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第144話 天下無敵の桃姫様

 桃。それは現世では至極当然の果実。勿論、ライカにも存在する。柔らかい実を持ち、その甘美さは人々を魅了した。だが、それは熟れた実に限っての事。

 

 アミグダリン。未成熟の実や種子に含まれる青酸配糖体。アミグダリン自体に毒性は無いが、果実内にあるエムルシンによる分解によってマンデロニトリルが生成される。それによって分解されたアミグダリンは、シアン化水素と呼ばれる猛毒が発生する。


 では、桃は猛毒の果実なのか。その答えは()であり(いな)である。普段人々が食する物は熟れた実のみであり、その時点ではエムルシンの作用がアミグダリンを更に分解しほぼ無害。

 仮に未成熟の実を食べたとて高濃度接種にはならず、致死量には数百個レベルの桃を食べる事になる。普通であれば害する程の効果が出る事は有り得ない。

 更に言うと適量であればむしろ薬となるとして、一部で使用されていた程だった。


 では何故、是なのか。単純である。普通では有り得ない高濃度を接種すれば死に至るからだ。それを可能にしているのがマミの色力(しきりょく)である。

 桃、彼女の色力は桃そのもの。果実の特性自体が彼女の色素(しきそ)である撫子色(なでしこいろ)が由縁だった。


 超濃度のアミグダリンを体内で生成し、爪先へと抽出される。それはまるで毒蛇の牙の如く猛威となる物だった。軽傷であれ、超濃度のアミグダリンを体内に侵入させるとシアン化中毒に陥り、量次第では死に至る。


 多くの症状は、細胞の呼吸に障害を引き起こすもの。その為、身体は低酸素状態に陥り急激に身体機能が低下する。次第に脳内の酸素が欠乏し、呼吸が抑制され痙攣を引き起こす。その後は、予想通りではあるが、心肺停止となり死に至る。

 この一連の症状を彼女自身の体内で濃度換算し、適量を相手へ与え様々な作用を操るのだ。甘美な果実に似合わぬ効果は、悪魔の実とも言えるだろう。


 状況に戻るとしよう。

 先刻マミが仕掛けた攻撃は、シアン化中毒を引き起こす桃毒爪(アミグド)。対するカズマは身体自身がブラックホール状態だった。

 そのままであればマミの爪がカズマへと届く事は無く、負傷していたのは彼女の方である。だがここで彼女の厄介な特性(パッシブ)しがみつく石(クリングストーン)。彼女が述べた通りである。


 外傷は身体からあらゆるモノを剥がしていく。皮膚、肉、血。だがその全てが骨格にしがみつく様に離れる事は無く、外的損傷を無害にしてしまう。だが、彼女自身痛みは感じる。それは何故か。あくまで身体が骨格にしがみついているのであって、外傷を防いでいるのでは無い。実際には損傷しているのだ。

 であれば無傷に見える彼女のしがみつく石(クリングストーン)の真なる特性(パッシブ)は何なのか。


「おいハゲ。エライ驚いとるやん。やから言うたやん、儂は傷付かんって」

「マジかよ……ブラックホール、もろに受けてたぞ」

「フンッ! あんなもんクソ程も効かんわ」


 マミはそう言っているが、先述した通り損傷はする。カズマのブラックホールに関しては。

 だが桃毒爪(アミグド)は、カズマのブラックホールの影響を受けずに頬へと到達した。それもまた説明が必要だろう。


 マミの爪撃(そうげき)の瞬間を思い出して欲しい。そう、リムの無の拒絶(ホワイトアウト)だ。リムも漸く自身の色力の特性を理解し始めていた。その白き空間は、あらゆる色力を無力化する。力の強弱に伴わない()()()()()()()色力を。正にチート級である。


 しかしここで矛盾が生じている事に気付く人もいるだろう。無の拒絶(ホワイトアウト)の空間であれば、リム以外に色力を発現させる事は不可能。なのに何故マミは桃毒爪(アミグド)を放つ事が出来たのか。


 おさらいしておこう。この世界、ライカでは生きとし生けるもの全てに色素が宿る。その素は生命力その物であり、また素によって得た色力を操れる生き物も限られ、多くは人であり色操士(しきそうし)と呼ばれている。


 マミは自身で色操士と、桃毒爪(アミグド)は色力と謳っていながらもその(じつ)、色素に大きく影響を受けた特性(パッシブ)に限りなく近い能力なのだ。であればリムの無の拒絶(ホワイトアウト)の発現前に、既に生成していた毒は爪へと抽出されている。リムの力もチート級であるが、マミは色素自体がチート級と呼んでも過言では無いだろう。厄介極まりない身体である。


 空間内で力を失ったカズマは、成す術も無くマミの桃毒爪(アミグド)を受けてしまう、と言った寸法である。


 ここまでで彼女の驚異的な能力は分かっただろう。ここでブラックホールを受けた話に戻そう。もう彼女の常人を逸した身体には説明は不要だろうが。

 傷は負っている。しかし無傷である。そのしがみつく石(クリングストーン)の真なる特性(パッシブ)は何なのか。それは……。


「コイツももう役立たずやな。じきに息も出来んなって死ぬやろ」

「本当に大丈夫なのか? お前……」

「あんっ!? 大丈夫な訳無いやろが! ちょっと痛かったわボケ!!」

「ちょ、ちょっと? 無敵じゃ無いのかよ」

「超々速再生」

「え?」

「儂の身体は、異常なまでに骨格に執着した外皮の超速再生や」

「うっそーん。もうチートとかのレベルじゃないじゃん」

「当たり前や! 儂は天下無敵の桃姫(ももひめ)やで! こんくらい朝飯前や!」

「可愛い外見と可愛い名称の割りには、クソキツイ言葉遣いとクソヤバイ色力だけどな……」

「クソクソうっさいねんハゲッ! 毟り取るぞ!」

「矛盾してんだよなーその発言が。ハゲと言うなら毟れまい」

「ウッ……うっさいわボケェ!!」


 マミ・ナコシキと敵対するのは()した方が良いだろう……。

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