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第90話 立ち上がる復讐心

「なんで?」

「ああ? うるさい! お前に構ってる余裕はねえんだ!」


 ザハルは必死に瓦礫に埋もれた兵士の救出作業を進める。上空にいる最も脅威である筈の八基感情(ポルティクス)上位体(ファースト)を前にしてもザハルの意識は一心に兵士へと向いていた。


「そいつは()の友達を殺したも同然の国の癌」

「関係ねえ。だとしてもそれを従えているのは他でも無いオレ達一族だ」

「分からない……そいつは()の憎しみの種」

「お前に何が分かるってんだ!」

「分かる……憎しみを通じて全て感じる。出来損ないから伝わってくる……」


 漸く埋もれた兵士を救い出し、瓦礫にもたれ掛けさせる。優しく、痛みに顔を歪める兵士にこれ以上の刺激を与えぬ様に優しく。


「あ、りがとうございます……このご、んぐ……この御恩は必ず」

「構わん、生きてまたオレの為に尽くせ。先ずは生きろ」

「は……い」


 ゆっくりと立ち上がるザハルは改めて上空に漂うヘイトを睨み上げる。


「まだ何か言う事はあるか憎しみ野郎」

「野郎じゃない……女……」

「どうでもいいんだよ。それよりそろそろ顔を出しな。いい加減実態の無い奴に話しかけてる様で気持ち悪いんだよ」

「心外……」


 気持ち悪いと言われると流石に癪に触るのだろうか。ヘイトは歪んだ空間から漸く姿を現す。

 その身体は声から想像した通り少女だった。少女が着るには大きすぎる深紫色のノースリーブのワンピースを着ていた。だぼついた服からは如何にも不健康そうな血色と身体つきをしている。ガリっとやせた肩と浮き出る鎖骨。ワンピース以外は何も身に着けておらず、勿論素足である。

 髪の毛は言うまでもなく深紫色で目元付近まで伸びたマッシュショートボブ。血の気が引いた様な顔色とそれを更に印象付ける様な気怠そうで虚ろな表情は無関心という表現が正しい。深く暗い瞳には闇を感じざるを得ないだろう。

 左の鎖骨から胸まであろう位置には八基感情(ポルティクス)上位体(ファースト)のみに有ると言われる固有の感情紋様(クレスト)が刻まれていた。一つの目玉とそこから何かが垂れている、まるで一つ目と口から涎を垂らした様な紋様は、ただただ不気味である。

 しかもヘイトはクッションの様な紫の物体に座っており、それにも同じ紋様が全体に刻印され一体の生物の様に見える。全体像で言うなれば不健康な少女が人をダメにするクッションに座っている状態である。


挿絵(By みてみん)


「チッ、存在感から相当だとは思っていたがその紋様を見て漸く実感したぜ。上位体(ファースト)固有の紋様は、あのババア以外のは見た事が無かったがやはり間違いない様だな」

「エクスの感情紋様(クレスト)は趣味が悪い……」

「フンッ! 知ったこっちゃねえよ。何が恍惚のエクスだ。らしい名前を付けただけの快楽ババアじゃねえか。自分の快楽の為には手段を厭わない奴だ、趣味が悪いのは今更だろ」

「フフフ、言えてる……」

「笑わせたつもりはねえが」


 ドライな突っ込みにヘイトは機嫌を損ねた様に眉間に皺を寄せる。しかし、どこかその場の会話を楽しんでいる様にも見えた。


「お前と喋っている暇はねえんだ。こうなっちゃ仕方ねえ。二体纏めて相手してやる」


 ゆっくりと膝を曲げ、斧を肩に担いだザハルはゆっくりと静かに息を吐き、地面を力強く蹴り上空へと飛び上がった。鋭利な刃先と重量のある斧はヘイト目掛けて振り下ろされた。しかし、浮遊するヘイトは難無くザハルの斬撃を避け、ふわりと弄ぶ様にゆらゆらと揺れている。


「舐めてんのかテメェ!」

()とはもっと話してみたい。エクスの悪口は趣味が良い……」

「さっきからオレの事を角って呼ぶんじゃ……ねぇよッ!!」


 再び飛び上がり斬撃を繰り出すザハルだったが、やはり当たる事は無かった。


(チッ、上空にいるから影も捉えられねえし伸ばす事も出来ねえ。相性が悪いな……)


 ザハルの苦手分野は上空戦、影の届かない上空を自由に移動する相手だった。迎撃に関しては申し分無いのだが、こちらから攻撃を仕掛ける事に関しては不得手だった。

 攻めあぐねている中、状況を変えたのは沈黙していたディスガストだった。再び咆哮と共に動き出したディスガストは、何故かザハルとは反対方向へと尾を振り回し暴れ始めた。


「あのクソドラゴン、余計な事をしやがって」


 原因はドラドラだった。主人であるタータに注意が向かぬ様、怯んでいるディスガストへ追撃を行っていたのである。


「ご主人様を傷付けさせる訳にはいかないのヨ! たかが中位体(セカンド)如きに劣るアタシじゃないのヨ!!」


 ドラドラは縦横無尽に飛び回り、執拗にディスガストを攻撃していた。


「ありがとうドラドラ! ミルっち、大丈夫?」

「うん、ありがとうタータん。大丈夫、アイツの言う通り。簡単に揺さぶられる様じゃ復讐なんて出来ないよね……待ってて」


 ミルはほんの僅かの時間で何かが吹っ切れた様子だ。それでも完全に晴れた訳では無いだろう。ゆっくりと立ち上がり、軽く屈伸をした後に短刀を握り締める。


「ミルっち……」

「大丈夫だって、心配しないで。あんな奴に殺られる訳にはいかないの」

「ううん、違うの」

「うん? どったの?」

「……いや、なんでもない! どうせミルっちの障害にはならないよね。うん、そうだよね!」

「??」


 タータは何かに気付いた様だが、ミルの背中を押した。


「行くんだミルっち! そなたは強い!」

「それ誰の真似?」

「リムっちがなんか前に言ってたの♪ これを言えば勇気が出るぞーって♪」

「アハハ! そっか! 全然何も思わなかったけどね☆ よーし、ザハル君をぶっ飛ばしに行きますか!」

「行ってらっしゃーい♪」


 ミルは再び明るく復讐心を燃やす。決して相容れる事のない筈の二つの感情。晴れた気持ちで復讐する、一体当人はどの様な思考をしているのだろうか。


「ザハルー!! 成敗じゃあああ!! ミルはもう止まらない!」

「チッ、また面倒臭い奴が来やがる。今お前に付き合ってる暇はねえんだ!」


 やはり速い。ザハルは遠くにいたミルに話掛けていた筈だったが、返事はザハルの真後ろからだった。


「そう? こっちは君にしか用がないんだけどな☆」

「クソがぁあああ!」


 一度相対した事のあるザハルは既にそのスピードは把握していた筈だった。しかし、一瞬反応が遅れた。気付いた時には既に目の前に刃先が迫る。


「ありゃ、避けられたかぁ。ってどこ行った? あれ?」


 ザハルは忽然と姿を消していた。その戦闘を上空で静かに見つめるヘイトは深く考え込んでいる様子だった。


「あの子、それにドラゴン……確か西の。それにホワイティアの……ふーん」

紋様は作者公認。


Actさんより頂きました!


ありがとうございます!

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