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3話 ブサイク、覚醒す

 訳が分からない。母さんが嘘をついているようには思えなかった。俺が男前? 一体何がどうなったらそうなる。鏡を見てみても、そこにはいつもと変わらない目を覆いたくなるブサイクがいるだけだった。


「あ、架小川(かおがわ)くん、おはよう……」


「え? あ……あ、あ、お、う゛んっ! オハヨ」


 駅へ向かう道の途中、突然女子に挨拶をされた。そんな経験はもちろん初めてで、俺の受け答えは、異様に早口のキモさ100点満点に痰が絡まると言う技術点が加わって120点ってとこだろう。


 それにも関わらず挨拶の主、同じクラスの波野(なみの)さんは、顔を紅潮させ嬉しそうにもじもじしていた。

 彼女はクラスでも特に目立たない、いたって普通の女子だ。顔は可愛くもブスでもない、日本人の平均顔と言われればしっくりくる感じ。基本的に休み時間中は机に突っ伏して周りの話に聞き耳を立てている俺情報によると、波野さんはジェニーズ系の王子様的アイドルが好きなはず。


 そんな波野さんがどうして俺なんかに声を掛けてきたのだろうか。


「今日はいつもより早いんだね」


「え? あ……あ、あ、お、あぁ……」


「私も今日たまたま早く出たんだけど、朝から架小川くんに会えるなんてラッキー、かな」


「ぅん、あ、ん」


 これは果たして会話が成り立っていると言えるのだろうか。それにしても、家族以外の女子と話すのなんていつ以来だろう。もう思い出せないほど遠い過去の出来事だ。

 俺の受け答えがキモいことはさておき、波野さんは明らかに嬉しそうな顔をしていた。いや、それを通り越してもはや発情したウサギのようになっている。


「な、ななな、波野しゃんって、こここの辺に住んででたんだにぇ。知らなかったんにょ」


「……………………うん、そうなんだ。でも架小川くんとは登校時間が合わなかったから、今日は会えて嬉しい」


 不自然な間が少し気になるが、こうまで言われれば流石の俺でもわかる。いや、ギャルゲーをやりこんでいる俺だからこそわかる。


 波野さんは俺に惚れている。理由は分からないが、とにかく惚れている。間違いない。彼女は可愛くもないがブスでもないし、まぁ妥協してもいいラインだろう。


 どうする? やっちまうか? やっちまってええんか? いや、それは早計か。じゃあどうすれば良いんだ。段階の踏み方がまるでわからない。恋のABC、教えてよ神様。


「架小川くん……?」


「どぅふ!?」


「どうしたの? さっきから何だか上の空だけど」


 やっぱやっちまうか。


 いや待て待て、どう考えてもこの状況はおかしい。ノーメイクでプレデター役をこなせるとまで評されたこの俺に、中の中レベルの女子が好意的に話しかけてくる状況を自然と思うなんてどうかしている。


 あまり考えたくなかったが、もしかしたら今朝見た夢は夢じゃなかったのではないだろうか。


 あの時、神様は何て言っていたっけ。確か、「俺が最も欲していた特性」をくれるとか何とか。

 それが本当だとしたら、次の質問で今の状況の答えが見えてくるかもしれない。


「あ、ああ、な、波野しゃん。わ、01DASHって、ゆうグループ、どぅ思ふ?」


「レイワン? かっこいいよね! 私大好き! ……あ、でも架小川くんの方が……」


 ビンゴだ。ジェニーズ系が好きな波野さんが、あの顔面無残様な連中をかっこいいと評するわけがない。本来なら、絶対あり得ないことなんだ。

 それなのに、波野さんは奴らを肯定した。そして、今こうして俺の眼前で顔を赤らめている。


 テレビに映る人間が、アナウンサーまで含めてブサイクぞろいだったことも、ようやく合点がいった。そう、真実はいつもひとつ!




 この世界では、美醜が逆転している!!




 俺の価値観で言うブサイクはイケメンとなり、おそらく美女はブス扱いになっているのだろう。


「と、言うことは……でゅふふコポォ」


「やだ、架小川くんの吐息マジでかっこいい……」


 ここで波野さんを、いや、波野ごとき(・・・)をやっちまうのは無しだ。俺には無限の可能性があるのだから、下手に妥協する必要なんてこれっぽっちもないのだ。


 俺の頭の中に、天才的な策略が(懐かしの)ニコニコの弾幕の様に溢れ出してくる。


「あっはっはっは! 神様! ありがとうマジで!!」

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