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第167話 月光、岩上の耽り

「儂な、ミーツ族やねん」

「なんとなく分かってたし、それにダロンさんが言ってたよ」

「そうか」


 焦げた臭いが漂う屋敷の前庭。月明りに照らされ、リムとマミは大きな岩の上に座っていた。

 唐突に告げられた闘いの終わりに、二人は不完全燃焼且つやり場の無い虚無感に苛まれていた。


「彼らは結局愛を探していただけなのかな」

「知らん」

「そんな他人事言うなよ」

「他人やろ……」

「……」

「アンタ、なんでそんなに人に入り込もうとするんや。誰かて触れて欲しくないもんもあるやろ。アンタは不躾に人の庭に入ってくるカラスかいな」

「カラス、か。なあ、カラスってなんで黒いんだろうな」

「はあ? そんなん知らんわ。話がすり替わっとる」

「そうか? 黒色ってさ、なんであんなに簡単にも他の色に入り込むんだろうな。オレ、わかんねえんだ」

「そりゃぁ……なんでやろうな」

「オレって黒色なのかな」

「知らん」

「そんな冷たい事言うなよ」

「アンタは灰色やろ。白でもない黒でも無い、どっち着かずの半端もんやないか」

「半端もん、か。そんな奴がこの世界をどうこう出来るのかな」

「やからハゲ言われるんじゃ」

「だからなん――」

「ええか! 世界をどうこう出来る様な人間なんかおったら、もうどうかなってんねん! アンタもそうやけど、儂もそうや。なんでこの世界に、ライカに飛ばされてきたんか考えてみいや」

「考えたさ! でも結局良く分かんねえんだ」

「そういう事や」

「ど、どういう事?」

「儂らがどう足掻いた所でこの世界が変わる事なんて有り得んのや。現実との平行世界? 感情が流れ出る? それを知った所で儂らは何をしたらええねん。結局現実から弾き出された存在に過ぎんのや。そんな奴らが出来る事って言うたらこの世界で、アホみたいに涎垂らして飯食うてるだけやろ」

「ほんっと口が悪いことで」

「生まれつきや」

「それさえなければ相当な女性なんだけどなぁ……」

「アアァ!? なんか言うたかハゲ!」

「なんでもないですー!」


 岩から飛び降りたリムは、お尻を突き出す様に挑発してみせた。


「ほー。ぶん殴って欲しいみたいやな」

「やれるもんならやってみろってんだ、ポンポコリン!」

「言うたなハゲ! 絶対蹴り飛ばしてやるわ!」

「おい! 殴るって言ったのに蹴りに変わってるぞ!」

「ああ? そうか、ほな蹴りや」


 舌を出して更に挑発するリムだったが、気が付けば隣から既に足が飛んで来ていた。


「あがぁ!! は、速いから! お前速いからナシ!」

「分かっとって挑発したんやろ、ボケ」

「んぐぅ……」


 お尻をさすりながら歪ませるリムの顔を見ていたマミが、ふと静かになった。


「なあアンタ。現実に、元の世界に戻れると思うか?」

「いや、それは分かんねえ。でも、オレは秘めているって言われた。それがどういう事か、未だにハッキリしてない。だから今この世界に生きている以上、何が出来るか探すのもアリかなって」

「秘めている、か。儂はな、時が来れば分かるって、アンタに着いて行けって言われたんや」

「うん? どゆこと?」

「いや、なんでもない。もう身寄りが無いねん。とりあえずアンタらに着いて行くわ」

「そうか。一緒に行動してれば何か糸口が見つかるかも知れないもんな」

「言うとくけど、儂はウジウジしてんのが大嫌いやねん。泥みたいにベトベトしよったら置いてくで」

「へいへい」

(コイツもなんだかんだ寂しいんだろうな。身寄りが無い、か。なんでこうも集まる人間は身内に色々ある連中ばっかなんだろうな。とりあえず行く先は、ファミリア諸島か。依頼主が不在だけど、ここに留まる理由も無いし目的地が定まってた方が良いよな)


 その時、傷を負っていたミルやザハル達からどよめきが起こった。


「ええええ!? どゆこと!? え、え、えええええ!?」

「どうしたんだ!?」


 驚くのもそのはず。相当な傷だったはずのミル、ザハルの傷が完治しているのだ。視線の先はタータだった。


「え? あれ? 言ってなかったっけ? タータ、治癒色操士(ちゆしきそうし)だよッ♪」

「えええええええええええええええええええ!!!!!」

「だだだ、だってほら! お前、ミルとやり合える程の……」

「んー護身術?」

「ど、毒はどうなんだよ」

「あれはドラドラの能力だよ?」

「えええ、そんなバカなぁ」

「タータは豊穣の力があるんだってさ♪ 昔、お母さんに言われたんだ♪」

「か、軽いんだけど。こんな豊穣有りなのか?」

「見て見て♪」


 そういうとタータはネックレスの星を握り締めると、拳から血が滴ってきた。


「お、おい。大丈夫なのかよ」


 その血が焼け焦げた地面に落ちると、不思議な事に焼けた草花が息を吹き返すが如く、青々とそそり立ってくるではないか。


「……」


 ここに来て一同、驚愕の事実を知る事となる。月明りが一層、彼らと活き活きした草花を照らしていた。

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