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いっそ灰と消えてしまえ

作者: さくら双

とある企画で書いたものを加筆修正したショートストーリーです。

 ある日、詩音は夢を見た。

 その夢で詩音は、幼馴染で恋人の天音(あまね)と遊園地に遊びにきていた。

 遊園地に着くなり、天音は背中の中程まで伸びた黒髪を揺らしながら、真っ先にジェットコースター目掛けて走っていってしまった。

「ひゃっほぉぉぉぉぉぉ!!」

 詩音が、その後を追いかけて走り出す。

 天音と詩音はまず、ジェットコースターに乗り込んだ。いざスタートすると、他のお客さんが恐怖で悲鳴を上げる中、天音はとても楽しそうに笑っていた。

 ジェットコースターが終わった後、今度はメリーゴーランドがあるほうに天音が駆けていく。それをまた、詩音は追いかける。

 メリーゴーランドでも、天音はとても楽しそうに笑っていた。そんな天音を見て、他の来場者も自然と笑顔を浮かべていた。

 その後も様々なアトラクションを巡り、気が付くと日が沈みかけていた。

 二人は遊園地を後にすると、自宅に帰る途中にある公園に立ち寄った。天音は一目散に、金木犀の木の下にポツンと置かれているベンチに駆け寄り、真ん中に腰を下ろした。詩音もその後に続いて、ベンチの左側に腰掛ける。

 すると天音が詩音との距離を詰め、ピタリと身体をくっつけた。

 詩音の右肩に天音が頭を乗せる。ふわっと香る甘い匂いに、詩音の鼻がくすぐられる。

「ねぇ詩音。こんな幸せな日々が続けばいいね」

 ふと、天音がそんなことを口にした。

 詩音は不思議に思い、天音の方を向く。それに気づいた天音が、詩音と顔を向き合わせる

「だって、いずれはこうして思い切り楽しめなくなっちゃうでしょ。だからずっと続いて欲しいなって」

 そう話した天音の表情は、僅かな不安の色を見せていた。

 詩音は何も答えずに、天音の頭をそっと撫でた。さらさらとした髪の感触が手のひらに伝わってくる。

「ちょっと、くすぐったいよ」

 そう言いつつも、詩音は嫌がる様子を見せず、気が付くと先ほどまで覗かせていた不安げな表情も和らいでいた。

「もうっ」

 耐え切れなくなったのか、天音が抱き着き、詩音の胸に顔をうずめた。

「詩音」

 天音が、詩音の名前を呟いた。

「私とずっと一緒にいてね。たとえ世界が滅んでも」

 そう言うと、天音は静かに眠りについてしまった。天音の寝顔をしばらく眺めていたが、そうしてるうちに詩音も眠気に襲われた。

 やがて詩音も、ゆっくりと目を閉じ、眠りへと誘われた。


           *


「っ……」

 身体が軋むような痛みで、詩音は目を覚ました。

 レジャーマットから身体を起こし、思い切り腕を伸ばすと、腰がポキポキと子気味の良い音を鳴らした。

「イテテ……」

 ある程度身体をほぐすと。詩音はゆっくりと立ち上がり、ズボンについた砂埃を払った。

 そして、先ほどまで見ていた夢の事を思い出す。

「懐かしい夢だったな……」

 とても楽しくて、とても綺麗で、とても幸せな夢。実際は夢ではない。確かに二人が経験した、紛れもない思い出。

「『世界が滅んでも』か……」

 詩音は夢で天音が口にしたことをつぶやきながら、あたりを見渡す。そこには、夢にあった幸せな光景は見る影もなく、瓦礫の山と化した街が広がっていた。

「本島に世界が滅びるなんて夢にも思わなかったよ……。ほんと、なんでこれが夢じゃないんだか」

 詩音はおどけておどけてみせるが、それに反応する者は誰もいなかった。

 遡ること三ヶ月前。世界中で突如、謎の崩壊が発生した。その崩壊は、ありとあらゆる物を灰に化した。建物に自然、そして人間をも崩壊へと誘った。そんな最中、詩音の両親も灰と化してしまった。しかし、哀しみに暮れる間もなく崩壊は進んだ。

