表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/226

第168話 仕組まれた宣戦布告

 今まで行動して来た中で、確かにタータは自身の能力を使って来ていなかった。見た能力と言えば毒、そう毒沼である。しかし、それはドラドラが棲まう為の空間であり、かのドラゴンと主従関係にあるタータならば扱う事に何ら不思議は無い。

 であればミルと交わした契り、混色派生(ミキシング)はミルに豊穣の力を分け与えるはず。


「ねね、なんでミルにはそのほーじょーの力が無いの?」

「分かんない♪」

「そっか☆」

「いやいやいや、分かんない♪ で済ませるなよ! お前もそれで納得するな!」

「えー? だって分かんないんだったらこれ以上聞き様が無くない? リムちんは何か分かるの? 分かんないでしょ?」

「そ、そうだけども! あーもう! なんでこいつらは能天気なんだ」

「お前もいい加減、妹の性格を理解したらどうだ」


 ドームはミルの頭に手を置き、ポンポンと軽く叩いてみせた。


「分からない事は分からないで良いんだ。必要ならオレが代わりに理解する」

「それってちょっと過保護じゃねえか?」

「コイツには必要以上の知識を入れる前に、戦闘に専念してもらいたいからな。現にオレより遥かに戦闘能力は上だ」

「でも兄やと一緒の方が強いよ☆」

「ああ、そうだな」

(ダメだ、コイツはシスコンだ……)


 溜息しかでないリムの肩を叩くザハルは、何やらニヤついている。


「ま、諦めろ。アイツの戦闘能力の高さはオレも認める。オレとやり合える奴なんかそうそう居ない」

「なあ、なんでお前はそんなに自信満々なのか不思議なんだが?」

「何って現にそうだろうが。ブラキニアでの八基感情(ポルティクス)戦では決して遅れをとってはいなかったぞ? アルも相当な色力(しきりょく)の使い手だ。」

「……」

「何か言ったらどうなんだ」

「あー、えー。おい儂姫、率直な感想をどうぞ」

「ミルちゃんもブラキニアの坊ちゃんもヘタレやろ。それに赤いのもそうや」

「なッ!? ヘタレだと! キサマ! ブラキニアの王子に向かってヘタレだと!?」

「儂は商業大国アカソの、その中でも三大富豪に名を連ねるナコシキ家の姫やで。一国の王子か知らんけど、儂から言わせたらどの国の連中も然程変わらんわ。そんな肩書きで自分を誇示せなアカン時点でお察しやろ」

「んぐ……」

「それにさっきの二人組にかて結局決定打も無いやんけ。やったんは儂とハゲやん」


 相変わらず直球の御姫様である。だが事実だ。


「ちとストレート過ぎるけど、そういう事。ミルもドームもホワイティアじゃロンベルト、色功(エクスクエジット)に負けてる。ザハルだってそうだろ? ブラキニアで《嫌悪のディスガスト》に負けはしないにしても、オレがいなかったらどうなってたと思う? アルは実際オレに負けてるも同然だしな。ここらで優劣付けるべきでは無いかね? 王子様」


 リムは鼻高々である。これが一同のリーダーたる者。堂々と皆の前に君臨し、威厳のある行動を取る必要があるだろう。

 しかし、すぐさま飛んできたのはマミの蹴りだった。


「あいでッ!!」

「おいハゲ。なんでアンタが一番上みたいになってんねん。儂のが上や」

「お前とヤる理由も無いけどさ、本気で戦ってオレに勝てると思ってるの?」

「なんや、ヤるんか? 儂は構わんで」

「い、いや……結構です」


 やはりマミにはどこか敵わないリムであった。


「タータもヤるー♪」

「いや、なんでその流れになるんだよ! 今更お前らと本気でヤれる訳が無いだろうが! これでももう仲間だと思ってるんだぜ……」

「あ、そうなの? じゃあ仲間ね♪」

「えええ、仲間だと思ってたのはオレだけだったのか」

「アハハハ! コイツら、おもろいな」

「今にオレの気苦労が分かるよ」


 リムは初めて見た気がした。マミの作らない笑いがこれほどまでに明るく華やかなものだったとは。それにしても強いものだ。先刻、肉親を亡くしたばかりだと言うのに何事も無かったかの様に振る舞っている。強がりなのか、それとも。


