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第146話 トーチャー

「さあ、まだまだ続くよ? ほら? ほらぁ、ホラァ!!」

「や、やめてッ!」


 カズマの無痛の打撃が幾度となくミルの身体に蓄積されていく。痛くは全く無い。衝撃すらも感じない。幾ら警戒しようにも触れられているかもわからない打撃には、対処のしようも無かった。


「いい? もういい? 行くよ? イクよ!? 累累(ソロウズ)

「早く離し――あぐっ!! うぎぃ! あがぁ!!!」


 時間の止められた身体に現在()が戻ると同時に、累積されたダメージが一斉に襲い掛かった。油断では無い。意識の外からやってくる激痛は、ミルを疲弊させていく。


「いいねぇ……これ、イイねええ!!! カズマ? そろそろ溜まった?」

「ああ、もう少しでコイツ等纏めて微塵に出来る程濃い奴が出来そうだ」


 大きく膨れ上がったブラックホールは更に巨大化していく。周りの空間を吸い込む絶望の黒玉は、木々達を軋め始めた。


「大丈夫? もっかいイケる? 行くよ?」

「おね、がい。死んじゃ、う……」

「何言ってるの? ホワイティアの、オルドールの諜報員がこんな事で死ぬ訳無いじゃない。拷問なんて覚悟の上でしょ?」

「や……め」

「次はさっきより多めにいっとこうか」


 容赦の無い無痛の打撃が再びミルの身体に与えられていく。顔を殴られ、腹を蹴られ、何度も、何度も、何度も激痛が累積する。


「おねがいッ!」

「分かったよ。累積は止める。だから次は現在()を与えよう」

「ッッッ!!!」


 止まった身体が右へ左へと振られる。溜まったダメージの波が時間差で襲う。


「あがっ!! うぎぃ! んくぁ!!」

「さいっっっっっこうの響きだね」

「ハァ……ハァ……」

「ミルッ!」


 こんな姿を見ていられる訳が無い。無意識に動いたドームを止める者は居なかった。


「おっと! 誰だか知らないけど、近付くとミル・オルドールがどうなるか分かってるよね?」

「どうもなりはしない。妹はオレが助けるだけだ」

「妹? ふむふむふむ」


 悠長にリストを捲り確認するが、ドームに関する記載は無かった。


「君、誰? 妹? オルドールのアステリはコイツだけなんだけどな。お兄さん? だったらコイツより優位のアステリでもおかしくない筈。ふむふむ……やっぱり無いや。君、誰?」

「ドーム・オルドール。正真正銘、兄だ!」

「おかしいよ、おかしいよね! 兄妹ならなんでアステリが無いんだろう?」

「さっきから言うそのアステリとはなんだ」

「……知らなくていいよ。リストに載っていないのなら尚更、ね」


 ゆっくりと姿勢を下げ、右足を後ろに下げる。握られた拳には煙が纏い始める。ゆっくりと息を吐いたドームは突進の構えを見せた。


「あれえ? 近付かないでって言ったよね? 君の言う妹がどうなってのいいの?」

(くど)い」

「一本……」

「ッ!?」

「指が一本折れたらどうなると思う?」


 カズキは、未だ身体の動かないミルの指をなぞった。握られた短剣をスルリと抜き取り、指を広げ始める。開かれた指の内、可愛らしい小指を軽く握ると関節とは反対の方向にポキリと折り返した。


「ウソ。や、やめてぇ!」

「先ずは一本行こうか。言う事を聞かないお兄さんが悪いんだよ? 累累(ソロウズ)


 ミルは数秒後に来る激痛に恐怖した。


「もう、やめ――あぐぃぁっ!!!」

「ミルッ!!!」


 小指が折られる痛みが時間差でミルを襲う。しかし身体は動かない。痛みを和らげようと指を抑える事も出来ない。正しく拷問である。


「知ってる? 人ってさ、痛みには慣れるんだよ。だけど拷問を続ける、なんでか分かる? 拷問ってね、痛みを与えて身体を壊すから拷問なんじゃないんだ。心を壊す為にあるんだよ。痛みになれた人間に更なる恐怖を与える為には何が必要だと思う? そう、継続的且つ防ぎ様の無い攻め。人は次第に錯覚を始めるんだ。一度味わった激痛がまた来る恐怖、それは痛みに対してじゃない。また来る、というその先に恐怖する」


 続けて薬指に手を掛けたカズキは、躊躇いも無く手の甲へと折り返す。ポキリ。


「ヒ、ヒィ!!」

「ほら、もう効果が出てきたね。痛みはまだ無い筈なのに」

「クッ! 外道が」

「外道? ボクにはもうそんな言葉なんか響かないよ。だって世界には外道しか居ないんだから。累累(ソロウズ)

「ダメ! おねが――ひぎぃ!!」


 更に襲う激痛。ミルの口からは涎が垂れ、目の焦点が合っていない。


「君は、君達だけは楽に死ねるなんて思わないでよ」


 次は中指。ゆっくりと手の甲へと折り返された時、ミルは限界に達した。


「お願い! もう止めて! 何が目的なの! ミルは何も悪い事してない!」

「自覚が無いのは一番の悪だと思うんだよね」


 少し苛立ちを見せるカズキは残りの人差し指と親指も纏めて折り返した。


「ッッ!!」

「どうする? 今度は三本纏めてだよ。耐えれるかな?」


 既に折られた指、だが痛みはまだ伴っていない。しかし、事実として既に折られているからこそ恐怖する時間差の激痛。


「全員動かないでね。たかが仲間の指五本を折られた位で動揺なんてしないでよ。累累(ソロウズ)

「……んぎぃぁあああ!」

「見てられん。ミル! 今行くぞ! 窒息円煙(サークルスモーク)ッ!!」

「儂も加勢したるわっ!!」


 ドームは周囲に煙を充満させ始める。何かを察したマミは煙の中へと姿を消した。


「ボクに近付く事なんて出来ないよ、マミ・ナコシキ。君は少し厄介なんだけど、所詮ボクの相手は務まらないかな」

「儂が用有るんはお前ちゃうで。桃毒爪(アミグド)ッ!」

「なっ!? 何故仲間を!?」

「別に仲間になった覚えは無いんやけど、なんかアンタのやり方は気に入らんだけや」


 煙から姿を現したマミの光る爪先は、ミルの背中を切り裂いたのだった。

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