デュラハンが玉座に座る
魔王城四階の玉座の間に戻った時には、すでに窓の外は真っ暗だった。
夕食を終えた四天王が玉座の間に集まっていた。魔王様の両サイドに姿勢よくサッキュバスとサイクロプトロールが立ち、一緒に戻ってきたソーサラモナーもそこへと立つ。
いったい何があったのだろうか。私だけは魔王様の前に左膝を立てひざまずく。
「おお、デュラハン。ようやく戻ってきたか」
「御心配をお掛けし、申し訳ございません」
「よい。疲れたであろう。少し椅子に座って楽にするが良い。よいしょっと」
魔王様は玉座から下り、そこへ私に座るようにと勧めてくる……のだが……。
魔王様の玉座にこの私めが座ってよいと申されるのか――。いやいや、
「いやいやいやいや、め、滅相もございませぬ!」
何故ゆえに玉座へ勧められるのか――意味が分からない。それほどまでに私は功を上げていない――。
床で……大理石の床に座るのでも十分疲れは癒えます。ヒチャっと冷たくて……。
「魔族であれ、人間であれ、向上心は大切だ。座ってみたいのであろう……。
――予の玉座に……」
「――!」
周りの四天王もにこやかに見ている。普段であれば、「抜け駆け隊長!」や「美味しいとこ取り!」とか、「隅っこ暮らし!」などと一目散に文句を言うはずなのに……。
「御冗談を――」
「せっかくの魔王様のご意向なんだから、いいじゃないか座るぐらい。病みつきになるかもよ」
いいのか? 座るぐらい。
ひょっとすると、私と魔王様がいないときに、他の四天王は座り心地を確認したり、魔王様ごっこをして遊んだりしているのだろうか……。
校長室の椅子で遊ぶかのように――!
「こんなチャンス、滅多にないのよ」
サッキュバスがウインクすると、小さな星がキラッ☆っと見えた。
「いいなあ、四天王で玉座に座らせて貰えるなんて、デュラハンが一番乗りじゃないか。嫌なら俺が代わりに座ろうか?」
サイクロプトロールがズカズカと歩み出るが、立ってそれを制した。悪いがサイクロプトロールよりは魔王様のために働いていると自負できる。食べる量も私の方が少なめだ。
「いや、魔王様のご指名はこの私なのだ」
四天王の一人、最強の騎士である宵闇のデュラハンなのだ――。
「ありがたき幸せ」
ゆっくりと魔王様の玉座に腰を下ろした。
いつか……本当にこんな日が来るのかもしれない。
ネチョ。
あれ?
……プープークッションの方がどれほどよかっただろうか……。何かがお尻にベットリとくっつく感じが……気持ち悪すぎて鳥肌が立つ――! 立ち上がろうにも、くっついて立ち上がれない――?
「プッー、クスクス」
「やーい、引っ掛かった」
「……」
――いったい何でくっ付いているんだ! ア□ンアルフアよりも強力な瞬間接着剤なのではなかろうか。右のお尻と左のお尻も見事にくっ付いたぞ――鎧の。
怒りが限度を超えると泣きそうになる。その反対もしかり……。
これって、普通に虐めだぞ……。かなり悪質なやつだぞ……。――保護者までもが学校に呼び出されるランクの虐めだぞ――!
「そうなのだ。デュラハンよ、弱点を攻撃するというのは、――弱い者虐めなのだ――」
「弱い者……虐め?」
「さよう。いくら卿が強い騎士であれ、それを大勢で攻撃することも弱い者虐めであろう。弱点を攻撃するのとなんら変わりはないのだ――」
「……」
弱点を攻撃するのが……弱い者虐め……。
「弱い者を守ることこそ真の平和への道なのだ。それこそが繁栄を続けるために必要な真意なのだ――」
「……御意」
こんな弱い者虐めは……金輪際やめて欲しい……。
弱い者虐めは……この世から無くなって欲しい……。
「あ、無理に立っちゃダメよ。玉座が壊れちゃうわ」
――!
「魔王様の玉座が壊れるぞ」
仕方なく中腰で立つ。だが、思ったよりこの玉座……軽い! いつものと違い……パイプ椅子に段ボールで装飾だけ付けた粗悪品だ――! 他の四天王がニヤニヤしているのが、やっぱりムカつく~!
「貴様ら……」
接着剤が着いてカピカピになったパイプ椅子や大理石の床を掃除したりするのも、――私の仕事になるのだぞ――!
「一日がかりでこの罠を仕掛けたのだ。引っ掛かった感想はどうだ?」
感想って……酷いです魔王様。他にやることはなかったのね……。
「……うーん。なんか、お尻が嫌な感じ」
「ハハハ、そうか」
笑って頂ければ……光栄です。……瞬間接着剤って、なにで落とせばいいのだろうか……。
「これしきの罠に引っ掛かるとは、卿もまだまだ未熟者だ」
未熟者って……。
「いやー、参りました。だって、魔王様数秒前まで普通に座っていましたから」
一ミリくらい浮かんでいたのだろう。魔王様、無駄な魔法をたくさん知っていらっしゃるから……。
分かっていても引っ掛からなくてはならない……。――芸人かっ! と突っ込みたくなるぞ。突っ込まないけれど!
「まあ、トラバサミ百個踏んづけている時点で、どうみても未熟者だろ」
「――!」
なぜそれを知っているのだ、ソーサラモナーよ!
「プークスクス」
サッキュバスが笑っているが……。ひょっとして、見られていたのか?
偵察魔法『ドロドローン』で……盗撮されていたのか……上空から……。
だったらもっと早くに迎えに来てくれと言いたいぞ――!
今日も一日中歩き回ったから、足が棒のようになっているんだぞ――!
ガチャガチャと尻にパイプ椅子がくっついたまま風呂場へと向かった。今日も0時を過ぎている……。
最後に入る風呂は……誰もいないのが救いだ。掛け湯せずに入ったり、飛び込んだり泳いだり歯を磨いたり飲んだり吐いたり……すべてのお湯を自由に使えるのだ。
あー。平和だ。
尻についた接着剤を落とすのがおっくうになるくらい世の中が平和なのだ。風呂場で尻を紙やすりで擦り過ぎてヒリヒリする……。#40番よりも耐水ペーパーの#1000番を使えば良かったと……後悔し始めている。
お湯につけるとさらにヒリヒリする。ヒリヒリが少し気持ちいいのも内緒だ……。
魔王様も他の四天王も、みんな暇なのだが……私だけは暇じゃないと反論したい。
魔族が暇な時に勇者達が一生懸命になっていれば……いずれはカメに追いつかれるウサギになるのかもしれない。
人間共に追いつき追い越される日が……来るのかもしれない――。その時に人間共は、弱いモンスターを虐めはしないのだろうか……。
勇者がスライムを倒さなくなる日なんて、来るのだろうか……。
最後まで読んでいただきありがとうございました!!
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