第49話 ロンベルトの力
――――ホワイティア城 とある一室。
「オレは……なんでこんな所に居るんだ?」
一人目覚めたダンガは、ベッドに横たわっていた。彼はドームの色力により気を失い、その後一同と共にホワイティア城に運ばれていた。既にザハルの影による支配からは解かれており、意識を取り戻している。
「オレは確かオルドーに攻めてきた黒軍と対峙していた筈。何故ホワイティア城に……」
ダンガはザハルとの戦闘時に影により操られ、以降の記憶が全く無かった。ゆっくりとベッドから起き上がり、痛む身体を押さえつつ立ち上がる。
「痛っ! こっぴどくやられた様だ。オルドーは堕ちたのか。だがここに運ばれたって事は誰かが? ここはまだ堕ちてはいない様だな」
窓辺に立ち外を見つめるダンガだったが、一安心も束の間。断続的に硬い物が倒れる音が、ダンガの居る部屋へと響いてきた。
「っ!? 下か?」
軋む身体に鞭を打ち、部屋を出たダンガの目に入ったのは、上階へと駆け上がっていくミルとエミルの姿。
「ノル様……!? とエミル様! お待ちください! 何があったのです!」
「ん~? あ、ダンガ君ではありませんか☆ 元気になったー?」
「私の事などお気になさらずに! それよりも、なぜノル様がここに!?」
「その呼び方は止めてよー! ミルでいいから! 今から兄やの応援に行こうかと思ってね☆」
階段で忙しなく足踏みをするミルは、ダンガも来る様に促す。
「え? 応援と言いますと? 城内で何が起こってるのです!?」
「んー……オルドールの反乱? ほら! 早くダンガ君も行くよっ☆」
「は、反乱!? どういう事です!!」
勿論ダンガは一切状況を理解していない。当然である。オルドーでザハルの支配から先程解かれたばかりなのだから。
「あーもう! 時間が無いの! とりあえず、オルドールの危機なの! ダンガ君はどっちの味方なの!」
「ど、どっちと言われましても。私は元来オルドールに仕えてきた者。愚問でありましょう!」
「んじゃ、早く行くよ! 走りながら説明するから☆」
「は、はいっ!」
――――
「そ、そんな事、信じられません! ロンベルト様が……」
「信じなくてもいいけど事実なの!」
「それにエミル様もオルドール家だったとは」
「私も驚いたわ。でもミル達が嘘を付いてまでホワイティア城に攻めてくる利点がありませんもの。ロンベルトは最初からこのつもりだったのよ。私達を謀り、己の野望の為に多数を犠牲にしてきたわ」
走りながらの会話は流石に息が上がっていた。しかし、ミルの呼吸は一切乱れる事無く、平然と会話を続けている。彼女の体力は計り知れないものだ。
「リリ姉ちゃんは何処にいるか分からないけど、とりあえずエミル姉ちゃんは救えた。後は兄やを援護してロンベルトを討つ。故郷を滅ぼした国なんかに仕えたくないもん」
ミルはこの国の行く先を視ていた。オルドーの村も焼かれた。どの道居場所が無い以上、この国に留まる意味は無い。
「しかし、ロンベルト様、いやロンベルトを討つ必要までは!」
「あいつは白王の座を狙っている。オルドールの血筋が残っている以上、執拗に狙ってくるよ?」
「ですがミル? ロンベルトの力は絶大よ? どうするつもり?」
「知らなーい☆」
真剣なのかふざけているのか。全く読めない性格である。
「さ、そろそろ玉座の間だよ☆ ダンガ君、気張っていこー☆」
「ええい! どうにでもなれ!」
既に開かれている玉座の間の扉。室内からは騒がしい音が聞こえてくる。
「ロンベルト! 白軍辺境防衛隊隊長、ダンガ・リタールが相手だ!」
勢いよく啖呵を切り、玉座の間へと飛び込んだが、目に映ったのは無数の網目状の光の刃。
「これで終わらせてやろう! 諦光斬!」
「こんな所で死ねるかああ!」
無数の傷跡に血だらけの床、膝を付くドームはもはや虫の息。
「兄や!!」
ミルは言うが早く姿を消し、一瞬でドームを救出する。
「く……かはっ! ミルか……やはりアイツは強い」
「いいから喋らないで!」
「フンッ! 何人増えようが構わん。掛かってくるがいい」
ドームが放った煙が、玉座の間をユラユラと漂っていた。
「ロンベルト、何故です! そこまでして白王の座に拘る理由は何ですか? 私達に良く仕えてくれました。貴方は生涯ホワイティアに尽くすと仰ったでしょ!」
「そうだ、私は元よりホワイティアの為に動いている。エミル様、いやエミル。お前のお守りは所詮リリに取り入る為であって、オルドールに仕えているなどと思ったことは無い」
自身の剣を振り払い、周囲に広がる煙を一掃した。
「目障りな煙だ。お前らの様な形を成さない白はこの国を創れない。私の光によって国を照らし、対する黒の影より救う。それにより再び祖先であるホワイティアの栄光を世に示すのだ」
ロンベルトの細めた目はエミルを冷たく見つめる。
「ですが、貴方は知っている筈です。リリ姉様がいる限り白王の座は有り得ません」
「最早、白王などどうでもよい。力ある者が君臨するが道理。生温い為政者に平和ボケした民、一度ハッキリさせておかねばならん。世は未だ戦乱の最中なのだよ。虹の聖石も行方知れず、それにお前も知っているだろう? 鍵の石板の存在を」
ロンベルトは左の掌を広げ、ビー玉程の光を無数に発生させた。
「何故貴方がそれを!?」
「フンッ! 知らぬとでも思ったか。既に各色勢の中でも一部の者は、虹の聖石に留まらず、鍵の石板の捜索も進めている。虹の聖石だけでは、この世を統べる事は出来ないのだよ」
小さな光の玉はゆっくりと頭上にあがり、徐々に肥大していく。
「エミル姉ちゃん、きいぷれえとってなーにー?」
「話が過ぎたな、お前には知る必要の無い事。さあ、覚悟してもらおうか!」
「マズいあの技は! エミル、退け!」
ロンベルトは剣を頭上に掲げ、目を見開いた。肥大した無数の光の玉は徐々に収縮し、ロンベルトと同じロングソードへと変化していく。
「私の刃は光その物。私の意思により具現化し対象を切り刻む。防ぐ事はできぬぞ、光その物に触れる事は出来んからな」
「私だって剣士の端くれ! オルドールの未来をそう簡単に諦められる程、柔ではありません!」
「その意気や良し! そのまま切り刻まれるが良い!! 光刃驟雨・連!」
ロンベルトの一喝と共に、具現化した剣がエミルを向く。連なった刃は、人間の身体には耐えうる事は不可能だ。
「エミル! 逃げろおおおっ!!!」
ねえねえ、なんでお父さん動かないの?
ねえねえ、なんで返事してくれないの?
ねェ、なンで黒王様は助けテくれなイの?
ネェ。




