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第175話 巻き髪の兄妹

 一行はファミリア諸島へと向かっていた。さして高くは無い山々の間に延びる一本の道。木々は果て、青々とした植物は微塵も無い。足元に無造作に散らばる無数の人骨、野は焼き尽くされた様に灰に染まっていた。


 先程の威勢は何処へと行ったのだろう。無理も無い。想像を遥かに超える凄惨さ、鼻を刺す焦げ臭さはむせ返る程だった。一歩進んでは骨を砕き、少し風が吹けば辛うじで保っていた草花は崩れ伏せた。


「ど、どうしたら形状を保ったまま焼かれるんだよ。どう思う? ドーム」

「超高温で瞬時に焼かれたんだろう。草達も焼かれた事に気付かずにいるのかも知れん」

「なんてこった。オレ達もこうしてる間に高熱で焼かれても気付かないかも知れないな」

「骨は拾ってやるよ」

「やめて? 縁起でも無い事言わないで? お、お前の骨も拾ってやるから安心しろよな、ザハル」

「オレはそんなヘマはしねえ」

「ケッ! 何処にそんな自信があるのかねえ」

「静かにしろ、何か来るぞ……ッ!」


 いち早く気付いたのはアルだった。前方から飛来する何かは、徐々に高度を下げてリム達へと近付いてくる。


「あれは……人?」

「人に翼が生えてんのかボケ」

「でもどう見ても形は人だよな。あとなぁ、いちいち暴言やめてくれる? なんもしてないのにオレが悪い事した気分になるから」

「分かった。ほな、人間に翼なんか生えていないでしょ? ハゲ」

「丁寧に暴言吐いてるだけじゃんか」

「あれは……ッ!」

「どうしたドラドラ」

「みんな構えてッ!! あれは、ルシエ・ティアルマートの子。ラーハムとラフーム! 常にルシエと居る側近中の側近ヨ!」

「常に一緒に居るのになんでここに来るんだよ! それになんでそんなに詳しいん――」

「来るワッ!」


 この時、リムは直ぐに分かった。焼け野原の原因はこの二人組の仕業だと。

 十字砲火、文字通り交差する様に繰り出された熱風を伴う紅い炎が、リム達とファミリア諸島とを分断する様に炎壁を造り出した。


「警告する。この炎壁を越えれば容赦無く、且つ息を吸うが如く容易く灰にする」

「警告する。この島に立ち入れば容赦無く、且つ息を吐くが如く容易く灰にする」

「あっちぃ! みんな一旦離れるんだ! 冗談抜きで灰になっちまう!」

「流石にこれはマズいな。肌から汗が噴き出してきやがる」


 上空に吹き上がったそそり立つ炎壁が絶え間なく燃え盛り、既に灰と化した地面を更に熱する。ミチミチと聞こえるその音は、地面の悲鳴にも思えた。


「どうするリム。まだ入り口にすら到達していない状況だが、これを相手にするのは少しやっ――」

「おーい! お二人さーん! ちょっと聞きたいんだけど、なんで侵入を拒むんだー?」

「……」

「……」

「おーい! 聞こえますかー? 巻き髪のイケてるお二人さーん!」


 ドームの忠告を遮り、上空に制止する二人へと声を掛けた。するとリムの言葉に反応した二人は炎壁を突き破り、リムの眼前に飛び込んで来る。反応遅し、リムはヤバイと思ったが既に手を握られている。


「あッ! やっべ」


 顔を引きつらせ、身を引こうとしたが掴むその力たるや。ピクリともしない腕に足も動かない。万事休すか、いやまだだ。リムは抵抗を見せる為に色力(しきりょく)を解放しようと力んだ。


曖昧な領(グレーゾー)――」

「君、今なんて言った!? イケてる!? イケてるって言った!?」

「僕がイケてる!?」

「違うよラフーム兄さん。イケてるって言われたのは私!」

「違うだろラーハム。それは僕が言われたんだ」

「ッ!?」


 予想だにしない問い掛けにリムは色力の発動を中断する。


「えっと……い、イケてるイケてる! 二人ともイケてるよ! その、あれだ。綺麗な巻き髪だねッ!」


 咄嗟に目に入った二人の髪の毛に、当たり障りのない誉め言葉を返す。


 リムの左手を掴む彼は、顎下程の長さの真っ青な巻き髪が特徴的な竜人の子ラフーム。右目が緋色、左目が碧色のオッドアイだった。おっとりとした垂れた一重は優しさを醸し出している。

 丸みのある大人しめの黒い角は、側頭部から半円を描く様に下へ向かって伸びていた。

 上半身は裸だが、引き締まった身体と鍛えられた筋肉が美しくも見える。彼の特徴でもある紺色の鱗が肩や腕、首筋と所々を覆っていた。それとは別に身体の至る所に黒い入れ墨が這い、少々不気味さが垣間見える。

 裾にゆとりのある黒いハーフパンツは、短パン小僧の様にも見える。しかし、やはり竜の子。足は全て鱗に覆われ、つま先には頑丈な鋭い爪がしっかりと生えていた。腰骨辺りから生える尾は、大人の太股をも上回る太さがあり背丈以上の長さで地面を引き摺り歩いていた。

