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第104話 因果の拳は常に光る

――――時は色暦(しきれき)二〇一五年 降月(こうづき)上旬。


 雨がパラパラと降り、晴れては雲の間から太陽を覗かせる。そんな天気の変化を繰り返しながら日々が過ぎていく梅雨時期。

 しかしここ、商業大国アカソではその位の天候で動きは止まらない。海洋から迫り来る大小様々な船は、我先に港へと船首を突っ込ませようとしている。

 頻りに商人が運送を急かす声。柄の悪そうな海の男の声。走り回る子供を追いかける親の姿。時刻はまだ早朝だが、活気に満ち満ちている様は海からも容易に見て取れた。


「ほ、ほぇー。さすがおお……アカソ。商業大国って言われるだけあるな。なんつー人の多さだ」

「イーストブラックの港街も、昼間はこの位の活気はあるぞ」

「ほーん」


 未だ上陸できずに停泊の順番待ちをしているリムらが乗る商船。甲板の手すりに身を乗り出すリムは、無邪気に目を輝かせている。一日と経っていないのだが、自国を懐かしむザハルの心は既に先を見ている様子だった。


「スキありぃぃぃぃぃぃい!!!」


 突如ミルが、ザハルの顔面を思いっきりぶん殴る。余りにも唐突過ぎる攻撃に、ザハルは成す術も無く甲板後部へと吹き飛ばされていった。


「ザハル! 討ち取ったりぃいいい!」

「何してんだお前……」

「え? ザハル討伐☆」


 綺麗に整頓された荷に埋もれるザハルは、身体に崩れ落ちて来たリンゴを掴みミルへと豪速球を繰り出す。


「貴様ァ!! 何のつもりだ!」

「んー? だってザハル君、隙だらけだもん☆ そんなんで着いてこれるの?」


 投げられたリンゴを楽々キャッチし、一齧りした後タータへ放り投げた。素早く受け取り目を輝かせたタータは、一連の流れなど構う事無くムシャムシャとリンゴの味を堪能している。


「食べ物ッ!! んまんま!!」

「貴様に言われるまでもねえさ。オレぁ祖国奪還の為に鍵の石板(キープレート)を手にして力を付ける」

「ふーん、じゃあ気の抜けた時は迷わずぶん殴るね☆ 忘れないでよ、アンタは……ミルの仇なんだから」

「……いつでも受けて立つ。それが戦争の因果だ」

「ハァ、お前等程々にしとけよ」


 リムは再び抱える旅の不安に重い溜息を漏らしていた。ドームは未だ目を覚ましていない。起きた時にアルの姿を見たらどう思うだろう。第一声はリムにも予想は付く。そこからどう説得するか、だがそこはミルが何とかするであろう。


「だけどザハル。連れ出したオレが言うのも変なんだけどさぁ。オレ等とお前が一緒に行動する意味ってあんのかな」

「あの状況を見せられてオレにその答えを求めるのか?」

「あの状況? ああ、ガメルか」

「元はと言えば、オレは父の捜索をしていた身だ。その必要が無くなったにしろ今は、お前の中に居る状態ならば人質と変わらないだろう」

「いや、まあ。人質のつもりは無いんだけどね。そもそもオレは中の二人を開放したいの。でもその方法が分かんない以上は、世界を見て歩くしかないのかなって」

「ならばオレからの提案だ。ナインズレッドにあるとされる鍵の石板(キープレート)まで付き合え。父を開放できる糸口が見つかるかも知れないだろ」

「まあ、全く情報がないんじゃ動きようが無いしなぁ。気が変わらない内は停戦って事で頼もうかな」

「停戦ねぇ……それはあの暴力娘に言ってくれ」


 ザハルは、甲板を走り回って楽しそうにタータとじゃれているミルを見ていた。


「それは無理だろ。お前、自分で因果だって言ったばかりだろ? 相手してやってくれよ。オレも疲れる」

「ハァ……」


 二人は項垂れ、溜息は深く深く海へと吐き出された。



――――商業大国アカソ 西の洋館。



「い! や! じゃ!」

「姫、その様な我儘をおっしゃらずに……」

「嫌と言ったら嫌! 儂はなんでいつも引きこもりなん!? なぁ! なんでなん!? 教えてくれ爺!」

「そんな事を言われましても……」


 姫と呼ばれた女性の声は、巨大な洋館の外までも響き渡る。森に囲まれたこの洋館では近所迷惑という程周囲に気を配る必要は無いのだが、それでも大きな声は森に棲む野生動物が身を隠すには十分な()だった。


「この前もそうやった! 折角面白そうなんになんで行かしてくれへんの!? 儂の退屈度がもう限界突破しとんよ!」

「ダメなものはダメなのです。御願いですからご主人様の言い付けをお守り下さい、姫」

「おとんが何よ! いつも家におらんで外で遊び惚けとる癖に、娘には閉じ籠って内職でもしとれってか! もうそんな時代は終わったの!」

「……」

「いい? 行くわよ?」

「……仕方ありません。私はお手洗いに行ってまいります。その間に姫はちゃんとご自分のお部屋にお戻り下さい。夕刻には御呼びにいきますので……」


 執事と思われる髭の生えた老体は、肩を落としながら洋館の奥へとしんみり姿を消すのだった。


「……フヒ! サンキュー爺や。ちゃんと戻ってくるからッ!!」


 洋館の扉を開き、一目散に森を駆けて行く如何にも気性の荒い姫と呼ばれた女性。彼女が身に纏う波乱の人生が、後にリム達を大惨事へと巻き込む事になる。

 漸く始まる本格的な旅。リム達を取り巻く環境はこれからどう変化していくのだろうか。


――第三章、宿望の桃。開幕。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミルちゃんの気持ちの整理が完全にはついていないのかもしれないけれど、とりあえずは何とか一緒に行動できそう!(*'ω'*) ザハルさんにはぜひぜひブラキニア再興にむけて頑張って欲しいので、キ…
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