プロローグ
ふわふわと光の集合体のようなものがある白い空間に集まっていた。
それらは意思を持ってコミュニケーションをとっているようで、時に激しく、動き回ったり、その動きを宥めるような動きを見せるものもあったりと様々な動きをみせている。
そこに送れて新たに光の球が現れた時、その空間は瞬く間に大きな光のベールに包まれた。
光が収まるとそこには様々な格好はしているものの、人の形をした者達が現れ、光の集合体は消え去っていた。
「皆、遅れてすまない」
最初に言葉を発したのは白い服に身を包んだ白髪で長髪の貫禄のある老人だった。
「本当に。貴方がこないことには我々はこの空間で存在を具現化できないのですから。話し合いが進まず困り果てておりました。」
すいと、前に出て獣の耳を持った黒髪の青年が老人に声をかける。
「悪い、悪い。して、状況を確認しようか。」
老人が腕を前にかざすと、手のひらの先に何やら映像が映し出された。映像の先では荒れ果てた大地、荒廃した街並みがある。
「これは、どこかの。」
「は。これは我が管轄。オリネール星です。近年、飢饉や魔物の多発それによる情勢の悪化からの内乱により、生態系のバランスが崩れております。この時空が消滅するのも時間の問題です。」
先程の青年が悲しそうに目を伏せ現状を説明する。
「ふむ。時空が消滅しそうな危機に瀕しているのはオリネールの他、ないかの。」
老人の問いかけに対してそこに在るもの達は、首を横にふる。
「なるほど。では、今現在一番安定している時空はどこかの。」
映像が切り替わり、今度は文明が発展した緑豊かな街並みが映し出される。
「こちらは私の管轄であります地球ですわ。」
すらりとした線の細い、綺麗な女性が声を発する。
「ふむ。オリネールと地球の生態系は似ているかの?」
「基本的な違いはないですが、オリネールと地球の大きな違いは獣人と魔法が存在しているか否かです。」
オリネールを管轄しているという青年が答える。
「あとは、オリネールの発展が我が地球と比べておよそ200年遅れているというところですわね。どのような管理をしたらその早さで文明を途絶えさせられるのか甚だ疑問ですわ。」
「っ!魔法が存在しない時空を管轄している貴様に何がわかる! 」
「貴方が神として無能であることはわかりましてよ。」
ピリピリとした空気が二人の間に流れ、まわりがおろおろとし始めた頃、おほんと老人が咳払いをし場の空気をたちきった。
「わきまえよ。わしらの務めはなるべく多くの時空を長く保つことにある。時空の終わりは勿論あり、それが定めに決められた終わりであれば止めはせん。此度の会議はその定めに乗らぬ終わりを迎えようとしている時空の救済のためであろうよ。理由は様々あるが、これまでもこのような危機は幾度もあった。だが、それはそなたらの能力が至らなかったからではないことは皆わかっていたと思っていたのだがの。」
「…申し訳ございません。」
静かに窘められ、女性は頭を下げる。
「わかればよろしい。では、話を戻そう。聞いてる様子だと文明などの違いはあれど、地球の人間をオリネールに移転させても生きていくことはできそうじゃな?」
「そうですね、グノールのようにそもそも水の中で生活するというような大きな違いはありませんので、移転させた瞬間に死ぬようなことはないかと。」
「でも、私の時空の人間は魔法など使えないのです。それは水の中で生活しろと言われることと同義ではありませんの?」
「ふむ。それもそうじゃの。では、移転させるときに、地球のものに加護として魔力を付与するのはどうじゃ。それ以上の干渉はオリネールの生態系に悪影響を及ぼす可能性があるから、あとは、移転させた人間の能力に頼ることになるが。」
「それでしたら…」
「決まりじゃな。猶予は一年後。それまでに地球ではオリネールに送る人間の選定を。オリネールは転移者を受け入れる時空の体制を整えよ。此度のオリネールの衰弱は近年希にみる非常事態じゃ。時空を越えて生き物を転移させることはそれがどのような結果になろうとも大きな起爆剤となる。転移によりオリネールのみならず今安定している地球の生態系を崩すきっかけにもなるとも限らぬ。だが、此度のオリネール消滅の危機、このまま見過ごせば全時空に最悪の影響を与えることが目に見えておる。この時空を越えて転移を行うことは他の時空にも歪みをもたらす可能性もある。他の時空のものも己の時空の変化に慎重になるように。本日集まってくれた皆には感謝する。それでは、頼んだぞ。」
「「御意。」」