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第178話 ドラドラの思惑

 ラーハムから放たれた冷炎は周囲一帯に着弾する。がしかし、冷えた炎は爆炎とはならずにそのまま青白い光を纏い変化しない。


「これが彼女の戦法ヨ」

「不発か?」


 リムは不用意にも、留まる冷炎に地面に落ちていた人骨を投げる。すると、接触した冷炎が爆発すると共に衝撃波を発生させた。


「うわぁッ!」

「だからッ! あーアンタも学習しないわネ」

「なるほど、センサー爆弾みたいなもんか」

「せん……? よく分からないけど、なんとなくアンタの想像している事は分かる気がする。彼女は冷炎を自在に操る事で、任意に爆散させる事が出来るワ。勿論周りに敷かれた冷炎に近付けば直ぐに爆散するワ」

「更にリモート付き、陣を敷かれたって事か」


 身動きを封じられ、リムは考え込むも打開策が見出せずにいた。だが、勿論このままで良い訳が無い。リムはやたら詳しいドラドラに頼る他無かった。


「で、どう戦うんだよ」

「決まってるワ。正面突破ヨッ!!」


 ドラドラは咆哮を上げると、大きな翼を羽ばたかせてラーハム目掛けて直進する。冷静な分析にしては安易すぎる戦法。


「アナタの弱点は分かっているのヨ、ラーハム」

「んーやり辛い相手だなぁ」


 上空に留まっているラーハムへと飛び込んだドラドラは、迷う事無く大きな前脚を振り下ろす。勿論そんな攻撃が当たるとは思っていないドラドラは、飛行しながら続けざまに体当たりを試みていた。


「おいタータ。あんなんで良いのか?」

「ん? タータはドラドラに任せるよ♪ だって一番知ってるのはドラドラだもん♪」

「それさあ、さっきから凄く気になってるんだけどお前らはアイツらとどんな関係なんだ?」


 上空では絶えずドラドラの猛攻が繰り広げられ、ラーハムは対応せざるを得なかった。普通の人間ならまず辿り着けない上空。現時点でラーハムに接近する事が出来るのはドラドラのみ。遠距離からの冷炎による攻撃に、普通ならば成す術は無い。色力(しきりょく)を持たない一般人なら尚の事、手も足も出ずに焼かれ朽ちてしまうだろう。


「あーんもう! 近寄らないでくれる? やり辛くてしょうがないんだけど!」

「ならワタシ目掛けて冷炎を吐き出せばいいじゃないノ。勿論、それが出来ない事は分かった上なんだけどネ」

「……」


 ドラドラの体当たりを避けつつも機を伺うラーハムだったが、間髪入れずに繰り出される攻撃に反撃の一手を出せずにいた。


「なんでアイツ、炎を使わないんだ?」

「分からない。だが、ドラドラの動きにヒントがありそうだな」

「あ、リムっち。注意をこっちに向けさせたらダメだからね♪ 絶対だよ♪」

「なんでだよ。アイツ一人に任せててもキリが無いぞ?」

「その通りだ。だが、加勢しようにも手段が無い。あの高さじゃオレの溶岩も届かない」

「リムっち、提案があるの♪」

「なんだ?」


 依然ドラドラの猛攻が続く中、リム達はタータの提案に耳を傾けていた。


(もう、御主人様ったら気付くのが遅いワヨ。そう、それでいいノ。ワタシは時間を稼ぐだけ)


「あーもう! あんまり時間掛けると姉ちゃんに怒られるのにぃ!」

「そうはさせないワヨ」


 痺れを切らしたラーハムは更に上昇するが、食らい付いて離さないドラドラは常に同じ高度で戦闘を続ける。


「ええ!? それで良いのかよ! だってアイツ、あのまま続けてたら体力が」

「だから早くしないとダメなの♪ ドラドラが時間を稼いでる間にタータ達は先に進むよ♪」

「お前がそれでいいならオレは構わないが。あの炎、オレの煙でどうか出来るとは思えない」

「他に手が無いんやったらそれしか無いんちゃうか」


 タータの作戦はこうだ。

 攻めに転じられないラーハムはドラドラに釘付けの状態、その隙を見てドームの煙で燃焼を妨げる。そうする事で出来上がった炎の抜け道を通るというもの。安易だ、だが通り抜ける術が他に思い付かない以上試すしか無いだろう。

 だが、その後はどうする? 一行が逃れられたとして、ドラドラがラーハムに敵うのだろうか。しかし、タータは何も心配していない様子である。一抹の不安を抱えつつも、ドラドラの主人であるタータがそう決めたのならば、何かあってもドラドラから恨まれる事も無いだろう。

 リムは仕方なくタータの提案を受け入れる事にした。


「よし、良いか? 気取られない様にゆっくりと移動して奥へと進む。ドームは出来るだけ濃い煙を出してくれ。合図はタータに任せた。ドラドラの状態を見て分かる様に頼む」

「おっけー♪ じゃあ今ッ!」

「え、今?」

「ほら走れー♪」


 合図は合図だ。あまりにも早すぎたタイミングにリムは心の準備をする間もなく走らされてしまう。


「行くぞッ! 窒息円煙(サークルスモーク)ッ!」

「いぃッ! もういいや、走れぇ!」


 囲まれていた炎壁に近付くと、ドームは煙を発生させる。極端に酸素濃度が低下した眼前の炎は、燃焼できずに鎮火していく。作戦は難無く成功。一行はドラドラを残し、早々に第二の島へと走って行くのだった。


「さて、そろそろ良いかしらネ」

「もう! 私の弱点が近接戦だって事を分かってるなんて」

「当たり前じゃない。何度も言わせないでチョーダイ」

「い、いやそれは勿論知ってるけどさ。何百年も前の事なのに良く覚えてるなって思って」

「……」


 炎壁が立ち上る御姉ヶ島(おねえがしま)に一人留まったドラドラは、漸く地面へと降り立つ。既にリム達はラーハムの後方遥か向こう。走り抜けていった一行を気にする様子に、ドラドラが笑みを浮かべた。


「後ろを向いていいのかラーハム」


 先程の、いや以前のドラドラとは似ても似つかない雰囲気と口調に、ラーハムの毛穴と言う毛穴から脂汗が吹き出す。明らかに異様な雰囲気に、ドラドラから目が離せなかった。


「んあああ! 卑怯だよッ!」


 地面に居るドラドラへ冷炎を複数吐き出す。だがドラドラは避ける素振りもせずに全て被弾してしまう。


「だ、ダメだって! 私を叱らないで!」

「お前は未熟ダ。こんな一団すらも容易に通してしまうとハ。躾ける必要があるナ」

「そ、それはアンタが!」

「言い訳は嫌いだと教えなかったカ」


 冷炎の爆煙から浮かび上がるシルエットの人影に、ラーハムは明らかに恐怖の感情が芽生えていた。

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