 そしてある時、唐突に崩壊は止まった。

 詩音は崩壊から生き残った。それから数ヶ月、僕は文明の残骸の中で未だ生き続けている。

 そして、あの頃の幸せな日々が戻ってくることは無い。

 詩音は今も隣で、レジャーマットの上でブランケットにくるまって眠る少女の頭を撫でた。艶やかな黒髪に淡雪のように今にも消えてしまいそうな程白い肌。彼女もまた、崩壊から生き残った生存者の一人で、詩音にとっては家族以上に大切な人である。

 その時、少女が目を覚ましてしまった。詩音が撫でたことで起こしてしまったらしい。

「ん……」

 重たそうなまぶたを擦りながら、ゆっくりと寝袋から身体を起こすと、詩音の方を向き、

「おはよう。詩音くん」

 と目覚めの挨拶を口にした。

「おはよう。アマネ」

 詩音も同じように、挨拶を返した。

 アマネが思い切り身体を伸ばすと、先程の詩音と同じように、ポキポキと身体が鳴った。

「ん〜、イテテ……」

 右肩を揉みながら、アマネは小さなあくびをした。

 まだまだ眠そうに見える。

「今からコーヒー淹れるけど飲む? 味は保障できない上に、砂糖も何も無いからブラックだけど」

 そう言いながら詩音は、自宅から引っ張り出してきたバックパックの中からステンレスカップ二つとペットボトルの飲料水、コーヒーのドリップパック二つを取り出した。

「ありがとう。お願いしちゃってもいいかな」

「オーケー」

 詩音はLPガスバーナーに火をつけ、そこにステンレス製の鍋を置いてお湯を沸かし始める。

 お湯が沸き、ドリップパックをステンレスカップにつけると、まずは少量のお湯を注いで蒸らしていく。

 それから約三十秒経ってから、残りのお湯を数回に分けて注いでいく。だんだん、いい香りが二人の鼻腔をくすぐり始める。

 お湯を全て注ぎ終え、詩音がカップからドリップパックを取り出す。

 これでコーヒーの完成だ。

 詩音はコーヒーが入ったカップを天音に差し出す。

「出来たよ、アマネ」

「ありがと。詩音くん」

 アマネは詩音からコーヒーを受け取ると、そっと一口つける。

「あちっ」

「熱いから気を付けて」

 口で息を送ってコーヒーを冷ましてから、アマネは再びコーヒーに口をつけた。

 詩音もそれに続き、コーヒーを飲み始めた。口の中にコーヒーのほろ苦さと適度な酸味が広がり、芳醇な香りが鼻を抜けていく。どうやら、上手く淹れることが出来たみたいだ。

 アマネの方を見ると、両手でカップを包み込んで、ちびちびとコーヒーを飲み進めている。

「んっ……ふぅ。美味しい……なんだか落ち着く」

「本当に? よかった。前は砂糖たっぷり入れないと飲めなかったから」

 詩音がそう口にした瞬間、アマネの表情に僅かな影が差し込んだ。

「……前の私はそうだったんだね」

 詩音はアマネから僅かに顔を逸らし、

「……ごめん」

 小さく謝罪を口にした。

「ううん、いいんだよ。それに前の私のことを知れば何か思い出せるかもしれないし」

 そう言ってアマネは、再びコーヒーを飲み始めた。

「…………」

 詩音はそんなアマネを見て、胸が締め付けられるような痛みに襲われた。

 アマネは、厳密には本来の天音ではない。

数ヶ月前に世界中で発生した謎の崩壊の際に、天音も両親と姉を失ってしまった。その時のショックで天音は、必要最低限の記憶以外、ほとんど失くしてしまった。

 それによって、現在の大人しい性格のアマネが在る。

 ただ、時折見せる何気ない仕草は以前の天音と同じで、それを目にする度に詩音は、本当は記憶を失ってなどいないのではと考えてしまう。

 そして今は、二人のように生き残っている人間を探す傍ら、記憶を戻す為に天音にゆかりのある場所を巡って歩いている。

 しかし、天音としての記憶が戻るどころか、生存者すら見つかっていない。

 そもそも、何故崩壊は訪れ、二人がそれを免れたのかも分かっていない。

「ごちそうさまでした……」

 詩音が考え事をしている内にコーヒーを飲み終えたらしく、アマネが空になったカップをそっと地面に置いた。

「全部飲んだの?」

「いけなかったかな?」

 アマネが不思議そうに首をかしげた。

「いや、万が一の事があったらって思って……」

「さっきも言ったけど美味しかったよ。だから私は大丈夫」

 アマネがはにかむように笑みを浮かべる。その笑顔が天音と重なり、詩音の胸が再び締め付けられる。

(記憶を失ってもやっぱりアマネは天音なんだな……)

