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第119話 逃亡と捜索と一輪の花

――――アカソの南に位置する港にて。


 ザハル達は、ナコシキ家保安隊の目を掻い潜りながら屋敷を目指す。しかし、肝心の屋敷が何処にあるのか見当が付いていない三人は、ただ闇雲に商店街の裏路地をひた歩く。

 見つかりそうになればザハルの影の中へと潜み、隠れて出てはを繰り返していた。


「おいタータ。お前の持っているパンパンに入ったその袋に街の地図くらい入ってないのか」

「無い♪」

「まさか本当に食べ物だけだとは言うまいな」

「え? そうだけど?」


 タータの笑みを前に二人は深く溜息を付く。


「悪いがアカソは来たことが無い」

「ああ、オレもだ。一度でも来ていれば影で移動が出来たんだがな……」

「タータも無い♪」

「お前はもういい。お荷物が()()()を抱えているだけで不愉快だ」

「ああ! アルっちそんな事言うんだ! ご飯あげないよ!?」

「お前等、静かにできねえのか。仮にも人が密集している地域だぞ。夜にもなれば尚更静かな所にお前等の声は響くんだよ」


 タータは周りを見渡し、ガサゴソと袋の中からフランスパンを口に咥え、ザハルに見て欲しいかの様に自分を指差す。


「……まあいい。それで静かになるなら咥えてろバカ」

「んー!」


 必死に反論をしているタータなのだが、パンで塞がれた口からは言葉を発せない。ザハルの言う様に、かなりのバカなのか天然なのか。


「いいかお前等、先ずは街の地図を確保する。その為にはやはり保安隊のいる場所に近付く必要があるだろうな」

「この街の自警団ともなればそれなりの地図は必ず持っている筈だな」

「ああ」

「んーんんー! ん-ん-ん-!」

「パンで塞がれていても五月蝿い奴だな」


 アルはタータの口からはみ出ているパンを更に押し込み黙らせる。


「アル、この街で保安隊とやらが拠点にするならば何処が適所だと思う」

「まあ、これだけ大きな街であれば一つとは考え難い。だが、確実にあるとするならば港だろうな」

「だろうな。ブラキニアも同様だった。商船から降ろされる荷の検査は誰がするにしても、必ず厄介事が発生する筈の港には拠点を置く」

「んーんー!」

「だが、今から戻っても保安隊の巡回が厳しいぞ」

「それはどこに居ても同じだろうよ。それにこの闇夜ならオレの色力(しきりょく)が大いに役立つ」

「んーんんんー!」

「だからさっきから五月蝿いんだよ! なんだ!」


 ザハルは詰め込まれたパンを引っこ抜く。


「ありがと♪ ちょっと詰まってて苦しかった♪ 地図なら宿屋にあるのを見たけど?」

「それを早く言え!」

「だぁーってー、静かにしろって言ってパンも出せないんじゃ教えられないじゃん!」

「あー、分かった分かった! で、宿屋の何処にあったんだ?」

「普通に宿のおっちゃんの居たカウンター? の直ぐ横に『観光案内地図 一枚一〇〇〇ユーク!』って書いてあったよ♪」

「……」


 灯台下暗しとはこの事である。二人は更なる溜息を付くのであった。


「一〇〇〇ユークか。おいタータ、今いくら持ってるんだ」

「無い♪」

「じゃあその食べ物は何処から出て来たんだよバカ野郎!」


 ザハルはタータのこめかみにグリグリと拳をねじ込ませる。


「あーん、痛い痛いよーザハル! 痛いってばぁ!」

「いいから早く手持ちの金を出せ」

「なんで? 普通に取ってくればいいじゃん♪」

「オレは盗みをしない。いくら瓦礫になってしまった宿屋だとしても、店主が死んでしまったとしてもだ」

「固いなぁもー。でも本当にお金は残って無いもん。全部食べ物に使った♪」

「ザハル、お前の信念も分かるが今は悠長な事を言っている場合じゃないぞ」

「……わぁーったよ! いいかお前等、絶対ここを動くんじゃねえぞ」


 二人に釘を刺し、ザハルは自身の影に沈んで行く。


「いてらさぁーい♪」


 瞬時に宿屋内の影へと移動を果たしたザハルは、保安隊の気配が無い事を確認し辺りを見回す。二階は既に無いに等しい状態。それに加え衝撃の影響か、一階までもが荒れた状態である。

 タータが見たというカウンター付近を探すと、確かに地図販売の張り紙は有る。だが肝心の地図自体が見当たらない。静かに周囲を探すザハルだったが、暗闇の中ではなかなか見つける事は難しいだろう。それに加え、足元の木片の折れる音がパキパキと嫌な音を立てる。


「これか……」


 暫しの時間を要し、漸く見つけた地図を手に取ったザハルだったがその場を動こうとしないザハル。やはりどんな時でも信念は曲げたくない様子だが、無一文ではどうする事も出来ない。

 足元には、崩落した木片の犠牲となった店主の血痕だけが残っている。渇いた血を見つめるザハルは、奥に見える中庭へと静かに足を進めた。


「すまない店主。金はいずれ払う。今はこれで勘弁してくれ」


 ザハルは中庭に咲いていた一輪の白い花を摘み、血痕の真ん中にそっと置くとその場を後にした。


 二人の元に戻ったザハルは、手に入れた地図を広げ現在地を指し示す。


「今居る位置は大凡この辺り、港より若干北西だ。宿屋は更に中央付近、この辺り。この地図を見る限りではナコシキ邸は西の林の更に向こう。都合の良い事に街外れだ」

「ナコシキとやらの屋敷が西で、北と東にアカソ邸……アカソとはこの街の名前じゃ無いのか?」

「それは後だ。今はリムが拘束されている筈のナコシキ邸に行こう」

「分かった」

「あいあいさー♪」


 三人は地図を頼りに街を沿い、林の中へ消えていくのであった。果たしてドタバタ三人組は、無事に目的のナコシキ邸へ着く事ができるのだろうか。



挿絵(By みてみん)

ザハルが地図を入手した事により、アカソの街並みが公開されました。

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