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第123話 犬猿休戦

――――ナコシキ邸 地下牢。


「あのなぁ、いくらオレが心配だからって無計画で屋敷に突っ込んでくるバカがいるかよ」

「最初に拘束されたバカに言われたくねぇよ!」

「まあまあ! こうやってみんな合流できたんだからいいじゃん☆ ね、兄や☆」

「事の発端はお前だボンクラ。ザハル、前言撤回だ。コイツ等と一緒に行動できる自信が無い」

「それはこっちのセリフだ、金魚のフンが」

「いいじゃん♪ これで寝る場所が確保できたよ♪ ご飯は貰えるのかなぁ」


 一行は無事? に合流していた。一人一人区切られた鉄格子の中だが。


「オレは別に出ようと思えば出れるの! お前の色力(しきりょく)はもう吸収してんだ。影の中を移動する事だってできるんだよ」

「お前、そこまで出来るのか……」

「ああ、なんだろう。不思議な感覚なんだけどな。吸収した色力で扱える能力は、気付いたら知ってたと言うか自然と頭の中に知識として有ったと言うか」

「便利な能力だな」

「あくまで吸収したそいつ自身が使える能力に限られてるけどなー。だって最初にロングラス大平原でドラドラの火を吸収した時も、火を熾すくらいの知識しか頭に流れてこなかった。火を吸収したら派生とも思えるアルの溶岩も出来そうなんだけど、それはあの時アルから吸収するまでは全く使えなかったしなぁ」

「増々興味深い能力だな。あくまで吸収した色力のみを放出できるのか」

「オレはこの世界で()()()()()補色者(ほしょくしゃ)だからな! ガッハッハー!」

「威張る程の凄い功績がある訳でも無いだろう。ピンと来ないぞ」

「う、うるせぇ! 今からだよバーロー!」


 何故六人が地下牢に居るのか。遡る事数時間前。

 

 地図を頼りにナコシキ邸を目指していたザハル、アル、タータの三人は、暗がりに浮かぶ大きな屋敷を見つけていた。場所的にナコシキ邸以外は考えられない。しかし、深夜だというのに保安隊が巡回しており、屋敷に近付くことさえ叶わずにいた。昼間の騒動を思えば当然の事なのだが、如何せん数が多すぎるのだ。


「これじゃ重要人物が居ますって言ってる様なもんじゃねえか。分かり易い奴らだな」

「当たり前だろう。三大富豪と言われている一角だ。まあ、頭数を揃えれば良いと言う訳でもないがな」

「お前の能力は目立ちすぎる。辺り一面焼け野原にするつもりなら火山にでも行ってこい」

「フンッ。冗談も通じないのか」

「いつからお前は冗談が言える様になったんだ?」

「……」


 薄暗い林の木陰から顔を覗かせ、屋敷を巡回する保安隊の人数を確認するザハル。視認できるだけでもザっと二十人は居るだろう。勿論、ザハルら個々の力としては全く持って問題の無い人数なのだが、リムがどの様な状態で拘束されているかも不明。しかも、相手は三大富豪の一人。ただ金があるだけで富豪と呼ばれる地位にまでなったとは考えづらい。三人は中々動けずにいた。


 そんな折、後方から気配を感じ取るザハル。


「さっすがザハルん☆ この煙霧(インビジブル)兄妹(ホワイト)をいち早く察知するとは☆」

「ミルっち!!」


 ミルの姿を確認するや否や、タータは抱えていた食べ物を全て放り投げ一目散に飛び込む。


「大丈夫だった!? 怪我は? 頭とか打ってない?」

「タータん、大丈夫だよ。ありがと☆ 頭は、今押し倒されて打ったけどね」

「良かったぁ!!」


 涙ぐましい再会である。と言ってもたかが数時間なのだが、一行の身に降り注ぐ出来事はそれぞれが濃ゆいモノだ。時間の感覚は非常に長く感じるだろう。


「目が覚めたのか……」

「ああ……」

「……」


 ミルの後ろに居たドームの姿を確認したアルは、隣に立つザハルの無言の反応を確認し口を開く。


「オレはお前の故郷やお前等自身に興味は無い」

「ああ……」

「ブラキニアではお前を殺すつもりでいた」

「ああ……」

「今でも気に掛ける理由は無い」

「ああ……」


 ドームはゆっくりとアルへと歩み寄る。目の前まで来てじっと目を見つめるその眼は、怒りや恨みとはかけ離れた無感情の様に見えた。数秒の沈黙の後、ドームはアルの右肩をポンっと叩き、横切る。


「それが戦争だ。今、オレとお前の間に戦争をする理由は無い」

「お前はそれでいいのか。故郷を焼いたんだぞ」

「憎いさ。だがな、ここでお前を殺せばオレの気が晴れるとでも? リムは許さないだろう」

「何故そこまであの灰色に拘る」

「恩人、だからだ」


 気付けばタータと喜びの再会を終えていたミルが、軽く飛び跳ね準備運動をしていた。そう、それは彼女の合図。息を付く間も無く()()()彼女、屋敷周辺に居た二十名程の保安隊は既に地面へと伏していた。


「リムちんがここにいるんでしょ? なら行くだけじゃん☆」

「じゃん♪」


 タータも嬉しそうに後に続く。


「オレはアイツ等がよく分からない」

「ああ、オレもだ。だが、少なからず導かれたとも思っている。ナニかを持ってるんだろうよ、アイツは」

「まあいい。お前がそう言うならオレは着いて行くだけだ」

「ああ、とりあえず続くぞ」


 遅れてザハルとアルも屋敷へと突入するのだった。


――――ナコシキ邸正面入り口。


「すみませーん! ここに灰色の髪の毛で左に角のある人居ませんかー?」

「馬鹿野郎! リムが捕まってる場所でそんな伺いを立ててどうすんだ!」


 まあ、結果はお察しだ。ミルが声を張り上げた途端にガコンッという音と共に床が抜け落ち、リムの眠る地下牢へと一直線に滑り落ちる。


「おおお! 面白ーい☆ 滑り台みたーい☆」

「ザハル……しつこい様だがもう一度聞かせてくれ。本当にコイツ等に着いて行って大丈夫なのか?」

「気が合うな。オレからお前に再確認しようかと思った所だ」


 ミルとタータはもうウッキウキである。ドームはただ無言で後から。残る二人は深い溜息を漏らしながら地下牢へと滑落して行くのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミルちゃんとタータちゃんの軽いノリと、ザハルさんとアルさんとの空気感の違いがものすごく読んでて楽しいです(笑) ザハルさんとアルさんはこれからもきっと何回も「この一行と一緒で大丈夫だろうか…
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