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第183話 無様な調査隊

 オルドール兄妹が戦闘を始め、リムとタータが地中に落ちた時の話に戻る。

 ザハルが後方に横たわる一人の怪我人を発見していた。アルとマミはオルドール兄妹の見届けをリムらに任せ、ザハルと共に生存者の居る浜へと駆け付ける。


「どういう事や。こんな所に生存者なんておるんかいな」

「ザハル、本当に居たのか?」

「ああ、確かにここに仰向けで横たわっていた。辛うじて息はしていたから慌てて呼んだんだが……」


 人の姿はおろか動物の気配すら感じられない。おかしい、確かに緩やかな波打ち際に倒れている人を見たと言う。だがその場所は既に波によって痕跡が消え、優しい波の音が残るばかり。


「なあ。アンタが割りと真っすぐな性格なんは何となく分かったけど、もう少し落ち着いた方がええんちゃうか? 怪我人やー言うて不用意に行動しとると痛い目見るで」

「それに関してはオレも同感だザハル。お前は目の前に救える命があると判断すれば後先考えずに突っ走る傾向がある。迅速な行動を求められるからこそ、その行動は模範的だ。しかし、ここはお前の守るブラキニア領土では無い。どういう事か分からない訳じゃないだろう」

「ああ、だが……それでも助かる命があるなら手を差し伸べる事にオレは躊躇わない」

「あーあー、あのハゲもそうやけどここにもお人好しがおるで。ほんま大丈夫かいなこの面子。ええか? 赤毛も言うてるけど、自分の国やない以上行動一つ一つに注意を払うべきやで」

「因みに疑う訳では無いが、その倒れていた人物の特徴は」

「顔は長髪で隠れていたから分からないんだが、恐らく女だ」


 ザハルはマミの髪を確認し、似た様な髪型と説明するのだが勿論そんな人物はいない。


「見間違いやないんか。まあなんも無いんなら戻るで」

「そうだな。あまり皆と離れるのは良くないだろう」

「ああ……」

(さっきの奴か?)

(ああ、間違いない)

(只者じゃ無さそうだぜ)

(だからこそ利用できれば最高じゃねえか)

「そう簡単に利用出来るんならしてみいや」

「ん? どうしたナコシキ」

「ザハル、ちとこなつ抱いててくれんか」

「にゃぁ~ん」

「ん? ああ」

「そこに居るん誰や。儂の耳はミーツ族のそれと同等やで。コソコソしよっても儂には丸聞こえや。さっさと出てきいや」

「ッッ!?」


 突然不機嫌になるマミの視線の先には、一〇人程度のみすぼらしい姿をした人達がぞろぞろと現れる。


「ヒヒヒ、見つかっちまったな。悪いがお嬢ちゃん達、その上物の装備を貸してはくれねえかい」

「ナコシキ……」

「ああ、コイツら恐らく調査隊の生き残りやな」

「だが凡そまともな人間には見えないぞ」

「アカソ家から選抜された奴らや無いな。多分、流れ者で編成された捨て駒やろ」

「おうおう、随分な事を言うじゃねえかお嬢ちゃん。まあ否定はしねえんだがよ、どうにもオレらにゃあ荷が重すぎた依頼だったみたいでなあ。ちいとばかしアカソの正規調査隊には囮になって貰って隠れてたのよ。隙を見て逃げようかと思ったんだが、どうもに上手くいかなくてなあ」

「アンタら……」


 マミの眉間に皺が寄って行く。明らかに苛立ちを隠せずにいるマミに、ザハルが前に立ち抑え込もうとする。


「おい貴様ら。先程ここに倒れていた女は何処かにいるのか」

「ああ? ああ、コイツの事か。おい」


 集団の後ろから現れた一人の女性を確認したザハルは、間違いなくその人物だという事をマミとアルに告げる。この集団の思惑には三人とも直ぐに気付いた。

 人を助ける余力の有る人間ならば必ず寄ってくる。則ち現状この島では生き残れる可能性を秘めている事を意味する。それを利用する事は簡単、人の優しさにつけ込んだ安易な罠だ。ザハルはまんまと引っ掛かった訳なのだが。


「しょっぼいもんに引っ掛かってくれたな王子様」

「チッ」


 一〇人程度だったならず者の調査隊は、気が付けば周囲を取り囲む程に。その数凡そ五〇人。軽装ではあるが、明らかに殺傷する為の武器を持っていた。


「クックック」

「ケッケッケ」

「なあ、お嬢ちゃん達。悪いがオレ達に力を貸してくれねえか」

「ええで」

「話が早くて助かるぜ、ケッケッケ、ん?」


 マミは即答したのだが、無頼漢は差し出された手に疑問を抱く。


「見返りはなんや」

「見返り? ああ、そりゃそうだ。ただで助けてくれなんて虫が良すぎるよな。取引といこうじゃねえか。オレ達ぁナコシキの旦那から雇われた者だ。助けてくれたら旦那から貰える言い値の報奨金を半分やるよ。旦那が欲しいのは情報だと言っていた。適当な情報を掴ませりゃあ喜んで金を出してくれるだろうよ。情報は何よりの力だって言うからな」

「……」

「んんん? どうしたお嬢ちゃん、数百万なんてちんけもんじゃねえぜ? 億だよ億。こっちだって命張って来たんだ、それなりの額は貰わねえとな」

「……」

「おい、何黙っ――」


 無頼漢の首が跳ね上がった。ケラケラ笑ったままの頭が地面に転がり、やがて瞳の光を失う。


「ヒッ!!!」

「なあザハル。儂、コイツらアカンわ」

「オレが助けるのは無垢な一般人だけだ」

「止める義理は無い」

「そゆことや。アンタらが助かるかは儂の機嫌次第やって事を分からせたるわ」

「な、なんだお前!!」

「なんやってか? ええわ、教えたる。マミ、マミ・ナコシキ。アンタらの依頼主の……娘やッ!!!」

「なッ!?」


 眉間に浮かび上がる血管が今にもはち切れそうである。ギラついた瞳と、悔しさに歪んだ口元から鋭い八重歯が光る。


「アカソの人間を、儂の家を侮辱した奴は許さへん……」


 獰猛な獣が怒りのままに逃げ回る人々へ飛び掛かる様は、まるで地獄絵図であった。首が飛び、腕が転がり、打ち寄せる波は赤く染まって行った。

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