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第190話 最強の一端

 城内が揺れている。いや山が、城が、島全体が轟音に包まれた。

 ルシエの爪撃と防ぐドラドラの尾は均衡を保ちながら凄まじいまでの圧を生み出す。


「う、なんて圧だよ! ドラドラァ、大丈夫かぁ!!」

「こんなものは慣れていル」

「こんなものだってェ!! 生意気な事言うんじゃないよ!」

「フンッ!」


 ルシエを身体ごと弾き返すドラドラは涼しい顔をしている。それに比べてルシエは怒りの形相をしていた。


「アナタが出て行ったばかりに状況は悪くなるばかり! 耐えに耐えて来た私達の事なんて気にしてないみたいに涼しい顔をして。帰ってきたと思えばなんだこの蝿共は!!」

「ならばお前の爪を受ければ気が済むのか?」

「済むもんか! 何百年もの憂さを漸く発散できる相手が、しかもその張本人が来たんだ。爪で引っ掻いたくらいで終わると思わない事ね。その肩に、その腕に、その脇腹に嚙みつき牙を食い込ませて噛み千切る!」

「相変わらず情動的だナ」

「舐めやがって!」


 再び前傾姿勢からドラドラ目掛けて飛び込むルシエ。局所的に強い力が掛かる踏み込んだ床には、くっきりと足跡が残っている。

 無尽蔵に振り下ろされる爪を、腕を組みながら平然と尾でいなしてくドラドラはまるで別人。軽く緩んだ口元からは楽しんでいるかの様にも見えた。


「お、おい。どうなってんだよ」

「リム、さっきからお前が声を掛けているあの竜人は誰だ」

「ん? ああ、ドームとミルはまだ知らないんだったな。あれはドラドラだよ」

「え? ドラドラっていつもタータんと一緒にいるでっかいドラゴンだよね!?」

「ああ、オレも最初は驚いたけどどうも同一人物で間違いなさそうなんだ。あのカマ野郎が実は男だったなんて」

「それはお前が最初から言っていた事だろう」

「いや、そうなんだけどさ。頑なに女性だって言い張るじゃん? なんか本当に女なのかなって思えてきた矢先だったからさ。仲間を信用する必要があると思って」

「そこはどうでもいい部分な気はするが」

「あーあ。こうなったら止まらないよ」


 三人が話している所に歩いて来たのは、竜人兄妹とタータだった。ルシエを良く知るラフームとラーハム。ドラドラを良く知っている筈のタータは、始まったかと言わんばかりに呆れていた。


