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第177話 冷炎のラーハム

「で、見た感じ島が三つ。まあルシエって奴が一番奥の島に居る事はお決まりだとして、どうやって行くかだなあ」

「リム、甘いワネ。最奥の島、親父島(おやじしま)へは相当な手練れかルシエに気に入られた者しか到達は出来ないワヨ」

「わーかったわかった。どうせどんな脅しを掛けられたとしても行く事に変わりは無いんだから、どうやって行くかって言う建設的な会話をしたいね」

「……」


 一行はライカの本島から延びる陸路を進み、最初の島へと到達していた。


「第一の島、ここは御姉ヶ島(おねえがしま)ヨ」

「オネエ……お前にピッタリの島じゃん」

「だからワタシは女だって言ってるでショ!」

「はいはい、そうでしたね」

「話を続けるワヨ。御姉ヶ島の周囲は、灼熱の炎で包まれているワ。海水温も異常に高くて、陸に近い場所は沸騰している場所もあるワ。奥へ進む為には必ず通る島、だからあの兄妹が常に監視に着いていてさっきみたいに炎壁を張るのヨ。意を決して炎壁を越えても、灼熱の海に囲まれた御姉ヶ島は第一関門と言っても過言じゃ無いワ。前には灼熱、後ろにも灼熱、周りにも灼熱の海。入ったが最期、焼き消えるまで纏わり付く炎に苦しむのヨ」

「ふーん。で、なんでドラドラはそんなに詳しいんですかねぇ」

「……」

「ま、いいけどさ。でここは暑さを我慢すれば問題ない感じ?」

「そんな程度で越えられるなら関門なんて言わないワ。ここは巻き髪の兄妹の妹、紅い髪のラーハムが管轄する島。退路を断たれた状態で彼女に襲われれば、並みの人間なら秒も掛からずに灰になるでしょうネ」

