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第173話 共闘の意思

 一行はソルウスとアカソの中間にある三叉路に差し掛かり、南に見える赤黒く淀んだ空気を漂わせているファミリア諸島を眺めていた。


「さあてみんな、覚悟はいいか!」

「覚悟もクソも無いわ。まだ分かれ道に来ただけやん」

「あーもう! なんでお前はそう勢いを挫く様な言い方するかなぁ!」

「勢いも無い状態で言われてもなんも響かんねん。ほら行くで」

「ミル一番乗りぃ☆」


 そそくさとファミリア諸島へ向けて走って行くミルを見て、リムは違和感を覚えた。


「おい、どうしたタータ。いつもならミルと一緒に突っ走って行くのに、やけに元気が無いじゃん」

「あはー、ちょっと疲れたのかもねーあははは」


 明らかにいつもと雰囲気が違っていた。ミルと常に行動しているタータが、元気も無く気が重そうにしている。疲れていると言えばそれまでなのかも知れないが、どう考えてもリムの方が体力は無い。その彼より劣る筈が無いのだが、明らかに不自然な体調不良を訴える。


「おい、お前はどうも行きたくない理由でもありそうだな」

「ま、待てってザハル。人間、調子が悪い時だってあるもんだろ」

「いや、コイツは元気だ」

「お前にタータの状態が分かる能力が有るとは思えないんだけど?」

「答えろ放浪娘。お前はナコシキ邸で捕らえられていた時、明らかに不自然だった。それも,ファミリア諸島の名前が出た途端にだ。あそこに行きたくない理由でもあるのか」

「べ、別にそんな事は無いけど」

「そうか、じゃあ相方に聞いてみようじゃねえか。出てこいドラドラ!!」


 リムも薄々感じてはいたが、そこまで気にする程でも無いと思っていた。イロウ・ナコシキがファミリア諸島派遣の提案をした時、確かにタータの様子はおかしかった。だがその不自然さの理由は、リムの中では払拭されていた。

彼の島は恐怖に震え上がる程の何かの事象が起きている。それはマドカの城で拘束されてた男を見て確信していた。それほどまでに脳内に焼き付く恐怖だ、誰かが怖がっていても不思議ではない。


「ザハルやめろって! タータも怖いんだよっ!」

「いいから出てこい。オレ等と行動するなら、同じ方向を向いていて貰わないと気が済まない。少なくとも相当な危険が待ち受けているという情報があるんだ。足手まといになる位ならコイツは置いて行く」

「そ、そうかも知れないけどさ。ほ、ほら。怖がってるならみんなでカバーして行けばいいじゃん」

「黙れッ! オレは関わった人間が身近で死ぬのだけは御免だ。死ぬなら目の届かないところで人知れず死にやがれ」

「ザハルッ! それは言い過ぎだッ!」

「同感や」

儂姫(わしひめ)、お前もかよ!」

「当たり前やろ、どんなんが待ち構えとるかも分からんのに、足が竦んで戦慄(わなな)いとる奴を庇いながら戦える自信があんのか? その所為で自分が死ぬかも知れへんのやで? それをまた庇って庇って庇って、崩れる時なんか一瞬なんや。行きたくないんやったら行かんでええやろ。タータちゃん、悪いけどそんな状態なんやったら置いて行くしかないわ」

『ご主人様は怖がってなんかいないワヨ。ご主人様、出してくれる?』

「ドラドラ……」


 一行の言い合いに俯いたままのタータは、渋々ドラドラを毒の沼から召喚させた。


「あーあーあー、寄って(たか)ってご主人様をイジめるなんて。流石にワタシも黙っちゃいないワヨ」

「理由がある事は分かっている。だからそれを聞かせろと言っているんだ」

「聞く覚悟があるノ?」

「覚悟だと? どんな話だか知らんが、オレにそんな度胸が無いとでも思っているのか?」

「分かっちゃいないのヨ、アンタは。ご主人様はこれから先に起こる事を予測しているノ。それはワタシの為、延いてはみんなの為にもなるって」

「どういう事だ」

「簡単な事よ。これ以上進めば、全員が無事に帰ってこれる可能性は極めて低いワ」

「ほらみろ! やっぱ怖いからなんだって! だからみんなで協力していけばいいじゃん! な! ザハル! お前だってそれなりの手練れだろ? アルだってそうじゃん! ドームだって居るし、儂姫も居る! タータ、心配すんのも分かるけどみんな強いんだって! 全員で協力しようぜ!」

「……」

「ダメなのヨ……あそこに居るのは、そんなレベルでどうこう出来る相手じゃ無いノヨ。必ず誰かが……」

「ドラドラ、いいよ」

「ご主人様! だけど!」

「分かったぞ、放浪娘。あそこには紺紅(こんこう)祖竜(そりゅう)が居ると言っていたな。大方、ドラドラに関係があるんだろうよ。親か? 仲違いした仲間か? 門前払いでも食らいそうだな」

「……」

「なんとか言いやがれッ!!」

「ドラドラが()()と接触すれば、この世界がどうなるか分からない……」

「彼女? ルシエ・ティアルマートは雌だとでも言うのか?」

「ザハル、もういいだろ!」

「いいやダメだ。ここで情報が得られるならできるだけ引き出す必要がある。それに二匹が接触すると世界がヤバいだなど、そんなあぶねえもん早く取り除かねえとオレ達が危ないんじゃないのか?」

