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第189話 対面

「ほ、本当にドラドラなのか?」


 リムは竜人から四足歩行の竜へと変態したドラドラに困惑するしかなかった


「あら、漸くワタシの名前を言ったワネ。まあ本当の名前じゃないんだけド」

「そんなこったろうとは思ってたけど。だって容姿そのままの安易なネーミングだったし、疑問しか無かったよ」


 頭の先から尾の先まで立派な姿を呆れながらに見渡すリム。


「なにヨ。良い名前じゃなイ! 御主人様が付けてくれた名前ヨ! 馬鹿にしないでくれル?」

「良い、のか? ってかタータは本当の名前は知ってんのかよ」

「知らない♪」

「ええ……」

「だって別にどうでも良くない? 出会った時からドラドラだもん♪ それ以外があってもタータの中じゃドラドラだもん♪」


 タータは数時間振りに再開したドラドラの首元に抱き付き、とても嬉しそうである。


「お前らがそれで良いなら構わないんだけどさ、オレとしては気になる所」

「あら、乙女を詮索するなんて野暮ヨ」

「その言葉、撤回しろ! お前さっき明らかに男の身体だったよな!?」

「何の事かしラ」

「目の前で変態しといてよく言うよ。口調まで別人だったじゃないかよ」

「へー、今はドラドラって言うんだ。姉ちゃんに言ったら笑いそうだね。アープ――」

「ラーハム! アンタは黙ってナ! これはワタシの問題ヨ」

「違うじゃん! 私達の問題でしょ! そうやって自分勝手に抱え込むから私達が迷惑してるんじゃん!」

「……」


 何やら話の見えない言い争い。以前から府に落ちないドラドラとファミリア諸島の連中との関係。


「アープ、ん? どういう事だドラドラ」

「話すと長くなるワ。それに話すなら全員に聞いて欲しいから、(はぐ)れたみんなと合流したいとこネ」

「誤魔化すなよ」

「今更誤魔化すつもりなんて無いワ。ただ、アイツを交えて話す必要が有ると思ってネ」

「アイツって誰だよ」

「ルシエ・ティアルマートヨ」


 ドラドラは奥に見える霞掛かった親父島(おやじしま)を見上げる。


「一向に話が見えないんだけどさ、お前らってどういう関係なんだよ。もう何百回って聞いてきたけど全然話してくれないじゃん」

「……」

「あーはいはい。みんなが集まってから、ね。絶対だからな」

「ええ。さあ、皆ワタシの背に乗ってチョウダイ。一気に親父島まで行くわヨ」


 翼を広げ離陸の準備を始めるドラドラ。


「ちょーっと待て! お前、今まで散々毛嫌いしてきた癖になんで今になって背中に乗せようって気になったんだ?」

「アナタは全然分かって無いみたいだけど、ここに来て一刻を争う事態になったのヨ。好き嫌いを言っていられる場合じゃないノ」

「オレには分かんないね! オレはレバーが大嫌いだ! たとえ世界が滅びの日を迎え様ともレバーだけは絶対に食べない!」

「何の話をしてるのヨ。良いから乗りなさイ」

「好き嫌いの話だよ! 絶対食べないからな!」

「リムっち、そん時はタータが代わりに食べてあげるから♪」

「うむ、任せた」

「本当に何の話なのヨ……」


 リムとタータはドラドラの背に乗り、ラーハムは自身の羽根で追従する様に空路で諸島の奥に聳え立つ親父島へと向かうのだった。



――親父島、ティアルマートの居城。諸島の中でも一際大きな島の斜面に建造されていた石造の城。地上からの侵入は狭く不揃いの石段のみ。山の斜面は縄を括り付けて降りなければ忽ち滑落してしまう程の急勾配。斜面にしがみ付きながら登る事も可能には可能だが、手足が無防備の状態では翼を持つ竜人相手に全く歯が立たない。正に天然の要塞だった。勿論竜人である彼らは、上空から難無く城内外への行き来が可能である。

