第58話 それぞれの役目
「ところでさ、この城に入ってからオレの能力が使えなかったのになんで図書室で使えるようになったの?」
「私の力です、それも説明が必要ですね」
リムは両の手を見つめながら白王リリに問い掛けた。
「既にご存知だとは思いますがこの城を含め、周辺は私の能力の範疇です。私の力、真実の眼は真実以外語る事を拒みます。勿論貴方の曖昧と呼ばれる力も」
「よく分からなかったけど解いたって言ってたね」
「そういえばドラドラも近付けないって言ってたけど来れる様になったみたい」
「この世界は各色勢での争いが耐えません。更に私達、光の色星に属する者達と色の色星に属する者、この二つは二分されています。なので私の力は特に、色の色星へ対抗しています。タータさん? だったかしら。貴女は色の色星の元に属する人間。その色獣とあれば嫌うのは当然でしょう」
「だから白星の泉にも近寄らなかったんだね♪」
リムは考えた。光の色勢内でも争い、色の色勢内でも争う。更には光と色同士の確執もある。虹の聖石を目的とした光の色星内での争い、だが色の色星内での争いの種は何なのか。
「じゃあなんで色の色星のタータが城内に入れる?」
「タータもそうだが、黒軍のザハルも侵入してきた。どういう事だ?」
リムとドームは顔を見合わせる。
「先程もお伝えしました。あくまで私の力は真実を語る為のモノ。決して入れない訳ではありません」
「じゃあシラルドの鏡の力は何故働いていたんだ?」
理屈は簡単だった。幻影を映し出し惑わせる彼の力は強大だった。ただそれだけの事。
「彼は非常に厄介な人でした。彼の力は色素に直接作用するもの。流石に真実の眼を使用している本人である私には効きませんでしたが」
「えっ!?」
シラルドの力は囚われたオルドールの二人にも作用していた筈だった。
「白星に選らばれた程の私が簡単に堕ちるとでも思っているようですね」
「おおう、ごめん。まだよく分かって無いんだ」
「私は元よりシラルドに操られてなどいません。彼らの思惑は把握しておりました。ですが、リム? 貴方が起点となりロンベルトが事を起こしてしまいました」
「そんな事言われてもよお」
不可抗力とはこの事。リムは自然と争いを巻き起こし、流れではあるが収束に一役買った訳だが、撒かれた種の成長を促進したようなもの。収める為に動くのは当然であろう。
「五清白も全てロンベルトの息が掛かっています。私を警戒して目付け役となっていました」
「じゃあ!」
「ええ、今後は仇敵として接触してくる事は明白ですね。ですが流星の衝突の折、五清白、五黒星共に消息は知れません。旅をするにあたってこの二組が障害となる可能性は大いにあるでしょう」
「なあああんでだよおおおおお! めんどくさいなあ!」
リムは頭を抱え項垂れた。結果的に双方から狙われるハメになってしまった曖昧なる使徒。この世界に降り立った時から決まっていた事なのだろうか。
「ねえねえ、旅ってなに? どゆこと? どっかいくのリムちん」
「話を聞いてなかったのか? こいつら二人を開放せにゃならんらしい。先ずはブラキニア領に行こうと思ってる」
「行くッ!!」
ブラキニアの名前が出た途端に、ミルが物凄い剣幕でリムの顔面五センチへと迫って来た。
「へ? だってお前、漸く落ち着いたのにまたどうして」
「行くッ!!」
リムとミルの鼻がくっ付いた。というよりかは押し付けている。リムはこの状況に嬉し恥かしという感情しかなかった。理由はともかく可愛い娘に鼻が付く程言い寄られているのだから。
勿論ミルはそんな感情などは一切無い。あるのは故郷オルドーの村を焼き払った仇敵の事のみ。
「分かった分かった! とりあえず一端離れようか。もうちょっと続けてもいいけれども。でもそうしたら……」
リムはドームに目をやる。腕を組み静かに目を瞑るドームは何も言わない。
「そういう事になるよなあ。って事はタータ、お前もか?」
「行く♪ ミルっちと一緒じゃないとイヤだもん。それにブラキニアなら少し居たからちょっとは案内できると思うよ♪」
「は、はぁ」
リムは先が思いやられた。一人で突っ走り気味のミルに、肝心な時の物忘れが致命的なドーム。食費だけが異常に嵩むタータ。心配事しか無かった。
「待って! それじゃあホワイティアはどうするの!? ミル達が居るからまだなんとかなると思っていたのに!」
エミルが声を上げる。流石に一人でこの国を治めるには相当な苦難を強いられるであろう。しかし、リムは落ち着いていた。ダンガに視線を送り、軽くウィンクをする。
「心配ないだろ。いるじゃないか、心強いのが一人」
「わ、私ですかッ!?」
「うってつけじゃないか? オルドールの守護者としてこの国を守るんだよ、ダンガ君」
「そうね、いいでしょう。白王の名の元、ダンガ・リタール。貴方にホワイティア軍の総指揮権を与えます。恥じぬ様に努めなさい」
即座に左膝を付くダンガ。深々と頭を下げ、剣を床に突き刺した。
「不肖、このダンガ・リタール。謹んでお受け致します」
「期待しています」
暫しの談笑を挟んだ後、各々は準備に取り掛かる事にした。
己の内に居る白黒の王の解放、リムはその先を見据える程の余裕は無い。
生死を共にし、磨かれてきた短剣とじゃれる様にジャグリングをするミル。
フィンガーレスグローブを嵌め直し、指をポキポキと鳴らすドームはミルを守る一心である。
特大のとんがり帽の鍔を摘み、位置を調整するタータは今晩の食事のことしか頭に無い。
白王リリから突然の指揮権を賜ったダンガは、突き立てた剣を抜けず手足が震えていた。
出立する四人を見つめるエミルは、旅の無事を祈り胸に手を当てる。これからこの国を統治する自分を落ち着かせているかの様に。
これよりリム一行、それぞれの思惑の元ブラキニア領に向けて出立する。
――――――
とある屋敷。
「ねぇねぇ、マンセルぅ。大丈夫なのー? あんな奴らで」
「問題無いだろう、まだ力は弱いがいずれ……それよりオスワルト、例のシステムは大丈夫なんだろうな」
「うん! バッチリん! こっちも今のところなぁーんにも問題無しって感じかなッ」
「分かった。だが念の為、守護している三人には特段の注意を促しておけ。特に青王の軍勢にはな」
「あいあいッ」
「それでは少し刻を進めよう……」
木製のロッキングチェアーに揺られるマンセルと呼ばれた一人の男と、その周りを楽しそうに走り回るオスワルトという少女の影があった。
全てを見透かしている様なこの二人は何者なのか。システムとは……。
――欺瞞の白――編 完。




