盗賊のねぐら
村から歩いて約三時間。ようやく盗賊がねぐらにしている洞窟へと辿り着いた。
見張りの姿がない。警戒心のなさに呆れてしまう。それとも、それほど余裕があるくらい強者揃いなのか……。
「ちーす」
警戒されないように、人間風の挨拶をして入ってみた。洞窟は深くなく、入ってすぐに酒を飲んで騒いでいる盗賊と出くわした。
「――貴様、何者だ!」
「貴様だと? 言葉に気を付けるがいい」
貴様らのようなゲス中のゲス、一瞬で首を跳ね飛ばせるのだぞ――。
「いったいどうやって百もあるトラバサミの草原を超えてきたのだ」
苦虫を噛み潰したような顔をして睨みながら言う。……トラバサミだと? ああ、あの踏むと半円型のギザギザが付いた金属で挟まれるトラップのことか……。
「フッ。トラバサミなど、私の鎧の前では、ただのパックンフラワだ――」
――まったく効かぬわ。
百個すべて踏んづけたとは言わない。言えない。百個中百個って……逆に凄くない?
「貴様、人間じゃないな? いったい何者だ!」
顔がない時点で人間じゃないのは分かるだろ。とは言わない。
「人に……じゃなくて、魔族に名前を聞く時は、まずは自分から名乗ったらどうだ」
「ええっと。盗賊Aのドンゴロスです」
ごめん。本当に名乗らなくてもいいぞ。盗賊の名前なんか誰も興味ないぞ。「モブキャラ」とはお前達のことなんだぞ。
「え、自己紹介するの。盗賊Bのズタブクロです。趣味は窃盗です」
趣味は窃盗って……ダメだよ。言わんでいいよ。
「Cのドノウブクロです」
はい。
「Dのポリブクロです。有料です」
……ふん。面白くもない。
……。
――どうするんだ。この自己紹介のあとの微妙な間は~!
「やろうども、やっちまえ」
「「おー!」」
盗賊は一斉にナイフを抜いて構えている。いやいや、ちょっと待て、何か忘れていないか。
最初の質問をもう一度しろと言いたい。ここで「私が魔王軍、四天王の一人、宵闇のデュラハンだと名乗るのは……ちょっと恥ずかしい。いつものパターンみたいで――。
「フッ、名乗るほどの者でもない」は……ちょっとおかしい。
盗賊のナイフをガントレットの手で鷲掴みにして粉々に砕いてみせると、ようやく相手の悪さに気が付いたようだ。
顔が青ざめていくのが羨ましいぞ。私には首から上が無いから……。
「俺の名を言ってみろ~!」
逆ギレ気味に叫んでみた。魔族……いや、悪役はこうでなくては。
「ま、まさかお前は――、『顔なしのデュラハン!』」
いや、ほんまに首を跳ね飛ばしたろうかと思ったぞ。良い子のみんなはくれぐれも言葉に気を付けようね……。
「返事は!」
「――! は、はい?」
一分後には、盗賊四人は一列に正座をしていた。俯いて涙をポタポタ流している。
盗賊というよりも、やっていることは空き巣だったから一発ずつデコピンで許してやることにした。そもそも、なぜ人間の説教を魔族がしなくてはならぬのか――。
ガントレットを付けた私のデコピンは、想像以上に痛いので有名なのだ。赤いおでこから少し血が垂れている。
「俺達だって、盗まなきゃ食っていけないんだ……」
「家も土地もない。働こうにも城にすら入れて貰えないんだ」
――笑止。
「ふん。人間の都合など、魔族には無意味だ」
「命だけは助けて下さい!」
「なんでもします! ご慈悲を!」
頭を洞窟の床に擦り付けて命乞いをする……。
「お前達人間は我ら魔族の敵。今日、この私に殺されても仕方がない……と言いたいところだが、お前達は運がいい」
「「……?」」
実に運がいいぞ。運も実力のうちだぞ。
「勇者から盗んだ剣と鎧を今すぐ持ってこい!」
「は、はい! 今すぐ」
盗賊の一人……盗賊Bのズタブクロが丁重に布袋に入れられた鎧と剣を持って来た。
中身を確認すると……間違いない。あの女勇者の鎧だ――。胸が小さめに作られているので間違いない!
……剣は違うかもしれないが、安物なので……よく分からん。どうでもいい。
布袋を肩に担いだ。もうこんなところに用はない。
「他の盗んだ物は持ち主に返せ。そして警察に自首するのだ。人を傷つけていないのなら、いくらでも人生のやり直しは効くだろう」
人間が人間を裁くのに何の興味もない――。
「は、はい。……この御恩は一生忘れません」
「当然だ。一つしかない命を大切にするがいい」
帰り際に洞窟の入り口で振り向いて尋ねた。
「俺の名を言ってみろ~!」
「「宵闇のデュラハン様――!」」
あ、なんか気持ちいいぞ。
アバレン某将軍みたいで気持ちいいぞ。冷や汗が出る、古過ぎて……。
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