 先に親父島へと到着、もとい連行されていたミルとドームは、ルシエ・ティアルマートの無言の背中に着いていく。城内は松明一本も灯されていない真っ暗闇。


「悪いねえ、暗いだろう」

「暗がりは慣れている」


 沈黙のままルシエは、広間の奥にある巨大なソファーに寝そべった。それこそドラドラが乗れる様な特大サイズだが、竜人であるルシエは比べるまでも無く小さな人型だ。ソファーの中央に寂しく横になるその姿は、妖美に見えつつ偉大さをも醸し出す。

 一呼吸した後にルシエは、右手を徐に前に出すと瞬時に燃え滾る炎を吹き出させて見せた。噴き出る火柱と、バチバチと零れ落ちる様に飛び散る火の粉が辺りを淡く燃やす。


「私が灯してあげてもいいんだけどね、ちょっと加減が難しくてさ。松明の担当はラーハムに任せているんだよ」

「ラーハム、あの兄妹の妹か」

「ああ、諸島に侵入した者がいれば先ずあの子が出向くからね。必然的に奥にあるこの島は真っ暗になってしまうのさ。不憫に思わないかい。アンタら人間が攻めてくるばかりに私達が暗がりに落とされるんだ。それなのに、追い打ちを掛ける様にこの地を出て行けとまで言って来る始末。私達が何をしたって言うんだ」


 右手で燃え盛る炎に照らされ揺らめくルシエの顔は、悲しみと怒りの狭間を彷徨っていた。


「だが、お前達が居る所為で周辺国が迷惑しているのも事実だ」

()()だって? ハハハッ! 舐めた口を利くんじゃないよッ!!」


 爆発音と共に右手の炎が吹き上がり、更に熱気を発する。


(んぐッ、なんだこの圧は。全身がピリピリする、押し潰されそうだ。とてもオレ達が相手を出来る様な奴では無い……)

「フンッ! ちょっと気を立てただけでブルブルしてさ。こんなにも力の無い人間共の言う事なんて誰が聞くのよ」

「んぐッ! くぅ……だが力だけの優劣で物事を決めるものでは無い」

「勿論さ、分かってるじゃないか。それなのにただ闇雲に、力任せに攻め入ってきているのはどっちだい。自分達の力量も計れない小蝿(こばえ)を振り払っているだけに過ぎないのよ。分かる? 何故私達が島への侵入を許しているかを良く考えたらどう?」

「楽しんでいる……訳では無いのだろう」


 炎の灯りに群がる小蝿が、噴き出る熱風にチリチリと焼き消えてゆく。


「当たり前じゃないか。蝿が(たか)る事を好む奴が居るなら教えて欲しいね。我慢に我慢を重ね、その度にまたかまたかと呆れながらも、少しでも話の分かる奴が来るかと場を設けようとしている。結局何百年もそんな奴等は一向に現れなかった。きっとこれからも同じさ」

「……」

「来る奴はどいつもこいつも……最後には口を揃えてこう言う。『立ち去れ』『さもなくば攻め入る』ってね。可笑しいと思わないか?」

「姉さん……」


 更に吹き上がる火柱が遥か上の天井に到達する様子を見て、兄妹の兄ラフームが落ち着く様にと声を掛けた。


「ふぅ……私達は元来ここの住人。それを何故人間共の我儘で立ち退かなければいけない? 冗談にも程がある。まるで先住民を狩ろうとする略奪者の様なもんさ」

「……では周辺国にオレ達が説得しよう」

「たかだか数人の弱小集団が幾つもの国を相手に何が出来るって言うんだい?」

「その集団が精鋭揃いだとしたらどうだ? ルシエ・ティアルマートさん」

「??」


 入口からコツコツと歩いて来る人影があった。


「来たな、クソ野郎」

「リム、今すぐ離れるのヨッ!」

「ん?」

「おかえりーッッ!!! アナタァァ!!!!」

「え? うわぁッ!!!」


 ドラドラから忠告を受けルシエへと向き戻ろうとした時、リムの顔の動きとルシエの身体がすれ違う。訳も分からず衝撃で吹き飛ばされたリムだったが、そこで目にしたのは猛獣の牙の様な爪を振り翳したルシエと、それを難無く尾で受け止める竜人状態のドラドラだった。


「……え? どゆことッ!?」

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