 背中に生える翼も同様に黒く艶やかだった。


 それとリムの右手を掴むのは、胸下まで伸びる真紅の巻き髪が特徴的なラーハム。右目が碧色、左目が緋色と兄ラフームとは逆である。キリッと釣り上がった二重とぱっちりとした大きな瞳、その目力は凛々しさが全面に出ている。

 淡い白、象牙色をした角は珊瑚の様に刺々しく上へ伸び、雄々しさがあった。

 首の後ろから鎖骨へと掛けられた一本の白い布は、たわわに実った胸をそれぞれ包み込んでいた。胸下で交差した布地はそのまま腋下から肩甲骨、首の後ろへと戻り後ろで結ばれている。

 肩から先は露出しており、腕には角と同じく象牙色の鱗や入れ墨が至る所にあった。

 太股の付け根から五センチ程しか幅の無い白色のホットパンツを履くその姿は、最早秘所を隠すだけに留まる程に面積が少なかった。勿論、臀部の半分近くは露出しており、張りのある肌がぷるりと主張している。

 兄ラフーム同様、足先までは鱗で覆われ、足の爪は地面を突き刺している。下半身の違いと言えば尾くらいだろう。象牙色の尾は細く、下腹部を一巻き出来る程度の長さだった。

 妹であるラーハムの翼は、兄とは違い角同様ゴツゴツとした珊瑚の様に無造作に広がる。


「えらく対称的な二人だな。だけど、特に君! 何と言う破廉恥な姿! リム君は凄く良いという言葉を贈ろう!」

「やった! ほらやっぱりさっきの言葉は私に言ってくれたんだよー!」

「だがしかしだ! この少年の鍛えられた上半身と艶のある角! こっちもまた美しい!」

「や、やっぱりそう思う? だよね」

「うんうん」


 お前は何の話をしているんだリムよ。ここは世界の脅威とも謳われている島なのだが、まるで緊張感が無い。案外話せば分かる奴なのでは、と安易に思うのも危険ではあるが、それでも目の前で誉められた事を無邪気に喜ぶ二人にはまるで危険性が感じられなかった。


「で、でさぁ。この島に居るって伝わってるルシエとか言う竜に話があるんだけど、会わせてもらっても良いかな」

「おか……姉さんに会いたい?」

「あ、また間違えたよラフーム兄さん」

「間違えて無いってば!」

「あ、君達兄妹なのね? んで更に姉のルシエがいるんだな? ふむふむ、三兄妹か。君達に似て飛びっきり美人なんだろうなぁ」

「鬼……」

「鬼畜……」

「お、おう……えらく怖がられたもんだな。でその姉さんにさ、ちょっと近隣が迷惑してるからなーんとか控えめにして貰いたいんだよね?」


 リムの言葉を聞いた途端に兄妹の目の色が変わった。


「あ? なんだって? 僕達が迷惑を掛けてる?」

「もっかい言ってみなよ。迷惑してんのは私達よ」


 明らかに最初の雰囲気に戻っている事に気付いたリムは、すかさず手を解き皆の居る後方へと飛び退いた。


「私達がどれだけ我慢してきてるかも知らずに、よくもそんな事が言えるね」

「僕達はそれでも耐えて、耐えて、耐えて来た。だけど、姉さんもそろそろ限界なんだよ」

「どういう事だ。近隣諸国はこの島が原因で貿易に支障を来している。それのどこが迷惑じゃないと言うんだ」

「待てザハル! この話、何か理由がありそうだぞ。儂姫! ティアルマートの御伽話は何年前からって事になってる!」

「ああん? 知らん、少なくとも千年以上前やったはずやわ」

「千年、か。ティアルマート……ティア、ル、マート」

「私達はただ静かに暮らしていたいだけ。だけど、それをぶち壊したのはアンタ達人間」

「僕達が何をしたって言うんだい。穏やかに暮らしていただけなのに、周囲では争い事で溢れ返って静かに寝る事すら叶わないのに」

「これだけ年月が経てば、人間側の良い様に解釈されてしまうのも納得するな」

「やっぱりドームもそう思う? それで人が逆に攻め入ろうとして返り討ちにって話か」

「だけど、そんな事しちゃうとまた人間が押し寄せてくるんじゃないの? ミルも戦争をしてた時からいつも思ってた☆ 殺して殺されてじゃいつまで経っても終わらないなーって☆」

「同感だな。オレの故郷ナインズレッドも今正にその状態だろう。もはや目的を見失いつつある様にも思える」


 兄妹は炎壁の遥か上空まで再び舞い上がり、リム達へと警告する。


「もう一度言うわ。これより先は、死を望む者のみが通ると良いわ」

「僕達は、そこを越えた者を許しはしない。最終警告だよ」


 二人は、彼方の島へと飛び去って行った。


「どう思う」

「行けぁ良いんちゃう? どうせ戻ったってしゃーないやろ」

「やっぱりダメ! みんなを巻き込みたくない! これはタータとドラドラの問題!」

「だってさ、みんなどうする?」

「お前がどうするか、だ。リム」

「ほんじゃ前進! ドラドラ! お前の水でこれ消せないのかー?」

「……知らないワヨ」

「へいへーい」


 ドラドラが多量の水を吐き出し、炎壁に隙間が出来るとリムを先頭にいよいよファミリア諸島へと足を踏み入れるのだった。


「みんな馬鹿だよ……」

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