4話 ブサイク、画策す
学校に到着すると、俺の推論が間違っていなかったことを確信。イケメンでクラスの中心的存在であったはずの池照くんや藩寒くんが、見事に教室の隅でスマホゲームに没頭する陰の者となり果てていたのだ。きっとネットで対戦した見知らぬ陰キャにファンメを送っている真っ最中であろう。
逆に、俺に次いでブサイクの筆頭であった修阿久が我が物顔で女子を侍らせている。
その様子を全然羨ましく感じないのは、修阿久を取り囲む女子、否、肉塊が目を覆いたくなる無器量揃いだからだろう。
「あ、塁くーん。おっはよー」
修阿久の傍にいた妖怪の一匹が、俺の存在に気づいて手を振りながら走り寄ってきた。見れば見るほどひどい顔なのに、緑や紫色をベースにしたぐちゃぐちゃなメイクが更に台無しにしている。いや、台無しになる台も無いレベルなのだが。鬼かナメック星人か、そんな感じだった。
「むぅん!!」
「ぎぇぴッ!」
近寄ってきた妖怪に対するあまりの嫌悪感に耐え切れず、俺は思わずその顔面に向かって上腕二頭筋を叩きつけてしまった。炸裂したアックスボンバーによって、妖怪はポケモンの断末魔のような妙に愛らしい声を上げながら遠心力で140度ほど回転。そしてそのまま背中から思いっきり落下した。
殺ったか? そう思ったのも束の間、妖怪は元気よくハンドスプリングで起き上がった。何という身体能力。やはり物の怪の類ではなかろうか。
「もう、塁くんったら朝からハードコアなんだから!」
そう言ってウィンク(のような何か)を繰り出してきた。呪われそうなので本当にやめて欲しい。
「あぁ、ごめん」
このレベルの肉塊相手なら俺だって緊張せずに話すことができる。だが、会話を続けたくない。同じ空気を吸っていたくない。
「よう、塁。相変わらずイケてんなー。お、そのカーディガン新しいやつじゃん。どこのブランド?」
にちゃにちゃしながら修阿久が声を掛けてきた。何だろう、何でもない会話のはずなのに妙にムカつく。大体こいつ、ブランドとかわかるのか。遊戯王のカード効果については異常なほど詳しかったみたいだけど。
「あぁ、これ? これは母さんがヨーカドーで買ってきたやつだけど」
「ひゅー! YOkaDOとかマジかよ! やっぱ塁レベルになるとブランド物でもスタイリッシュに着こなしちまうんだな。服が着てもらって喜んでるのがわかるぜ。母ちゃんが買ってきたってところも最高にクール!」
「塁くんって本当おしゃれだよねー」
「お、おう」
頭がおかしくなりそうだ。褒めてくれているということはわかるのだが、自分の価値観と真逆のところで褒められても馬鹿にされているようにしか感じない。だが、眼前にいるブス&ブサイクは純粋に俺を褒めてくれているのだ。純粋という言葉がこれほど似合わない連中も珍しいが。その言葉を無碍にすることはできない。
それにしも、まさかヨーカドーがブランドとして認知されているとは。ブランドって言うか、ただの店舗名の気もするんだが。
「そんなことより……」
そう、俺の目的はこんな異形どもと戯れることではない。この世界でしかできないことを成すのだ。そうでなければ、転生した意味が無い。転生したんだよね、これ。
「なぁ修阿久、燕尾さんの席ってどこだっけ」
「は? 燕尾? 何であんなブスのこと気にすんだよ」
「ブスすぎて学校来たく無くなっちゃったんじゃなーい? ぎゃはははは」
汚い歯茎を見せて笑うな。ロイコクロリディウムに寄生されたカタツムリみたいな顔面しやがって。
しかし、やはりそうか。元の世界では校内一の美少女で、本校開校以来初めて一年生にして文化祭のミスコンを優勝した同じクラスの燕尾 花蓮さん。彼女はこの世界ではとんでもないブスとして認識されている。清楚な黒髪で儚く消えてしまいそうなほどの透明感を持つ彼女には、芸能事務所からも熱心なアプローチが来ていたという噂を聞いたこともあるというのに。
だが、この世界は美醜の感覚が逆転しているだけで、元居た人間の姿かたちは変わっていない。そこにいる修阿久も、通学途中で出会った波野も、母さんも、見た目は変わっていなかった。
と言うことは、燕尾さんも見た目は変わっていないはずだ。それなら、どれだけ周囲の人間がブスだと認識しようとも、俺の目から見れば超絶美少女であることに変わりは無い。
しかもこれまでブスだブスだと言われ続けて来たなら、この世界で指折りのイケメンになった俺からアプローチされて靡かないなんてことは無いはずだ。
「ぐふ、ぐふふふふゅう……」
「何笑ってんだよ、塁。かっこいいじゃねーか」
「本当、塁くんって何してても素敵……」