 そう思う内に、どんどん胸の痛みが増していく。

「そうだ、詩音くん。今日はどうするの?」

 アマネに話しかけられて、詩音は胸の痛みから解放された。

「ごめん、少しボーっとしてたみたい」

「大丈夫なの?」

 心配そうな表情で、アマネが詩音の顔を覗き込む。

「大丈夫だよ。それで今日はどうするかって話だよね?」

「うん」

「そうだな……」

 どうするか考えていると、詩音は夢の事を思い出した。

「遊園地……」

「遊園地?」

「うん。天音と……以前のキミと遊びに行ったんだ。それも、崩壊が起きた二ヶ月前に」

「そうなんだ……ちなみそれってデート?」

「え?」

 アマネの問いに、詩音は疑問の声を漏らした。

 しかしアマネは、間髪入れずに詩音に質問する。

「私と詩音くんて付き合ってたんでしょ? だからその遊園地に遊びに行ったってのはデートってこと?」

「そ、そうなるね」

「そっか……」

 心なしか、アマネは切なそうな笑みを浮かべる。

 詩音はその笑顔に何か引っかかりを覚えた。

「アマネ?」

「ううん……なんでもないよ。そうだね、行こっか」

 そう口にしたアマネだったが、心なしかその表情に、陰りが見える。

「でも……」

「いいから。行こ」

 そう言うとアマネは、早歩き気味にどこかへと歩き出した。

「ちょ、待ってアマネ! そっちは遊園地じゃないって!」

 一体どうしたというのだろうか。とりあえず詩音は、先ほどまで使っていたカップなどを急いでバックパックに詰め込み、アマネの後を追いかけて走った。


           *


 それから二時間くらいだろうか。しばらく歩くと、五ヶ月前に天音と行った遊園地に、無事辿り着くことができた。

 当然と言っていいのか、やはり人はどこにも見当たらない。アトラクションの大半は灰化しており、とても動きそうにない。

(これじゃ天音の記憶を戻すには期待が持てないかな

 けれど、アマネは違った。

「わ〜!」

 アマネの目は興味津々といった様子で、目を輝かせていた。

「ここが遊園地か〜!広いな〜!」

 前に来たことがあるとはいえ、それは以前の天音であって、今のアマネにとっては遊園地というのは初めて目にし、訪れた場所だ。

「詩音くん行こ!」

 そう言うとアマネが、かろうじて原型を留めているアトラクション目掛けて走り出した。

「ちょっとアマネ!」

 走っていくアマネにまた、以前の天音の姿が重なった。

「アマネ! 走ったら危ないって!」

 詩音もまた、アマネを追いかけて走り出す。

 まず二人が訪れたのは、メリーゴーラウンドだった。

「ねぇ、詩音くん。これはどうやって楽しむの?」

 記憶を失っている為、アマネにはメリーゴーラウンドやその他のアトラクションの記憶も抜け落ちている。

「それは、その馬に跨ってクルクル回るアトラクションなんだ」

「へぇ〜、楽しそう。ねぇ、これ動くかな?」

 アマネが期待した眼差しを詩音に向ける。

「どうだろ。電気が通っていれば動くかも……」

 そう言いながら詩音は、メリーゴーラウンドを操作する従業員ボックスの中に入り、動くかどうか試してみる。

「一応電気は通ってるけど、どれを押せばいいんだろう……」

「どう? 動きそう?」

 ボックスの窓から、アマネが覗き込んでくる。

「うーん、これかな」

 適当に選んだスイッチを詩音は押してみた。すると、メリーゴーラウンドがギシギシと音をたてながら動きだした。

