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第115話 押して引いて、オスワルト

――――暦刻(れきこく)の休息地 数ある内の一室。


「まず君が疑問に思っている事を話しましょう。しかし、全ての問いに対して応じるかは貴女次第です」


 チェアーに揺られていた男がゆっくりと立ち上がり、ミルへと振り向く。白く透き通った長い髪は臀部辺りまであり、振り向いた際に遠心力でフワリと広がる様子は非常に軽そうである。

 体毛と言う毛が全て真っ白に染め上げられ、灰色の瞳は不気味さを増す。

 ミルは違和感を覚える。だが、その反応は直ぐに答えとして返って来た。


「ああ、不思議に思いますか? そうです。私は君達で言う色素が極端に薄い人間。馴染みが無いかも知れませんが、私はアルビノと呼ばれる先天的な薄い素の持ち主です」

「聞いた事無い」


 ミルは男に対して若干の警戒を見せつつ、その隣に立つオスワルトにも気を配る。


「オスワルト? 彼女に何かしたのですか?」

「んー? なーんも?」

「何故彼女がこの様に警戒しているのですか? ここへ来るまでに何をお話に?」

「ん? なーんも!!」


 ニカニカと歯を見せて笑う顔を見た男性は、呆れた表情を見せる。


「申し訳ない事をした様です。この子に代わって謝罪を」

「そんな事はどうでもいいの。それよりアンタは誰? ここは何処なの?」

「私はマンセル。マンセル・シーナリーズと申します。この子はオスワルト・トランゲート、この場所をつなぐ唯一の存在です」


 勝ち誇った様にグッジョブするオスワルトは、やはり見る者からすれば幼女である。可愛げでありながらも生意気さをフレーバーに、そのフォルムを形容するならばクソガキ幼女。


「先程も申した通り、ここは暦刻の休息地と呼ばれる(とき)の狭間です。貴女が歩いて来た廊下は(とき)の廻廊と呼ばれる、そうですね……貴女が分かり易い様に説明するのであれば時間を歩いて来た、と」

「よく分かんないなぁ」

「ではこれはどうでしょう。貴女は先程、アカソの宿屋からここへと通じる扉に入った。その後一時間以上歩いて来た部屋がここです。しかし、ここは貴女方が宿泊した部屋の外よりも遥かに近く、部屋の中よりかは遥かに遠い場所です。貴女はここに至るまで距離を歩いて来たのではなく。時間を歩いて来たのです」

「ふーん。で、ミルはなんでここに呼ばれたの?」

「おや、意外ですね。この場所自体にはさして興味が無いのでしょうか」

「別にー? 兄やが無事で一緒に帰れるならそれで良いし、その子しか出入りできないんだったらミルでも簡単に人質に取れるもん」


 ミルの現状把握は冷静だった。この場所が何処であろうと自身と兄に危険が及ばないのであれば、脱出を計るのみ。しかし、その方法も本人らが告げた通りオスワルトにしか出来ないのであれば目的は一つ。

 ミルはどう動くべきか、会話の中で試行錯誤をしていた。素直に話を聞いていればここを出られる保証も無い。部屋の往来の自由がオスワルトのみとなれば兄は人質と相違無い。であればオスワルトの身を盾に交渉する事が現実的だろう。


 ミルの考えが固まる、と同時に()()()。瞬きする間も無くオスワルトの首に短剣が突き付けられる。


「やれやれ、何故その子なのですか。道理であれば私を盾にした方がこの部屋を出る確率が上がりますよ? まあ、それも取るに足らない程に極僅かな差ですが」


 マンセルは慌てる様子も無く再びロッキングチェアーに座り揺れ始めた。


「本来ならば彼を先にここへ招きたかったのですが、事情が事情でしたので急遽オスワルトを向かわせました」

「事情って何?」

「貴女はまだ死んでも良い存在では無いのです」

「何が言いたいのかさっぱり分かんないんだけど!!」

「今はまだ分からなくても良いと思うよ」


 人質になっているオスワルトはミルの構える短剣の切っ先に人差し指を当て、スーッと押し退けて見せた。

 ミルは思いもよらぬオスワルトの行動に困惑する。幾人もの首を切って来たミルの相棒である短剣は、切っ先から刃元まで常に研かれている。それは人の身体に宛がい、ほんの少しの力を込めるだけで骨にまで到達する。それほどまでに鋭利な短剣を勢い良く振り翳せば切断する事など造作も無いだろう。

 それはミルが一番良く知っているからこそ、切っ先に当てられた少女の指が血を滲ませる事無く、自分の意に反して動く()()に動揺すら覚えたのだ。


「この子を脅すには少々物足りない得物だったようですね」

「ざーんねーん賞! ウシシシ!」

「まだ早かった様ですね。いずれまた来る事になるでしょう。その時は彼と共に……」


 スルリと股の間を抜けたオスワルトは、ミルの腰に巻かれている皮ベルトを引っ張り出した。最早正常に物事を考える事すら出来ない程に混乱しているミルは、ただ引っ張られる身体を踏ん張る事しか出来なった。しかし、どれほどに踏ん張ろうとも一回、二回と引かれる毎に抗う事が出来なくなり、遂には宙に浮く程に引っ張り上げられてしまう。


「忘れないでね! キミはまだ死んじゃダメなんだからッ!」


 そのまま外に引き出され、オスワルトに手を振られた後に扉は静かに閉まる。だが、再び扉が勢い良く開くとドームを背負ったオスワルトが出て来る。


「忘れるとこだった! はいッ! お兄ちゃんどうぞ! じゃあねッ! ()()()()()()()()ばいばいにー!!」


 ドームを地面にゆっくりと寝かせ、オスワルトは再び扉の中へと消えるのだった。

 アカソにある商店街の路地裏には、闇夜に包まれたミルが整理の追いつかない状態で佇むのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] この出会い、いったいどういう意味があるのか……マンセルという人がアルビノというのもとても興味深いです! この世界でアルビノという存在がどういうものになるか、どこでもドアのオスワルトちゃんの…
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