第101話 導かれる色達
イーストブラックの埠頭にいち早く到着したミルを待っていたのは、予想外の人物だった。
「なんでチミがここに居るのかな?」
「それはこっちのセリフだ小娘」
不満気な表情を浮かべたのはアルだった。何故アルがここに居るのか。それは少し前の事である。
――――ブラキニア城 城壁頂上。
「君がアル、だね?」
「誰だお前は」
アルはノースブラックに向けて溶岩を放ち、ザハルの到着を待っていた時の事だった。城内から現れた外套を纏う二人組に出会う。
「君にはとある罪状の為、極刑に処す命が下されている。大人しく縄に着いてはくれないだろうか」
「急に何を言われるかと思えば。笑いすら出んな」
「同様にザハル・ブラキニア、君が従っている主君と呼ぶべきなのかな? 彼にも死んでもらう事になっているのだが。どうだろう、ここはひとつ遊んでみようと思う」
「笑わせたいのならもう少しマシな事を言え、木偶が」
少なくともそれなりの実力を備えているアルに対し、刑の為に遊べと。長身の男は余裕気に隣にいた背の小さい方の頭をポンっと左手を乗せる。
「ふぅ……どいつもこいつもバカにしやがる。あの放浪娘に然りだ」
「この子から逃れられる事が出来るだろうか? まあ、捕まれば死ぬだけなのだが」
彼の物言いからして少なくとも小さな方は、同等以上の実力を持っていると察したアルは、ゆっくりと腰を落とし長剣に手を伸ばす。
「まあ、ここはこの子に任せるとしよう。私は後始末の為、ここでサヨナラです。あ、そうそう一つ言い忘れていた。ザハルは既にイーストブラックに向けて逃走しているだろう。まあ、その剣が折れない様に気を付ける事だ。それでは失礼する」
「チッ、何が言いたいんだ」
「早くしないと捕まえるよ」
長身の男は、躊躇いも無く城壁を飛び降り、小さな方からは少年だとハッキリ分かる声色が聞こえて来た。
「こんなガキの相手だと? 笑わせるな!」
腰の長剣を一振り、いとも簡単に外套の少年を切り伏せる。しかし、バッサリと切られた少年は砂の様に崩れ落ちた。散らばった砂が新たに少年を形取り、ゆっくりと足を進める。
「チッ、やはり色操士か」
「今の貴方ではボクには敵いませんよ」
「抜かせ! 火山弾!!」
左手を構えながら後方へ飛び退くアルから発せられた火山弾は、周囲の空気を焼きながら少年へと一直線に衝突する。かに思えたが、少年の前には砂の壁が現れ、いとも簡単に火山弾を粉々にした。
「オレの技が効かない、だと!?」
「だから言ったでしょ。今の貴方には勝てない、と。ボクの砂はとても細かくてとても硬い。そこら辺の鉱石よりうんとね」
「……」
状況判断の早いアルは、剣をしまうと少年から距離を取り城下へと飛び降りて行った。勿論、少年も後に続き飛び降りる。
――――時は戻り、現在。
「オレは二人組の内の一人に追われて、ザハルが居る港までやってきた。だが、来てみたはいいが誰もいない。砂の少年の気配はするが一向に攻撃を仕掛けて来る様子も無いとくれば、警戒しつつもザハルを探すしか無いだろう」
「ザハルぅ? ザハルなら……」
ミルが後方に目をやると、こちらに走ってくるリム御一行とザハルの姿があった。
「チッ、よりによってまたアイツか……ん? どういう事……だ」
「ハァハァハァ。ようや、ハァハァハァ。くぅー! 着いたぁああっはあぁああ!」
「アンタもウルさいのヨ! 静かにしなさいよネ」
「ベー」
この一人と一匹はどうやら犬猿の仲の様だ。しかし、アルにとってはどうでもいい事がもう一つ。
「ザハル!! 何故お前がそこにいる! し、しかもそこの外套の少年は……!?」
そう、リム達の案内役として先導していたのは紛れも無くアルを攻撃してきた砂の少年だった。アルは改めて周囲の気配を確認するが、既に先程まで感じていた少年の気配は無く、目の前にしかその対象は居なかった。
「スマン溶岩君! 今はそれどこじゃないんだ! お前も捕まるとやべぇんだろ! ならとりあえず一緒に来い! 話はその後だ!」
「あのーそれはボクのセリフなんだけどなぁ」
外套の少年が苦笑いを浮かべ、リム達の前へと歩み出る。
「リムさんが言った通り、先ずはブラキニア領から離れます。適当な船はあそこに用意してありますので、あれで沖合出てから商船に乗り込みます」
少年は埠頭の先に見える木造の小舟を指さし、着いてくる様促した。
「ザハル、これは……」
「ああ、とりあえず後だ」
「……」
一行は埠頭の先へ向かうのだが、そこで再び始まる激闘。
「おい、クソドラ! お前は乗るんじゃねえぞ!」
「そんな事言われなくたって分かってるわヨ! いちいち癪に触るクソガキね! フンッ!!」
「はいはい二人とも! 今はそこまで! ドラドラ? 入って入って♪」
タータは地面に毒沼を形成し、不満気なドラドラは電気でも走りそうな勢いで睨みを聞かせながら主の中へと帰っていく。
あれやこれやとありながらも、無事ブラキニア領を離脱した一行は沖合の商船へ向かうのであった。