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第98話 清流、黒きを埋め

酷断(イリミネイト)ッッ!!!」


 リムから放たれた巨大な黒き断撃、それは奇しくもザハルが想ってきた初代五黒星(ごこくせい)を葬った技だった。意図した発動だったのか、ザハルにしてみれば憎き過去を彷彿とさせるものに違いは無い。ザハルは只々地が裂け、割れ目へと流れ落ちていく溶岩流を見つめていた。


 己の家族とも言える友たちを亡き者にした裂け目は、ザハルの心を再び抉る。だがそれと同時にここにいる兵や一般人の脅威となる溶岩が、埋めるように流れ落ちていく。それはザハルの抉られた心をも埋めるかの様に熱き、熱き救いの清流が如きであった。


「ゼクス……」


 ザハルは呆然と立ち尽くし、ゆっくり流れ落ちる溶岩を見つめていた。上空から降りて来たリムは、ザハルを確認した後にディスガストへと足を進める。


「おい怪物ぅう!!! 聞こえるか!」


 勿論リムの叫び声には反応しない。ただひたすらに兵舎を吹き飛ばし、暴れまわっている。


「ん~どうしたもんかなー。デカブツを抑えるには更に大きな力……抑える……力……」


 腕を組み、唇を尖らせ眉間に皺を寄せる。ハッとなったリムは両手を左右一杯に広げ、再びディスガストへ向け声を張った。


「お前の名前は確か……そう! ノン!! ノンだったよな! お前の憎しみの元は既に無くなった! お前の父ちゃん、ジンはもう居ないんだ!」


 ジンという名前に反応したディスガストは、リム目掛けて腕を振り下ろす。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「待て待て待てー! お前はもう戦う理由を失ってる筈だ! 何故まだ暴れる!!」

(お父……さん)

「ん?」


 微かに聞こえた声。リムはそれがノンだと直ぐに分かった。


「そう! お前のお父さんはもう居ない! ザハルはお前のお父さんを助けたかったんだ!」

「どけ、オレが話す」


 ゆっくりと歩いてきたザハルが割って入る。ディスガストの足元までやってきたザハルは、構える様子も無く上を見上げる。


「お前がジンの娘か。もう少し違うカタチで会えれば良かったが。オレはお前の寝顔を見て、ジンの笑顔を見て、この国を建て直さんと心の奥では思っていた。だが結果、お前をその様な姿に変貌させてしまい、ジンも逝ってしまった。最早思いだけではダメだと改めて思い知らされた。だが、もう遅いんだろ? 止まれないんだろ?」


 ディスガストの口元は、今にも噛みつきそうに怒りの牙を光らせている。しかし、ザハルは臆する事無く、その眼を見つめていた。


「お前の憎しみを受け止めるには、オレを喰らう事以外に無いんだろうな。だが、オレもまだやらなければならない事がある。少し、少し待ってくれないか」


 ディスガストはその言葉を聞き、ブラキニア全土へと響き渡るであろう悲憤の咆哮を上げた。だが止まらない。その口はゆっくりと牙を剥き出し、ザハル目掛けて押し潰す様に頭ごと噛み付いた。


 砂煙が舞い、ディスガストの動きが止まる。


「なあ、ザハル。少しオレに付き合ってくれねえか?」

「……オレの気が変わるまで、な」


 ディスガストを止めたのはリムだった。少しでも先端を触れば血が出そうな程の鋭利な牙をブラックアクスで受け止めていた。ガチガチと音を立て噛み砕こうとするディスガストは、二人もろ共喰らおうと更に力を込める。


「ノン、聞いたか? もう少しだけ待ってくれってよ。止めろってんじゃない。ちょっとばかし機会をくれよ」


 リムは左角を擦った後に胸元で掌を広げた。


無の誘引(ブラックアウト)


 ザハルとディスガストは、リムの黒の空間へと飲み込まれていった。ザハルはゆっくりと目を瞑り静かに佇む。


「また、いずれ……な。無振(ブラック)液状化(リクエファクション)……」


 リムは哀愁の表情を浮かべたまま、ディスガストを沈み込ませていったのだった。


(お父さん……)





――――遡る事数十分前。ブラキニア城 とある一室。



「御呼びでしょうか。御歴々の……」

「フン、貴様が言うと嫌味にしか聞こえぬぞ。まあ良い、随分探した。黒王(こくおう)ガメルと同時に姿を消し、見つからぬままだったがよく戻って来た」

「国の危機とあらば一刻も早く駆け付けるは当然の使命です」


 中央(ちゅうおう)黒染老(こくせんろう)の集まる一室に、黒い外套を纏った二人の人物が跪き首を垂れていた。体格差からして、小気味よい男前な声で嫌味を言う一人は高身長、もう一人は寡黙で一回り程小柄だった。二人の顔は深々と被られたフードにより隠れ、顔は勿論身体全体も覆い隠されていた。


「他の者はどうした。捜索隊を出してはいるが未だ連絡が取れぬ。国の一大事だと言うに」

「御勘弁下さい。私共も色々と大変でしたので」

「貴様らの苦労を聞くつもりは無い」

「……」

「して、単刀直入に問おう。貴様らの仕える信念とはなんじゃ」


 一時の間の後、小柄な人物が幼い声を張り上げた。


「ボクた――」

「勿論!! 私達の仕えるはこの国の行く末を真に導いて下さる御方にて御座います。例え主が変わろうとも」


 幼き声は、長身の男から会話を被せられ口を閉じる。中央黒染老からは見えないが、長身の男は微笑んでいた。


「ほう……貴様、物分かりが早そうじゃの」

「伊達に皆を率いてはいませんので」

「では、これは中央黒染老の、国の総意として命ずる」

「なんなりと……」


 暫しの後、外套の二人組の姿はブラキニア城壁の頂上にあった。


「本当にいいんですか? あんな命令、ボクは到底受け入れられません」

「良いんだよフィーア。これで良いんだ」

「でもボク……」

「言った通りにするんだ。フィーア、君にも重大な任を預ける。決して抜かるなよ」

「それは大丈夫だけど……」

「なら心配するな。私を誰だと思っている」

「……」


 二人は城壁を飛び降り、ザハルらが居るノースブラックへと向かったのだった。

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