「ああ、あのボインボインちゃんか」

「リム、油断するなよ。あいつ、ただの炎を使う様には見えなかった」

「なんでそう思うんだ、アル。炎ならお前の溶岩相手なら苦じゃ無さそうだけど?」

「それだと良いのだが、何かが引っ掛かるんだ。お前、気付かなかったか? あの炎壁に所々温度が低い箇所があった」

「いや、そんなの分かる訳無いじゃん。火は熱いもんだろ、見るだけで汗が吹き出てくるって」

「オレの身体は溶岩の様に形を変える事が出来るのは知っているだろ。だから大抵の炎に熱さは感じないんだが、部分的に温度が低い場所はむしろ冷たく感じた」

「ほえー、冬にお前が居たらあったかそうだな」

「冬、と言うのは分からんが憂月(ゆうづき)から芽月(めづき)の一番寒い時期でも、軽装で全く問題は無い」

「じゃあえーっと、逆に早暑月(そうしょつき)から終酷月(しゅうこくづき)の暑い時期はヤバイんじゃないのか?」

「言っただろう、オレは炎レベルの熱さでも全く問題無い。暑さなんて苦にもならん」

「便利な身体なこった」

「だから引っ掛かるんだ。冷たい炎はオレにとっては未知数。気を付ける事だな」

「冷たい炎、か」

「良く気付いたね!」

「ッ!?」


 一行の前に颯爽と現れたのは、件の紅髪(あかがみ)の竜人ラーハムだった。長い巻き髪を揺らめかせて地面に降り立つ彼女はどこか満足気だ。


「噂をすれば。ちょっと登場が早いんじゃないのか?」

「アンタ達のタイミングなんて知ったもんか。それより、私の炎に気付くなんて流石ね」

「お、おいアル。御指名だぞ」

「……」


 リムに押し出されたアルの額からは汗が垂れる。先程言った通り、未知数の炎を扱う竜人。アルは最大限の警戒をしていた。


「で、気付いた所でどう対処するんだろうね。炎には変わりないのに」

「運が良い。幸いにもオレに熱は効かない。悪いがここは通らせてもらう」

「ふーん。じゃあ、君は合格で良いよ」

「どういう事だ」

「言ったままだよ。熱が効かないなら私の相手じゃない。だから残りは燃やしてしまおうかなって」

「それは無理だ。コイツらも一緒に行かせてもらう」

「うーん。アンタだけなら良いって言ってるのに、我儘だね」

「オレ達の目的は一番奥に居るルシエだ。お前に構っている暇など無い」

「構う構わないは勝手だけど、私が居る以上は相手してもらうよ」


 ラーハムが翼を広げ、爪をギラつかせた。緩んだ口元に気付いたアルは咄嗟に声を上げる。


「とりあえず小手調べだね」

「……ッ!! マズイ! お前ら、避けろッッ!!」


 太陽が顔を出さない真昼の空に舞い上がったラーハムは大きく息を吸い込むと、アルの後方に居た一行目掛けて炎を吐き出した。

「気付かない内に焼かれて無くなれッ! 冷炎(コールドフレイム)ッ!」


 ラーハムから吐き出された青白く発光した炎の塊が、アルの頭上を通り過ぎリムへと迫る。


「リムッ! それには触れないで!」

「ドラドラッ!」


 リムを庇ったのは、ドラドラの翼だった。翼の内側に居たリムは違和感を覚える。いくら竜の翼を挟んでいたとしても、普通の炎であれば熱を感じるはず。しかし、青白い炎に包まれる翼からは全くと言っていい程に熱くないのだ。


「おい、ドラドラ。大袈裟に庇ったりなんかして。全然熱くないじゃないか」

「いいから離れなサイ!」

「もう遅いよ。二段(セカンド)発火(イグニッション)ッ!」

「グォオオアアアアア!!」


 翼に纏わり着いていた青白い炎が、急激に赤く変化する。直後、爆発音と共に熱風がリムに襲い掛かった。


 冷炎(れいえん)。通常であればあまり発生しない現象。ある条件下で発生するこの炎は、正常の発火現象前に現れる特殊な炎だった。勿論熱はある。が、大凡人間のイメージにある炎の温度よりかは低く錯覚しがちである。しかし、その特徴は後発する正常発火への爆発力だった。現代では主に車のエンジンなどの燃焼で重要とされるものであるが、未だ謎が残る発火現象。

 彼女は、その二段階に分けられた炎を操る竜人。冷炎のラーハムである。

 温度差による錯覚、そこから来る油断、更に退避と言った一連の行動の遅れを視覚的に用いり、二段構えで発火する爆炎が容赦無く対象者を包み、焼き殺すのだ。なんとも慈悲の無い炎である。


「ドラドラッ!!」

「だから、ングッ! 言ったじゃ、ない……ノ」


 焼け爛れた翼を振り払うと、すぐさま水を吐き出し冷やす。


「先に水で冷やしておいてよかったワ。こんな事で癒える訳が無いけど、応急処置も必要ネ」

「ご、ゴメン! 油断しちまった」

「彼女が言った通り、炎に変わりは無いのヨ。錯覚してるだけ、それが厄介なの。纏わり付いた炎は急速に変化して爆散する様に燃え上がる。これが彼女の基本的な炎ヨ」

「なら当たらなければ良いじゃん」

「それが対処法だと思うのなら間違いネ」

「なんでさ」

「だからこれはただの炎じゃない。まさか分からない訳じゃないワヨネ」

「……?」

「ハァ、先が思いやられるワ。色力(しきりょく)ヨ。この炎は彼女の色力で生み出された能力。詰まる所、自在に操れるノ」

「そ、そんなの知ってたし! し、知ってたしッ!」

「どうだか」

「何も分かっていない様だからもう一発行っときますかぁ?」


 ラーハムは再び息を吸い込み、複数の冷炎弾を吹き出す。


「早々に畳みかけるつもりヨ。リム、ここはワタシに任せて下がりなサイ!」

「んーおと、じゃなかった。アナタを殺すのは気が引けるけど仕方無いか」

「そう簡単にヤられる訳が無いワッ! ワタシを誰だと思っているノヨ!!」


 複数の冷炎弾が迫り来る。対するドラドラは、激流の如く水を吐き出した

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