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5話 ブサイク、旅立つ

 その日、燕尾さんは学校に来なかった。聞くと、最近は不登校気味でめったに顔を見せないらしい。

 どうやら軽いイジメにあってるようだ。ブサイクどもが美少女をいじめるなんて、まったくもって度し難い。いや、逆なら許されるなんてことは無いのだけれど。


「なぁ、誰か燕尾さん家の住所知らない?」


「え、何で?」


「今日学校休んでたじゃん。お見舞いに行ってあげようと思って」


「えー、架小川くんがあんなブスのためにわざわざそんなことする必要無いって! それより今日どっか遊びに行こうよ~」


「心配するのにブスとか関係ないだろ? クラスメイトなんだからさッ……」


「え、架小川くんマジヤバい……濡れるんだけど」


 こうして「ブスにも分け隔てなく優しい男」として好感度を上げることにも成功した俺は、無事に燕尾さんの住所を担任からゲットした。個人情報保護の観点から見ても本人の許可無しに渡してしまうのはどうかと思うのだが、イケメン=品行方正というイメージがあるのか簡単に手に入った。


 ここが燕尾さんの住所……そう思うと、何でもないその文字の羅列から芳しい香りが立ち込めているような気がしてくる。俺は思わずラジオ体操第一の最後にやる大きな深呼吸をして、その後鼻を限界まで近づけて警察犬の様に匂いを堪能した。


「んま~~ぃい!!!」


 It’s like a MACA! よしこれでもう大丈夫だ。気力充実健康第一。


 授業も終わり、足早に学校を去ろうとしたその時、思わぬ邪魔が入った。


「あれ、塁くん部活は?」


 声を掛けてきたのはなんと照男だった。こいつ、今俺のことを「塁くん」と呼んだか? いつもいつもデブだのブサイクだの豚だのハゲだの河童だの散々な呼び方をしてきたこいつが「塁くん」だと?


「塁くんが来ないと女子が見に来ないんだから、早く行こうよ」


 そうだ。そういえばこいつはこういう奴だった。俺が前にいた世界でも、クラスの中心的人物の池照くんや藩寒くんたちに媚びを売って取り入り、その威勢を借りてイキっている男。それが壱岐(いき) 照男(てるお)だ。

 髪型や眉毛で誤魔化しているが、はっきり言ってこいつもそこそこのブ男である。ただそのブ男加減も中途半端なので、この世界基準で見てもイケメンと評されるかは微妙なところだ。


 自分では何もできない癖に、カースト上位グループに属しているというだけで俺のような陰キャを見下し、こき使っていた。実に気分の悪い男なのだ。まぁ、それに媚びへつらっていた俺も大概だが。こちらの世界では俺にすり寄ってきていると言うわけか。


「って言うか部活? 俺部活なんて入ってないけど」


「あはは、塁くんは本当面白いな! 君はeスポーツ部のエースじゃないか。スポーツ推薦だって沢山来てるんだろ?」


 eスポーツ部? 何だその地獄みたいな部活名。しかもスポーツ推薦? eスポーツで? 確かに俺は1秒間にボタンを17連打できるが、プロになれるほどゲームスキルが高いわけではない。


「トトリのアトリエ エンディングコンプリートRTAで世界記録を樹立した時の感動はヤバかったよね~。ひたすら水を汲み続ける姿がいじらしく尊くて……」


「俺そんな記録打ち立ててんの?」


 すごい記録だと思うが、それで推薦が取れるって一体何を評価されているのだろうか。美醜の価値観だけでなく、スポーツに対する価値観も変わっているのかもしれない。

 それにしても、アトリエシリーズまでeスポーツとして認められているとは驚きだ。


 だが、今はこんな話をしている時ではない。


「悪い、照男(・・)。今日は用事があるから、部員の皆にはそう伝えといてくれ」


 初めて呼び捨てにしてやった。


「まぁ塁くんがそう言うなら仕方ないか。わかった、伝えておくよ」


 全然気にする様子が無い。こちらの俺は、照男を呼び捨てにするのがデフォの様だ。


「あとさ。明日の昼にアイス食べたいから買っといて」


「え……あ、まぁ。うん……わかったよ」


 今まで扱き使ってくれたお礼だ。こんなんじゃ俺の奉仕の百万分の一にも満たないが、それでも何だか胸のすくような思いがした。あぁ、イキってる野郎を顎で使うのは何と気持ちの良いことなのだろう。


「おっと、早く行かなきゃ」


「じゃあね、塁くん」


「ん、あぁ。じゃあな」


 照男は最初こそ怪訝な顔をしたが、俺の要求を素直に受け入れた。さすがは金魚の糞。プライドというものが無いのだろう。

 だが、今となってはそんなことはどうでもいい。風の前の塵に同じである。


「よし、行くか」


 至るべき場所は桃色の花園。蔓延(はびこ)る百鬼夜行を蹴散らして、俺は真実の愛に生きるのだ。さぁ、待っていてくれ燕尾さん。いや花蓮ちゅわん!

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