「あ、動いた」

「やった」

 ゆっくりだが回り始めたメリーゴーラウンドを見て、詩音はホッと息を吐き、アマネは小さくガッツポーズをした。

 動くことが確認できたので、詩音は一度メリーゴーランドを止めた。

「ほら、早く乗って」

 詩音はアマネに木馬に跨るように促した。

「うん!」

 アマネは比較的原型を留めている木馬に駆け寄り、跨ろうとしたが、木馬に取り付けられているはずの足掛けが無くなっている為、中々跨れずにいた。

「詩音く〜ん。手伝って〜」

「ハイハイ」

 詩音は天音の元に駆け寄り、腰を掴んで上に持ち上げる。

 その瞬間、アマネが軽く悲鳴を上げる。

「ひゃっ! 強く掴んじゃヤダ」

「ご、ごめん」

 詩音はアマネを馬に跨らせ、すぐさま腰から離した。

「動かすよ」

 従業員ボックスに戻り、詩音はメリーゴーラウンドのスイッチを押す。アマネを乗せた木馬が、ゆっくりと動き出した。それに伴って、若干ノイズがかったBGMが流れ始める。

「わぁ〜! 詩音くん! これ楽しいよ」

 スピードは遅いが、木馬に乗って回転していくアマネはとても楽しそうだった。

 その様子を詩音は従業員ボックスの窓越しに眺めていた。

 三周程回ったとき、アマネが、

「詩音!」

 と、名前を呼びながら詩音に手を振ってきた。

 そんなアマネの様子に、呼び捨てで名前を呼ばれたことも相まって、詩音は天音の面影を意識してしまうのだった。

 その後、メリーゴーランドを後にし、二人は様々なアトラクションを巡り歩いた。

 ほとんどのアトラクションが灰化していたにもかかわらず、アマネは目を輝かせて、その全てを目に焼き付けていた。

 やがてアトラクションがあった場所全てを巡った頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。

 かろうじて何本かの街灯に照らされている道を歩いていた詩音とアマネは、壊れずにポツンと置いてあったベンチに腰掛けた。

 その時、天音が僕の肩に寄りかかってきた。まるで夢を再現してるように思えた。

 アマネはベンチに座ると、ほっと息を吐き出した。

「ふぅ……疲れたね〜」

「そりゃあ、たくさん歩いたからね」

 そこで二人の会話が一旦途切れた。かと思うと、アマネが詩音の肩に頭を預けた。まるで、詩音が見た夢を再現するかのように。

「ねぇ詩音くん……」

「どうしたのアマ……ネ……?」

 アマネの方を向くと、今にも泣き出しそうな面持ちで詩音の顔を見上げていた。

「私ね、今日夢を見たんだ。詩音くんと……多分記憶を失う前の私がこの遊園地で遊んでる夢を」

「え……」

 詩音が驚いた様子を見せるが、アマネはそれに構わずにポツリポツリと呟きだす。

「前の私……すごく笑っていて、楽しそうだった。なにより、詩音くんと一緒にいるのが、すごく幸せそうだった。正直ね、嫉妬しちゃった」

「嫉妬……?」

 天音は顔をうつむかせて、さらにつぶやく。

「おかしいよね。自分に嫉妬するなんて。でも、前の私と一緒にいる詩音くんの顔……私といる時にはしたこと無い顔してた」

「そんなこと……」

「ううん、してたよ。私ね、それがたまらなく悔しかったの。だから、夢で見た私みたいにやってみたんだ。無邪気な笑顔を浮かべて、元気よく走って。でも、詩音くんは夢で見たような顔しなかった。それが……たまらなく寂しかった」

