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第180話 国レベル

「うへぁ、足元がぬかるんで気持ち悪い」

「文句を言うな、どう見ても周りに進む道は無い。第二の島と言うくらいだ。てっきり海を隔てていると思っていたが、海底が浅くて助かった」

「そりゃ、お前みたいに諜報活動を主にしている人間ならこんな地面大した事無いだろうけどさ、オレは一般人だぜ? なあ儂姫(わしひめ)

「ほんまに。ドレスが汚れてまうわ。こなつの足もドロドロになるから儂が抱えるしか無いし」

「マミちんのお洋服はミルが持ってあげる☆」

「あ、ありがとう」

「どう考えても一般人では無いだろう」

「殆ど人や、ただの御嬢様やで!」

「フンッ。人に肩書きがどうとか言っておきながら都合の良い時だけ凡人の振りをするな」

「う、うっさいねん! 女の子は汚れるんが嫌いなんや! ねえ? タータちゃん」

「んー? タータはいつも毒沼でビチャビチャしてるから気にならなーい♪」

「そうかいな……」


 リム達は第一の島、御姉ヶ島(おねえがしま)から第二の島へと向かう為に浅瀬を縦断していた。時折寄せる潮はとても緩やかであり、足元を攫う程では無かった。しかし非常に多くの水分を含んだ浜と、太陽の差さない陰湿な環境の所為でさながら湿地帯だ。


「なあタータ。そろそろ話してくれねえか? お前らとティアルマートはなんの関係があるんだ? なんでそんなに詳しいんだよ」

「んー、多分タータが話すよりルシエっちに聞いた方が良いんじゃないかなぁ」

「だからなんでティアルマートの長をそんな親し気に呼ぶのかって聞いてんだよ」

「んーなんでだろ、分かんない♪」

「ダメだこいつ」

「ダメって言っちゃダメだよッ♪ 人にダメって言える程リムっちは優れてるの?」

「んぐ……」


 率直な反論に、ぐうの音も出ない。

 嵌らぬ様足元に集中する一行は、会話も無くぬちゃりぬちゃりとひた歩く。一番体力が無いのは勿論リムだった。数歩歩いては軽い溜息を付き、また歩く。


「さっきからはぁはぁうっさいねん。イライラしてくるわ!」

「だぁってよぉ。疲れるんだもんよぉ」

「みんな一緒や! 儂かてもうドレスの裾がドロドロなんや! お気に入りなんに……」

「にゃぁ~ん」

「はいリムっち♪」


 タータは何処からともなく出していた杖をリムに差し出すと、掴まる様に促した。


「いつも助かるよ。オレはタータの杖が無いとまともに歩けやしねえ」

「ジジイか」

「ジジイちゃうわ!」

「中々良いレスポンスのツッコミやないか」

「そりゃどうも。ってそんなんどうでもいいわ!」

「どうでも良くは無い。話をするんやったらノリとツッコミが大事やろ。つまらん話ばっか延々と続けられる方が儂は苦痛や」

「さ、流石かんさ……コホン、笑いが分かってるな」

「地元やからな」

「でさ、儂姫」

「あん?」

「どう思う」

「どうって何がや。主語が無いねん主語が」

「ティアルマートの事だよッ!」

「ちょーっと指摘しただけで直ぐキレんなや。んー儂もなんか引っ掛かる名前や。元の世界でよう似た名前を知っとる」

「勿論それは」

「ドラゴンやな」

「やっぱりか。って事は――」

「リムっち。それ以上は言わないで」


 会話を遮ったのはタータだった。杖を引き歩くタータの背中がやけに小さく見えた。


「なんだよ。まだ何も言ってないじゃんか」

「いいの! それ以上は言わないで! タータ達の……」

「ん? なんだって?」

「何にもない! ほら、もうすぐ次の島が見えてくるよ♪」

「お、おう……」

(まだ不確定要素が多いけど、元の世界とこっち……何か共通点がありそうだ)


 漸くぬかるむ浜を抜けた一行が辿り着いた第二の島。先程の御姉ヶ島とは打って変わって陰湿な雰囲気の島である。


「到着♪ ここが第二の島、御兄ヶ島(おにいがしま)だよッ♪」

「おに……ん?」

「お、に、い、が、し、ま!」

「ははーん、分かったぜ。道理で噂に鬼がどうとかって話が混ざる訳だな。単なる名称じゃねえか」

「鬼が出て欲しかったのか?」

「はいお決まりのタイミングで登場! 君はだーれだッ!」

「タイミングも何も、僕はただ待っていただけだよ。どうせ妹のラーハムがしくじる事は分かってた」


 浜にポツリと置かれた岩の上に座っていたのは、兄妹の兄ラフームだった。


「確か君は御姉ヶ島にも居たよな。綺麗な角は忘れねえ」

「嬉しいな。僕の角を綺麗だなんて言ってくれる人は誰もいないのに」

「いんや綺麗だね。誰がどう見ても君の角は艶があって綺麗だよ」

「ありがと」

「で、待ってるって言ったよな。って事はやっぱりオレらの侵入を阻止する為、なんだよな?」

「うん。幾ら僕の角を誉めてくれたとしてもこの先に行かせる訳にはいかないよ」

「でーすーよーねー。じゃあみんなで集中攻撃してちゃっちゃと撃退してしまいますか!」

「それは出来ん」

「なんだよザハル。急に怖気づいたか?」

「あんな子ども相手に大の大人が寄って集ってリンチとは恥ずかしく無いのか」

「ザハルっち、ラフームは何百年も生きてるよ? 竜人じゃまだまだだけど、ザハルっちよりかは遥かに年上だよッ♪」

「……」

「だとよ。どうするんだ」

「どちらにしろ、この状況じゃ明らかに多勢に無勢。卑怯だとは思わないのか」

「ラフームは過去に色巧(エクスクエジット)と良い勝負してたらしいよッ♪」

「……」

「だとよ。どうす……えええええ!? ちょっと待て! 色巧(エクスクエジット)ってあのロンベルトと同等って事か!? 絶対ヤバイよな!?」

「遥か昔に色星大戦(しきせいたいせん)と言う大規模な戦争があったらしい。オレも文献でしか知らないが、各勢力の色星(しきせい)はその気になれば複数の国を一人で壊滅出来る程の、その下に付く色巧(エクスクエジット)色征(ヴァンクイッシャー)は一国を優に支配できるレベルの力を持っていたそうだ」

「ロンベルトってそんなにやべえ奴だったのかよ……って事は、今目の前に居るのは一つの国を相手にしてるって事と同等」

「多勢に無勢はこっちに似合いそうな言葉だな」

「よ、よし行くんだ! オルドール兄妹よ!」

「何故オレらを名指しにする」

「行くのだ! この戦いはお主らの活躍に掛かっておる!」

「誰やねんアンタ……」

「そろそろ話終わった? 誰でもいいけど早くしてくれない? 姉さんが待ってるんだよね」


 嫌々前に出るかと思われたが、オルドール兄妹は何やら嬉しそうである。リムは偉ぶる様子で腕を組んでみせた。


「見せて貰おう。煙霧兄妹(インビジブルホワイト)の実力とやらを」

「なんか聞いた事のあるセリフやな」

「若さ故のあ――」

「それ以上言うたら殺すで」

「ちい!!」

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