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時空の向こう側  作者: 汰弥
第1章
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二日目

ブックマークありがとうございます!

チュンチュンと小鳥の囀りで目を覚ました加代は、隣のベッドにフィリエがいないことを確認してとりあえず昨日着ていた制服に袖を通し、ローブを被った。

寒さ対策のつもりで持ってきたローブだったが、違う意味でとても役に立ったなと思う。ローブと一緒に持ってきた剣を肩から下げ、支度が整ったところにフィリエが両手にパンを抱えて戻ってきた。


『おはよう、カヨ。腹は減っているか?今日は街で買い物をするから先ずは朝食を食べよう。』


フランスパンのような長いパンを手際よくナイフで切り分けフィリエは加代に手渡す。


『よかったら、これを塗って食べるといい。甘くて美味しいぞ。』


懐から小さな瓶を取り出し、スプーンですくってパンに中の液体を塗る。琥珀色をしたその液体は匂いを嗅ぐにどうやら蜂蜜のようだ。勧められているようなので、加代も真似してパンに塗って頬張った。甘い香りが口内に広がり思わず頬が緩むのを感じた。それを見たフィリエがまた穏やかな表情をしていることには気付かなかったが。

大した会話は無かったが穏やかな朝食を済ませた二人はザイーナの街を歩いていた。


『まず、道具屋に行く。翻訳の指輪を購入できれば、カヨと会話が出来るようになるからな。』


何を言っているかわからないがとても機嫌がいいことだけはわかった。わかったが、この繋がれた手はどうにかならないだろうかと、加代は自分の右手をじっとりと見つめる。加代の手をがっしりと掴んで放さない手は大きく骨ばっていて、このまま力を込められたらボキボキと折れるのではないかと少し怖くなった。


『ここだな』


ある店の前でフィリエが立ち止まり、中へ入っていく。店の中には様々な大きさの水晶やラピスラズリの原石などが置いてあるスペースと箒やペン等生活用品が置いてあるスペースがあった。

キョロキョロと店内を加代が見渡している間、フィリエは店主と何やら話し込んでいる。


『カヨ。』


青い石がはめこまれたブローチを覗き込んでいると、フィリエに後ろから呼ばれて振り返った。手招きしているフィリエをみて側による。


『カヨ。これを指にはめてみてくれ。』


差し出されたフィリエの掌には文字が刻まれたリングがあった。

じっと見るだけで、指にはめようとしない加代に痺れをきらしたのか、フィリエは加代の右手の中指にそのリングをつけてやった。


「ちょっと大きいな。」


「!?」


「店主、もう一サイズ小さいものはあるか?」


「ございますよ。少々お待ち下さい。」


「フィリエ…言葉…??」


加代は指輪をつけたとたんに、フィリエや店主の言葉を理解できて逆に混乱をした。


「ははっ、驚いたか?これは翻訳の指輪といってな、簡単な会話ならこれをつけておけばわかるようになる。」


「…すごい。」


「こちらのサイズは如何ですかな?」


「カヨ。こちらのものと付け替えてみてくれ。」


加代は言われた通りに店主が持ってきたひとまわり小さいサイズの指輪と付け替える。


「どうだ?」


「ぴったり。」


指を拡げてフィリエの前に突き出し、指輪の状態を確認してもらう。


「うん。いいようだな。店主、この指輪をいただこう。」


「ありがとうございます。」


さくさくと会計を終わらせたフィリエはさあ、次へ行こうとまた加代の手をとり店を後にした。


「色々聞きたいことがあるが、とりあえず、昼までにあと一軒見たい店がある。もう暫く付き合ってくれ。」


そう言われて次に辿り着いたのは、服を売っている店だった。フィリエ自身の服を購入するのかと思いきや、加代に服をあてがいサイズを見ている。


「フィリエ、私の服は別にいい。」


「何を言ってる。今着ているものしか持ってないだろう?それに、後々必要になる。これと、これと。あと、これもいただこう。」


加代の意思とは関係なく次々と服を選んでいくフィリエ。結局、二着分の着替えと寝間着を一着買って貰うことになったのである。そのうち一着はフィリエの勧めで店から着ていくことになった。猫の耳をかたどったようなデザインの帽子も買ってもらったのでローブを目深に被る必要もなくなったのだった。


喫茶店に入り少し遅い昼御飯を食べながら、フィリエと加代は改めて自己紹介をすることになった。


「改めて、私はここザイーナ領の騎士をしているフィリエ・ラールという。先日はちょうど領地外の見廻りをして帰領するとこで貴女にあったのだが。カヨはどこから来た?会ったときに着ていた服などを見ただけでは私の知りうる領地や国の検討がつかないのだが。」


「えっと…私は佐久間加代。日本という国の海の見える町に住んでいました。大きな地震のあと、津波に巻き込まれて…目が覚めたら古い協会のような所にいて。歩いているところを貴方に見つけられました。あの、日本に帰る方法を知っていますか。」


「地震…か。津波とやらは聞いたことがないのでわからないが、地震なら二三日前にゴザ領で大規模なものが起きていたな。」


日本という国は聞いたことがないが地震が起きたゴザについて調べれば何か解るかもしれない、とフィリエは言った。


「ゴザに行くにはどうしたら良いですか。」


加代がそう尋ねると、フィリエは眉間にシワを寄せた。


「現状のゴザ、いやこのオリネールという星では統治の取れた領地から出ることはあまりお勧めできない。今、この星はとても荒れている。干ばつによる飢饉や、魔物の氾濫。情勢不安による内乱が多くてな。領地外での生存はかなり厳しいだろう。」


「…そんな。」


加代は絶望した。領地外での生存が難しいとか、魔物がいるとかが霞むほど、今いる星が地球ではないということに。

日本ではもちろん、国も違うだろうということは昨日からわかっていた。でもまさか。星すら違うとは…

日本に帰る以前に、昨日までは確信していた自分が生きているのかどうかが疑わしく思えてしまった。


「本来、難民は領主の所にまず行って、この領地で住む手続きをするんだが…カヨはどうしたい?」


本来なら選択肢はない。どんな難民でも領主の所に連れていき、処遇を決めるのだが、カヨはそうしてはいけないと、フィリエの直感がいっている。


「…領地の外で生きていくにはどうしたらいいですか?フィリエは外に出ても生きて領地に戻ってきてた。」


「やっぱり、行くか。」


加代の答を想定していたのか、渋い顔をしつつ何かを決断したフィリエは着いてきなさいと喫茶店を後にした。



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