「そうかも知れないけど……分かった。なあタータ、教えてくれないか? ドラドラがあそこに行くとどうなるんだ?」

「世界を巻き込んだ竜族の争いが始まる可能性があるの。誰も止められないと思う。(こん)(こう)()を持つ彼女の力は、絶大なんて言葉で計れないの」

「そんな奴相手にするのも危険だけど、仮に放っておいたらどうなる?」

「ううん、変わらない。その争いが早く起きるか遅いかの違いなだけ」

「ど、どういう事だ?」

「その為にドラドラはタータと出会ったんだと思うの」

「決まりッ!」

「何が決まったんだリム、まさかその争いを起こそうって言うんじゃないだろうな」

「そのまさかだゼ☆」

「はあ!? アンタ頭おかしなったんちゃうか? 仮にタータちゃんの言う事が本当やとしたら、アンタなんかアリんこ以下やで? そんなんで何が出来るって言うねん」

「どの道世界を巻き込んでしまうんだろ? なら遅かれ早かれ相手を見ておく事も必要じゃん?」

「聞くが、お前はその争いの渦中になろうとしている訳じゃないだろうな」

「……え?」


 リムの顔には汗が垂れている。図星だった様だ。


「なんでそんな危険だという争いに飛び込んでいこうとする?」

「だ、だって……仲間が絡んでる、から?」


 その言葉を聞いて、一同はハッとなる。まだ出会って間もない彼らの中で人一倍仲間意識が強かったのがリムである。皆も表に出してはいないが、共に行動するという事はそういう事なのだ、と。

 リムは仲間の為ならなんでもすると、そう言っている様にも聞こえたが何せ規模が規模である。


「おいリム、一つ聞かせろ」

「なんだよザハル、文句なら受け付けないぜ」

「仮にだ。オレの国が滅びそうになった場合、オレは皆を放ってでもブラキニアに戻ろうとするだろう。その時、皆が危機に瀕していようがオレは国の為の行動を取る」

「あーあーあー。その先は言わなくて良いよ。そん時はそん時。お前が居る状態で既にヤバイ状況なら抜けても同じ事だよ。オレは潔くその状況に区切りを付けて皆でブラキニアに行くだろうよ。誰がどんな時にどういう状況になるかなんて誰にも分からない。だからオレは皆に平等に協力する。だからオレにも協力して欲しいし、一緒にいる以上はその考えに従ってほしい。無理と言うなら仕方ないからバイバイだ。仲間のピンチは自分のピンチなんだよ。おけ? 理解出来た?」

「オレはその意見に従う。成り行きではあるがオレは、オレ達オルドールはリムに救われた。恩と言うならまだ返せていない。だが、それ以上にコイツと共にする事で得られるものがあるんじゃ無いかと考えている」


 先程まで静かに聞いていたドームが口を開いた。


「オレ達ホワイティアにも再び危機が迫らないとも限らない。皆が協力関係を結ぶのであればそこに助力する事も厭わない。それぞれがそれぞれに窮地へと立ち向かえる仲間としている事は非常に心強いんじゃないのか?」

「そんのとーり! よく言ったドーム君!」

「だからと言って相手に出来るかも分からない奴に立ち向かうなんて愚の骨頂ってものだろう」


 アルも一理はあると思いつつも賛同できるものでは無かった。彼はザハルに着いてはいるものの、己の利が無い事には足を突っ込みたくはなかった。


「オレはザハルには着いて行く。だが、リム。お前に従う義理は無い」

「じゃあ、ザハルがそうだと言えばそうなのか? お前は自分の意思で行動しないのか?」

「そういう事では無い。ただ……」

「ただ、何だよ。結局そういう事じゃないのかよ。ザハルに着いて行くって言っとけば自分は楽とでも言いたげだな? そういう奴こそオレは一番信用出来ないんだけどな」

「やめろ」

「いいや、やめないね。オレは自分の意思で行動しない奴は、奴隷と同じだと思ってる。いや、奴隷でも人の心はあるだろうよ。成す術無くそんな状況に置かざるを得ない理由もあるかも知れない。だけど、アルはどうなんだ? お前は奴隷でも無ければ家畜でも無い筈だ。自分の意思が無い奴程弱いものは無いと思っているんだけど?」

「……オレは」

「前に言ってたよな、ナインズレッドが故郷だと。そこに鍵の石板(キープレート)があるんだろ? オレ達が知ってるくらいだ。お前の故郷も穏やかじゃないだろうな」

「……」

「そういう事だ。オレはみんなを仲間として認識している。それが自分達の利益の為だとしてもそれが一つで行動するに足るもんならそれでいいんじゃないの? 一人でいいならとっくに離れてるだろ? 今一緒に居る、それが答えなんじゃないのか?」

「……」

「……」

「……」


 リムの言葉は皆に刺さった。決して目的は一緒では無いかも知れない。それでも一緒にいる事で得られるかも知れない利益に(すが)ろうという気持ちも少なからず有るだろう。今はそれでいいのではないだろうか。リムは思いがけない場所で一行の心を摘まんだのだった。

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