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第81話 一歩の重み

――――ウエストブラック 反乱軍サイド。


「クッ! 凄い圧だ。怪物が動き出したのか?」

「カエノ―! 大変だ!」

「どうしたッ!?」


 再始動したディスガストは、ブラキニア全土が分かる程に咆哮を轟かせていた。身体を震わせる程の低周波空気振動。人々は耳鳴りに苛まれ、塞がざるを得なかった。


「ノースが例の怪物に一撃でやられた! 黒軍(こくぐん)兵はもう機能していない! ハル達は……」

「ハル達は無事なのか!?」

「……分からない」


 カエノはノースブラックに立ち上る無数の煙を見上げ考え込む。既にセントラルブラックとその周辺に放たれた火矢によって、イーストを除くほぼ全土が火の海になっている。


「おっとっと。何立ち止まってるの? 先に行っちゃうよーう♪」

「よーう☆」


 後から続いてきたミルとタータは、立ち止まるカエノを横目にすたすたと走り抜けて行く。


「何故アイツ等は走れる……」

「カエノ、行こ? とりあえずこのままじゃダメな気がする。ノースのハル達が心配」


 アサメは、立ち止まるカエノを後押しする様に優しく声を掛けた。しかし、カエノの足は急激に重くなる。まるで鉄球に繋がれ枷を嵌められた様に重く、冷たく、どんよりと。


 計画は単純明快だった。革命と銘打ってブラキニア城周辺に火を放ち、リユーの風によって燃え広がらせる。周囲の駐屯兵は足止めを食らい、怒りで冷静さを欠いたザハルを誘き出し、反乱軍で一網打尽にする。

 だが、計算外な事が一つ。怪物、≪嫌悪≫のディスガストだった。計画の為に伏していたノースはいとも容易く陥落。只々戦力を削られ、街は虚しく燃える。

 ノースブラックの壊滅的ダメージを知り、急に冷静さを取り戻すカエノは、ここに来て躊躇いが出ていた。これが成そうとしていた革命なのか。国を焼き、敵味方諸共死に追いやり、無力の一般市民までをも巻き込んだ。


 反乱の狼煙を上げてまだ間もない。だが、既に何人死んだか分からない。年寄りから赤子まで。遠くでは親を探し泣き喚く子供。しかし、既に遅い。切られた火蓋を消すことは容易では無い。それでもカエノは目前に広がる凄惨な光景に足が竦んでいた。

 それなのに何故、何故あの二人はあんなにも軽快に前へ進めるのか。知る由も無い。ミルもタータも、カエノには想像も出来ない程の苦汁を舐めて来た。彼女達からすれば国の内乱など、当に経験済みである。

 だがカエノも生半可な決意では無い筈。それなのに何故こうも違うのか。簡単である。単に戦争というモノの経験、それだけだった。目の前で切られ朽ちていく仲間達。やらなければやられる、慈悲を与える暇さえ許されない戦場。余程の胆力が無いと気を保ってはいられないだろう。


 カエノにはそれが足りなかった。若さ故では無い。想像はしていた筈だが、事を起こすには余りにも安易だった。覚悟が足りなかった。同じ年頃のミルやタータ、ザハルまでもがそう。相当数の経験を積んできた彼らには遠く及ばない。悲愴感だけで事を起こしたカエノとは違うのだ。


「アサメ……」

「酷い顔してるよ、カエノ」

「ハル達の所に行こう」

「うん」



――――時を同じくしてサウスブラック 反乱軍サイド。



「リア! ノースが壊滅した!」

「えッ! どういうこと!?」


 リア達、サウスブラックの反乱軍にも直ぐに報せが届く。


「さっきのけたたましい声ってもしかして怪物?」

「ああ! 怪物が動き出した! ノースはその怪物に一撃でやられたんだ!」

「ウソ……」


 リアは瞬時にハルを思い浮かべた。苦悩を共にし、互いを想ってきたハルや仲間達。

 ある程度の損害を考慮した代替案は勿論あった。しかし壊滅、計画の破綻に繋がる事は丸っきり頭に無い。計画の失敗、即ちそれは死を意味するからだ。


「ハルは……ハルはどうしたの!?」

「落ち着け! 今は心配だろうがこっちも状況が把握しきれていないんだ! カエノ達にも報せは行っている筈だ。どうする?」


 視点の定まらない程に動揺し切っているリアは、思考が及ばなかった。しかし、優しく掛けられた言葉に勇気を貰う。


「リア姉ちゃんボク、ハル兄ちゃん達の所に行きたい」

「え、ええ」

「これからどうすればいいか正直分からないけど、カエノ達も多分ノースに向かったと思う。だから皆と合流しよ?」

「ここはどうするの」

「任せろ! 先頭に役に立たないお前等二人くらい居なくても問題ねえよ! ってのは冗談だが、治療できる人間は幸い数人居る。お前らは合流してみんなを引っ張ってくれ! それがオレ達の未来に繋がるんだ!」


 反乱軍の一人により叱咤激励され、リアはゆっくりと深呼吸をする。


「……分かったわ、ここはお願い! 必ず合流してみんなの元に戻ってくる!」

「こっちに来る必要はねえ! どの道セントラルに向かうんだ。そこで落ち合おう!」


 近くに居た数名の反乱軍にアイコンタクトを送り、リアとリユーはセントラルを迂回する様にノースへと駆けて行った。


「オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォオオオオ!!」


 ディスガストの慟哭は尚も続く。

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