始まりの場所
ブックマークありがとうございます!
フィリエから翻訳の指輪をもらって加代の今後の方針が決まってから二日後。加代はザイール領の西門に立っていた。
「本当に行くのか。」
「はい。自分の帰る方法を探すために行きます。フィリエには沢山お世話になりました。指輪とか、ご飯とか魔法の使い方とかいろいろ…あの、いつかお礼出来るようになったら返しに来ます。」
「ははっ、わかった。…死ぬなよ。ああ、待て待て、守護の魔法をかけてやる。」
「守護の魔法?」
「そうだ、これは他人にしかかけれないんだがな。多少、魔物とかから身を守ってくれる。俺の場合は一週間が限界だが、そのくらいあればゴザの街に着くまでは持つはずだ。」
そういって、フィリエが加代に手を翳すと、加代の足下に魔方陣が浮かび上がり薄い光に一瞬包まれる。
「…これは、私にも使えますか?」
「昨日渡した指南書の中に書いてあるよ。」
「そうですか…」
本当はお礼の代わりにフィリエにかけてあげたかったのだが、それは無理のようだ。
ぺこり、とお辞儀をして加代はフィリエに見送られながらザイール領を後にした。
加代が目指すはゴザ。加代は地図を拡げて道を確認する。地図は昨日の夜、フィリエが旅立ちの準備をしているところに持ってきてくれた物だ。
フィリエの説明に由るとこの星は六の大陸から成っており、昔は大陸毎に治める国があったらしいが、今じゃ統治がとれているのは今いる大陸のガロール公国だけになってしまったらしい。そのガロールも治安が全て統制できてるわけではなく、辛うじてもっている、というのが現状らしい。地図を見ても、やはり知らない大陸ばかりで、違う星なのだと痛感し一人悲しみに暮れていたのは内緒である。
話を聞けば聞くほど、元いた星との違いに眩暈を覚えるばかりで、この中で唯一救いになったのは加代自身にも魔力があるとわかったことである。言葉がわかるようになって発覚したことだったが、この世界の道具は基本魔力がないと使えないらしい。それはシャワーや貰った指輪しかり。普通に使えてたので、わからなかった。この星の常識ならば、魔力の使い方を覚えねばと餞別として指南書を貰った。この旅の道中で少しずつ覚えるつもりだ。
これからのことを考えながら黙々と歩いていると最初に加代が目覚めた教会に辿り着いた。
「お邪魔しまーす…」
誰もいないのはわかっていても、思わず声をかけて中に入ってしまう。
この先、こうゆう建物があるかもわからないので今日はここで寝ることにした。まだ明るい時間なので指南書を拡げて勉強をする。指輪のお陰で文字も読めるようになっているのは有難い。今朝、フィリエがかけてくれた守護の魔法を探す。
「あった…」
ペラペラとページを捲っていくと、守護とタイトルがついたところを発見する。自分にはかけれないと言っていたので、この建物を対象にしてみることにした。
「ええっと…こうして」
本を片手に地面に魔方陣を枝でガリガリと描く。本来ならアカデミーで基礎からならい、頭の中に魔方陣を思い描くだけで魔法が発動できるようになるのがセオリーらしいが、加代にはそんなセオリーは適用されないのでフィリエは地面に魔方陣を書いてそこに魔力を込めることで魔法が使えるようにする方法を教えてくれた。これを続けていれば、いつかは頭の中で思い描くだけで魔法が使えるようになるかもしれない、とフィリエは自信なさげに言っていた。他に方法がわからないので、加代はそれを実行するしかなかった。
「…できた!あとはこれに魔力を…」
描きあげた魔方陣の縁に手を当てて魔力を込める。魔力の基本的な込めかたは昨日フィリエにみっちり教えて貰った。
魔力が魔方陣に流れ始めると青白く線が光だす。そして、完全に光が行き渡ると元の線は消え光の粒子だけで魔方陣が形成され、魔力を注ぎ込むだけその陣は大きくなっていく、
「これって何処まで大きくなるのかしら…」
加減がわからず、おろおろしだした所で後ろから手首を捕まれる。
「これ以上、魔力を使い続けると動けなくなるよ。手を魔方陣から放して、そう。魔力を切ったらそこで魔方陣は完成する。」
いきなりのことにびっくりしつつも、言葉に従った。
「いやー、凄いね。加護で魔力はあげたけど、ここまでとは!」
「ありがとうございます。あ、の…あなたは?」
振り向いた先にいたのは黒髪で獣の耳をを持った美青年だった。
「私は、そうだね。この時空の神様です。」
いきなり、胡散臭いことを言われ、思わず加代は一歩下がる。
「引かないで!本当はなので!そうだな、今の君の状況を説明したら信じてくれるかな?」
「私のことを知っているんですか。」
「知ってるも何も、君をこの時空に読んだのは私だからね。佐久間加代、17歳。地球、日本生まれ。本当はもう少し君を受け入れる準備を整えてから呼ぶはずだったんだ。だけど、事態は思ったより悪化してね。想定よりも一年も前倒しで君を転移させなければならなくなった。本来ならこの接触もタブーなんだけど、何せこの緊急事態の特例でお許しを頂いてきた。加代、君に期待するのはこの時空の歪みの修正。どうってことはない、君がこの星で普通に生きのびてくれるだけでいいんだ。加護で魔力を与えたけど、先程の君を見る限り魔力に対する適正も問題なさそうで安心した。」
「私は、死んだわけではないのですか。」
「元の星ではそうゆうことになってるかもね?」
「そんな!」
「大丈夫、この星ではちゃんと生きてるから。とゆうか、この星で最後まで生きてもらわなきゃ。安全は保証できないけど、魔力は本物だから!じゃあ、頑張って!この時空の未来は君に託されているんだ。会えるのはこれきりだけど、ずっと見守っているよ。」
「え!ちょっと!まっ!!」
好き勝手に話を進めて、その人はふっとその場から消え去った。
「何だったの…」
よろり、と近くの椅子に座り込み今起きたことを言葉にだして反芻する。
「えっと、私は神様?にこの星に呼ばれて…時空の歪みを治せと言われて…元の星では死んだことになってるかも知れなくて、私がやらなきゃいけないのはこの星で生き続けること?ちょっと待って、最後までって言ってたけど、一生?」
もしかしたら、と期待していた。フィリエには帰る方法を探すために旅に出ると言ったが、もしかしたら、これは夢でいつか覚めるのではと。津波に巻き込まれて、意識不明とかで何処かの病院に入院中で目が覚めたら病室だったとか、あるのではないかと。
「夢、じゃない。帰れ、ない?」
目が覚めてから、これは現実か?と何度も自問自答した。その答えがさっきあっさりと開示され、己の存在意義も示されたがまだ受け入れきれなかった。夢だと思えば獣の耳や、魔法のことも納得できていた。
「生きる、ってどうやって?」
受け入れたようで目を反らしていた現実に本当の意味でぶち当たり、加代の心は乱れた。