第165話 無茶振り
――一方、未だ膠着状態が続くリムとカズキ。
「どうする。このまま長引けばアイツらに加勢しに行く時間が延びていく」
「え? なに? 勝つ気でいるの? 無理だよ」
「無理かどうかはやってみないと分からないってね!」
リムは再び光の剣を出現させ、カズキへと投げ付けた。が、結果は同じ。目前に迫った光剣はピタリと止まり霧散していく。
(どうすれば当たる。アイツの周囲の時間は止まる……どうすれば)
その時だった。カズキが戦慄き始めた。
「ど、どうして……ッ! 何故だ! 有り得ない!」
「ん?」
「カズマが……嘘だ! カズマが!」
カズキの視線の先は、地に伏したカズマの姿と物憂げに立ち尽くすマミの姿だった。突然に訪れた仲間の有り得ない敗北に、カズキの表情には明らかな動揺が見て取れた。
「お前の相棒は負けたらしいな。で、どうする? まだやる? こっちとしても一人相手に大人数で袋叩きにする程趣味は悪くないんだけど?」
「ウソだ……嘘だウソだウソダ!! カズマが負ける筈が無い!」
「おいおい、冷静になれよ。現実を受け入れるのも大切な事だぜ?」
「ウソだ……カズマに傷が付く筈が無い……」
「聞いてねえ、か」
マミがゆっくりと顔を上げ、リム達の様子を見ている。
(ん? なんだろう、いつもの儂姫にしちゃぁ元気が無いな)
「カズマが、カズマが……アアアアアアアアアァァア!!!!」
カズキの様子がおかしい。明らかに冷静さを失っている彼は、リムの存在など気にする様子も無い。頭を抱え、口からは涎が出ている。震えた目は明らかに焦点を失い、とても人間が出せる表情では無い。
「おいハゲ。まだやってんのか」
「う、うるせえ! じっくり戦うスタイルだ!」
「どう戦ってええか分からんだけやろ。そん時は当たって砕けろや」
そんな不用意に突っ込めるのもマミだけだろう。何せほぼ無敵なのだから。
「じゃ、じゃあどうしろって言うんだよ! こいつの周囲は時間が止まってしまうんだぞ!」
「アンタ、ほんま頭悪いな。ハゲ散らかし過ぎて風邪でも引いたんか?」
「は、ハァ!? 言うに事欠いて風邪まで付けて来やがった! 謝れー! 全国民のハゲさんに謝れー!」
「ハァ、冗談すら通用せんのか。いよいよほんまのハゲやな」
「ハゲハゲ言うな!!」
「あんなぁ。簡単な事やないんか? 時間が止まるんやったら止められん様にしたらええだけの事やろ」
「ハッ! そうか! その手が、ってそれが分からないから苦戦してんだろうがよッ!」
「はあ。ほんまバカでアホでハゲやな。さっきアンタが使った色力はなんやねん。もっかい使ったらええだけの事やろ」
「だーかーらー! あれはもう使えそうに無いんだってば! 限界なんだよ!」
「怒るでほんま。儂は今からそいつ目掛けて攻撃を仕掛ける。アンタが考えて援護せな、儂は身体を止められてヤられるかも知れんな。儂の事がどうでもええって言うんなら構わんけど。限界なんて、試しても無いのに諦めんなや。何もせんと喚く位なら、失敗してから嘆いたらどうや。脳みそ、入ってんねやろ」
「んぐ……」
マミはリムの準備など待つ気は毛頭無かった。すぐさま臨戦態勢に入ったマミは、頭を抱え戦慄いているカズキ目掛けて突進し始める。
「ええい! オレがどうなっても知らんからな! 無の拒絶ッ!!」
両手を前に翳し、意識を集中させる。がしかし、空間に変化は無く色力の無力化がされない。このままでは無防備のままマミが突っ込んでいってしまう。
(ま、マズい! どうする、どうする!!)
『そういう時こそ、私の力じゃ無くて?』
(ん? この声は、リリ?)
『思い出して、私の力を。白王の力は真実のみを照らす。貴方には色濃く受け継がれている筈よ』
脳内で語り掛けてきたのは、リムに吸収された白王リリだった。彼女の色力は……。
「さんきゅう! 忘れてたぜ! 儂姫! そのまま突っ込めええええ! 時間は止まらない! それはなんでかって? 止まった時間は置いて行かれた過去。そう、真実は現在のみだ! この瞳は真実のみを映し出す! 真実の眼ッッ!!」
白く変化したリムの目は、真実のみを映し出す眼。マミが振り翳すその腕は、止まる事無くカズキの顔面を引き裂いて行く。
「んがあああああああああ!! い、い、痛い! 痛い痛い痛い痛い!!」
「当然や、ほんでそのまま毒で死ぬんや」
「イヤだ、嫌だいやだああああああ!」
顔面の痛みにもがき苦しむも、何故か一向に毒が効いている様子が無かった。
「ど、どういう事や!?」
「……ハハ! アハハハハハッ!!!」
カズキは狂った様に笑い出し、マミの両手を掴み上げる。間髪入れずに腹部へと蹴りを入れた。
「あはは、痛くないやん。アンタ弱いな」
「アハー! その余裕どこまで続くかな?」
止められたマミの身体に膝蹴り、回し蹴りと腹部に集中的な打撃を浴びせるカズキの顔は笑っていた。
「もういいかな? 累累」
「んぐ! なんて威力や。こいつ、どんな筋力してんねん」
「アハハハ! 痛い? 痛いだろ? 痛いよねぇ!!」
「はなっ、くはッ!! クソが! 離しやがれ! こんのッッ んくぁ!!」
「儂姫ッ!」
「どう? 痛いでしょ? ボクはね、接近戦が苦手なんだ。それはね、止めないと攻撃が当たらないから」
(マズい、このままだと儂姫が……どうすれば……)
再びピンチに陥るリムら、しかしそこへ一つの影が迫っていた。