?」


「……はぁ、クソめんどくせぇ」


 任務に必要なメンバーが恙無く集まったのは喜ばしい事だが、素直に喜べない自分がいる。


 こころ以外のバカの相手をしなければいけないのももちろんだが、そのバカの事を嫌いじゃない自分がいるからだ。


 今でこそこんなふざけた事を言い合っていられるが、任務が終わった後にまたこんな風にしていられる保証はどこにもないのだから──






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