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第122話 アカソの思惑

「ここより少し南西にある例の諸島についてだ」


 本題も本題、商業大国アカソにとって重要視している問題の一つだった。西側の流通を主に管理しているナコシキにとって、その諸島とやらが大きな問題となっていた。


 通称ファミリア諸島。アカソより西へ進み、植物が殆ど自生していない山々の間を南に抜けると姿を現すその諸島は、周辺諸国にとっては目の上の(こぶ)だった。

 ファミリア諸島の海域は何故か黒く淀み、船が侵入すると必ず消息を絶つと言われ、海路は迂回せざるを得なかった。その為、アカソへの海路侵入は南か東からに限られ、西からの流通は陸路のみとなってしまっている。

 幾度となく諸島の調査を行ってきた。しかし調査隊が帰還する事は殆ど無く、稀に帰って来た者達からはまともな情報は得られず、皆口を揃えてこう言った。


「二度と行きたくない」


 それからというもの、その諸島についての悪い噂が飛び交う。悪魔が棲む島、死の島、怪物の咆哮が止めどなく聞こえて来る鬼の島など。

 次第に公的な調査は行われなくなり、一部の命知らず達の好奇の的になり始めた。数々の冒険者や根無し草の腕自慢達が侵入を試みたが、戻って来た者は一人も居なかった。

 三大富豪の中でも特に西側を担うナコシキにとっては一大事であり、このまま流通路が限られたままだと今後の立ち位置も危うくなる。誰それ構わずに情報提供者に金銭を渡すと公言すると更に噂は飛躍し、三大富豪すらも求める秘宝があるとまで言われる様になった。

 勿論ナコシキは自国だけに頼らず、更に西に位置するソルウスと呼ばれるミーツ族の住まう国とも協力関係を結び、対処に当たろうとしていたが結果は変わらなかった。


「ファミリア諸島は関わらぬ方が良いという結論に至ったでは無いか。今更話を持って来られても困るぞイロウ殿」

「それで良いのですか? キヨウ殿。貴殿らがアカソ一族によるこの地の再統一を目論んでいる事は既に知っているのですよ。ですが、それを良しとしない人達も居ましてね」

「ハハハ! とんだ言い掛かりですな。今まで協力関係にあった仲を違えようとする発言はいささか軽率に思えますがな」


 イロウの目は真っすぐシオンに向けられていた。


「であれば可笑しな話ですな。先程の近辺報告の中に無かった事案については何故話さなかったのかな? シオン殿」

「……」


 ここで初めてマドカ・アカソの使用人であるシオンが動揺を見せる。


「つい先日、ブラキニアで内乱が起き、ブラキニア一族が追放されたという情報が入りましてね。属国も含め、ブラキニア帝国の牽制を担ってきた事は承知しているが、崩壊しかけている国に対して更なる軍備強化はどういった意図があるのか、その口で教えて頂けないだろうか。私達はあくまで商人の国として治める者。自衛は勿論だが、他国に攻め入る様な素振りは今後のアカソの立場を揺るがしかねないのではないかな?」

「……」


 正に痛い所を突かれたと言うところか。イロウは戸惑いを隠す様にカップのお茶を飲むが、テーブルに置く事が出来なかった。微かに振るえる手を抑える様にカップを両手で掴み、小さな呼吸を繰り返している。


「それにイロウ殿。ホワイティアも数日前に内乱が起き、漸く治まりを見せつつあると聞いているが、現国王のエミル・ホワイティア様とは何かお話を?」

「あ、ああ。勿論だとも。今はかの国も不安定である為、小規模ではあるが物資と人手を貸している」

「おかしいですね。私が把握している限りですと、謀反を起こしたのはハック家の二名のみであり、国としてそこまで損耗しているとは思えないのですが。しかも、物資はマドカ殿の懐から出ていると認識していますが? 内偵を意図しているのでないのか?」

「う……」

「あまり私を舐めないで頂きたい。貴殿らの行動は、商業大国アカソ三大富豪として目に余る!!」

「ナコシキ殿、私からも一つよろしいでしょうか」


 裏を取り、執拗に攻め立てるイロウに反論するかの様にシオンが口を開く。


「現在ナコシキ邸に居られる人間がどなたかご存知でしょうか?」

「さあ、何のことだ」

「貴方とて情報の秘匿は関心しませんよ?」

「何を言っているのか検討もつかないのだが」

「何故マドカ様が軍備を強化されているかまでは御存知無い様ですね」

「……」

「ブラキニア帝国を崩壊に追いやったとされる一味と追放された現王子ザハル・ブラキニアが、ナコシキ邸に匿われているという情報を掴んでおります。私としては非常に看過し難いのですが」

「ッッ!?」


 イロウにとっては正に寝耳に水であった。と、同時に娘であるマミの存在が頭を過る。


「それこそ言い掛かりだ。ナコシキの当主である私が知り得ない事実を何故マドカ殿が存じているのだ」

「それはたった今、マドカ様から意思共感として得たからです」

「な……」


 三人がそれぞれに持つ情報網を駆使し、この場を優位に立とうとする。戦場はいつも情報からなのだ。だが、リアルタイムで情報を共有できるシオンは、この場においては一つ抜きんでている。


「その様な情報を掴んだのですからブラキニアに対しての軍備強化は、至極全うな行動だと思われませんか? それにその一味の中にホワイティアの属国であったオルドール家の人間も居るとの話です。しかも白軍の諜報員として。お分かりですか? 既にこちらに潜られているのですよ」

「むぅ……」


 これだけ頭の回るメイドは流石に居ないだろう。マドカ・アカソが絶対的な信頼を寄せている事は明白だった。


「とんだ失態だな。すまぬが私が把握していない以上、この話については持ち帰らせて頂きたい。必要とあらばその者達を拘束し、改めてこの場に出させよう」

「私は構いません。ファミリア諸島に関しては、あちらから動きを見せたという話は聞いていませんので。一応、三人の中で話が出た以上は情報を集めておきます」

「すまない」


 イロウはゆっくりと立ち上がり応接室を後にする。時間は既に明朝、薄明るくなっていた空を疲労の目で細く見つめる。


「マミ……また厄介な奴らを招いたのではないだろうな……」

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