「なあ儂姫。お前、屋敷はどうだったんだ」

「……」

「いや、悪かった。今のは聞かなかった事にしてくれ」

「いやええで……オカンは死んだ。爺はアンタに着いていけって言い残したけど、その後は知らん」

「知らんって、お前それでいいのかよ」

「良い訳無いやろ! でも、爺は。それでも爺は自分の介抱よりアンタに着いて行けって言うたんや。それがどう意味か分かっとる。もう助からんからこそ儂に託したんや。今までの爺の訓練を無下にする訳にはいかん。やから儂はこの世界をどうにかするかもしれんアンタに着いていって、元の世界に戻る」

「お前……」

「湿っぽいのは好きやないねん! 協力関係にあるだけで仲間ともなんとも思ってへんからな!」

「そうかよ」

「そろそろ話しは済んだかい」

「ッ!?」


 突如、後方から一人の声が聞こえて来た。そこにはドラドラの首元にクロスボウを突き付けている男の姿が。しかしただのボウガンでは無かった。

 手の甲に装着する木製のコンパクトサイズが両の腕に。更には大型の鉄製クロスボウを、背中に交差させる形で背負っている。クロスボウ四丁とはまたド派手である。


 しかし、更に驚いた事はその容姿である。現代の白いワイシャツに紺色のスーツをピッチリと着こなし、明らかにこの世界の者とは思えなかった。

 顔には、まるで泣いているかの様な表情の黒い仮面を被り、表情は伺えない。ただし頭部からは、少しちぢれた真っ青な短髪が見えた。


(青? 水か? いや、色に惑わされたらダメだ。水以外にも青色で特徴の有るものはいくらでも。両手にクロスボウか)

「残念だよ。君達アステリを持つ者が友好的では無いと思っていたが、この子達をこんな様にしてしまっては。残念だが、完全に僕達を敵に回してしまった。情状酌量の余地は無い」

「そもそも襲ってきておいて、敵に回すも何も無いだろ!」

「それもそうだね」

「一応お決まりの事を聞くけど、お前は誰だ」

「ナジュ・ヴェルア。統合者(インテグレーター)だ。うーん、彼らの上司と言う事にしておこうか」

「目的はなんだ!」

「この子達を返して貰いに来た。僕は報復なんて言う何も生みださない行動は嫌いだからね」


 ナジュと名乗った男は返答したと同時にドラドラの腹部に思いっきり蹴りを入れる。


「グォァアアアアアアアアアア!!!」

「ドラドラッ!!」


 あまりの激痛にドラドラは、先程喰らったカズキの亡骸を吐き出してしまう。地面に横たわる無残な姿に、ナジュは溜息を付きながら肩を竦めていた。


「あーあー、こんなになってしまって」

「おい待てッ……痛ッ!?」


 リムがドラドラを庇う為に動こうとした時だった。足に激痛が走り右太股に目をやると、そこにはナジュのクロスボウの矢が刺さっている。


「動くなよ。君の弱点は分かっているんだ」

(なんだとッ!? オレの能力が物理的な物には効かない事をなんで知ってるんだ)

「あーっと、周りの君達も動くなよ。今の矢はあくまでそこの()()用。残りは色力でいくらでも、何処へでも、音も無く飛ばせる。物理的な物だと高を括ると痛い目を見るよ」

(矢を装填していないクロスボウを向けて言う言葉には思えないけど、色力と言った以上何が作用して攻撃を仕掛けてくるか分からないな)

「みんな待て! ドラドラ、大丈夫か!」

「え、ええ。腹を蹴られただけヨ。だけど、コイツ只者じゃないワ」

「ああ、分かってる。オレの秘密を何故知っている! それにアステリってなんだ!」

「それは企業秘密だ。それが分からない内は僕に挑まない事だ」


 仮面の口元に人差し指を立て、地面に吐き出された()()と息絶えているカズマを抱えると、ナジュは雑木林の奥へと足を向けた。


「君達はまだ弱すぎる。今のまま戦っても意味が無いんでね。そうだ、一つ良い事を教えてあげよう。僕に匹敵する相手は、ファミリア諸島に居るあのティアルマート一族の長だ。あくまで匹敵するだけであって、今のままじゃ僕を倒す事は出来ないけどね。いずれまた会う日が来るだろう。その時は改めて殺してあげよう、イーリオス」

「ど、どういう事だ!」


 彼は意味深な言葉を残し、そのまま姿を消していった。


「……統合者(インテグレーター)。何を企んでいるんだよ」


 彼が残した言葉『アステリ』、それに『イーリオス』とは一体何なのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