「かあ……コホン。姉さんが癇癪(かんしゃく)を起す事なんて稀なんだけどね」

「あ、ラフーム兄さんまた間違えた。姉ちゃんがああなったら数日海が荒れるよ。海をなだめる役目は親水性の高いラフーム兄さんだけどね」

「はあ、また潜らないといけないのか」

「あれがルシエっちかあ。ドラドラから話だけは聞いてたけど強そうだね♪」

「そういえば君は誰だい? えーっと、ドラドラと呼んでいた彼とやけに親しそうな人間に見えるね。僕達以外に彼を知る者がいるとは思えないんだけど」

「ん? ドラドラはタータと契約を交わしているの♪ んーっと、なんて言うんだっけ。世間では色獣(しきじゅう)なんて呼ばれてるのかな」

「色獣、そんな低俗に落ちたの? ねえラフーム兄さん、これって……」

「いや、分からない。彼がわざわざ低位に就くとは思えない。何か意図があるはずだよ。タータとか言ったね、彼とはどんな契約を交わしたんだい」

「ん? えーっとなんだっけな。あ、そうそう! タータがご飯を用意してあげるから、タータにもご飯を用意してねって♪」

「……」

「竜人君達、暫く行動を共にしてきたオレから言おう! タータは飯の事しか頭に無い! そんな小難しい事は本人に聞くべきだと思うぞ」

「横から入って来てなんだよ……ん? 灰色、見ない色だね。アンタは誰なの?」

「オレ? オレは、この世界をなんとかする為に奔走しようと意思を固めたばかりの、ばかりの……」

「変態☆」

「ミル! お前がそれを言い始めたから、オレに対する周囲の視線が変態を見る目になってるんだよ! もう少し柔らかく表現しろ!」

「変態属性だと言う事は否定しないんだな」

「それだよそれ! お前らオルドール兄妹がそうやって右から左から被せて来るからオレが言い逃れ出来なくなってるんじゃないか!」

「事実を言われて逃れられるのは嘘つきだけだろう」

「ぐぎっ」

「な、なんなんだ君達……」


 纏まらない自己紹介を余所に、ルシエとドラドラの衝突は止まる気配が無い。


「ああ? なんだって? もう一度言ってみな! 私の何処が悪いだって!?」

「その性格だろウ。気に食わないとなればなりふり構わず突っ込んで破壊しに掛かル。情動的過ぎるんだヨ」

「周りが脆すぎるだけよ! だからいつもこうやってアナタに八つ当たりするしかないんじゃない!」

「まあ、それもそうカ。で、もう気は収まったカ?」

「それよ! アナタはいつもそうやって私を見下す! それが更に私の怒りを買ってる事が分からないの?」

「仕方無いだろウ。事実お前はワタシより弱い、それに付き合うワタシの身にもなったらどうダ」

「んだとおおお! 絶対許さないからね! もうイイ!! もう決めた! こんな島に留まるのはもうやめた! 山ごと消し飛ばしてやるよ!!」

「出来るならとうにしているだろウ」

「その見据えた言葉が癪に触るって言っているの、よッ!!!」


 くるりと身を翻して後方へ飛び退いたルシエは、身体を身震いさせると周囲の空間に水を出現させる。ボコボコと何も無い所から現れる水が、次第にルシエの周囲に渦となって廻り始めた。


「ハァ、本当にやろうってのカ。どうしたものカ」


 次第に加速していく渦。水量も増え、小規模の水の竜巻となっていく。飛び散る水の勢いは凄まじく、高速回転から弾き出された水が城内の壁に穴を空けていく。


「う、うわぁ! ヤバイヤバイって! みんなこのままじゃハチの巣になっちゃうよおおおお!」

「リムッ! 今コイツが暴れると本当にマズイ事になル! この状況で抑えられるのはお前しかいなイ!」

「え? そんな事言ったってこんなヤバそうな力をオレがどうにか出来ると思ってるのかよ!」

「もう忘れたのカ! この世界の力は全て色力(しきりょく)ダ!」

水竜激海嘯(レヴィアタン)ッ!!!」

「ッッ!!! 任せろ! ならその役目はオレの専売特許だぜ! 曖昧な領域(グレーゾーン)ッ!!!」


 無造作にうねり狂う水の竜巻が、意思を持ったかの様に形を変えた。まるで蛇の様な竜巻が辺りを飛び回り、触れた物を削り取ってゆく。

 リムはドラドラの言葉で以前に言われた事を思い出した。彼の能力は吸収。即座に両腕を荒れ狂う水蛇に向け色力を込めた。だが無尽蔵に動き回る水蛇の進行方向が読めない。


「ああああ! ニョロニョロと動くなっての! ならこうだ!!」


 右へ左へと動き回る水蛇の身体全体を覆い被せられる程に、特大の曖昧な領域(グレーゾーン)で包み込んだ。意思を持つ水蛇は曖昧な領域の壁に触れる事を嫌がっているかの様に身を縮め始める。予想通りと踏んだリムはすかさず壁を狭めていき、次第に行き場を失くした水蛇が壁に触れ、吸収されて無くなっていった。


「グオオオオォォォ……」

「ふぅ、とんでもねえもん生み出してくれるぜ」

「私の、水竜激海嘯(レヴィアタン)が……お前、この野郎!」

「やめとけ」


 標的がリムに変わり、襲い掛かろうとしたルシエを止めたのはドラドラだった。ルシエの肩をしっかりと抑えつつも、痛みを与える事の無い思いやりを感じる力加減。ドラドラの手を見て、それまで強張っていた身体の力が抜けていく。


「クソッ。その温もりを今更出してくるんじゃないよ……」


 こうしてルシエの癇癪はとりあえず収まったのであった。

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