 天音の瞳にじわじわと涙が浮かぶ。

「あのね、詩音くん」

天音が詩音の顔をじっと見つめる。

「私ね……詩音くんが好き」

 天音が涙と共に言葉を吐き出す。

「前の私も、きっと……ううん、絶対に詩音くんが好きだったに違いない。でも、前の私は今はいない。いるのは今の私。今の私が詩音くんのこと好きなの」

「天音……」

 天音は涙を流し続けながら、なおも言葉を紡ぐ

「詩音くんが見てるのは前の私。でも、詩音くんと今一緒にいるのはこの私。一緒だけど違う」

「僕は……」

「私はね、夢が現実じゃなくてよかったって思ってる。そうじゃなかったら、今の私はいないもの」

「……」

 詩音は静かに天音の言葉を聞き続ける。

「ねぇ詩音くんはどっちが好きなの?今の私?それとも前の私? 」

「僕は……」

「私の記憶を取り戻すために詩音くんが頑張ってくれるのは嬉しいよ。でも、今の詩音くんが好きな気持ちを無くすくらいなら記憶なんて無いままでいい。それくらい詩音くんが好きなの……」

 どこまでもまっすぐな言葉。詩音はそれを聞いて、天音も自分の気持ちをまっすぐに伝えてきたことを思い出した。

「詩音くんはどっちを選ぶ?前の私か……今の私」

「僕は……」

 言葉が出かかったところで詰まる。しかし、アマネが自分の気持ちをぶつけてきた以上、詩音も彼女に今の気持ちを伝えなくてはならない。

「僕には……わからない。もちろん、記憶を無くす前の天音と過ごした時間も大事だよ。でも、今のアマネと過ごしたこの数ヶ月間も、僕にとってはかけがえのない時間なんだ。どっちを選べなんて僕には出来ない……」

「詩音くん……」

「僕にとっては二人とも『天音(アマネ)』なんだ。どっちが消えるのも……僕は嫌だ」

 やがて詩音の目からも、涙が零れだした。

 ふと、詩音は柔らかく温かい何かに包まれた。見るとアマネが、ベンチの上で膝立ちになって、やさしく詩音の頭を抱き寄せていた。

「詩音くんは優しいね……前の私が好きになるのもわかっちゃうな」

 天音の優しい声が耳に心地よく響く。

「でもやっぱり悔しいな。前の私は、今の私が知らない詩音くんをいっぱい知ってるんだものね」

 天音の手がやさしく、やさしく僕の頭を撫でる。

「分かったよ。今は答えは聞かないことにするね」

 そう言うのと同時に、僕の身体からアマネが離れ、ベンチから立ち上がった。

「その代わり……ね」

 数歩前に進んで、天音がこちらを振り返る。

「今の私がいなくなっても、前の私の記憶がそのまま戻らなかったとしても、”私”のこと忘れないでね」

 そう言い放つと、天音はそのまま遊園地の出口に向かって歩き始めた。

 一人、ベンチに残された詩音は空を見上げながら、さっきの天音の言葉を思い出す。

「『”私”のことを忘れないで』か……」

 忘れられるはずもない。どっちも忘れることなんて出来るはずが無い。それくらい、詩音にとって天音(アマネ)はかけがえのない存在なのだから。

「ほんとひどいことしてくれるよな……どうして世界は僕たちにやさしくないんだよ……」

 そうつぶやきながら、詩音はまた涙を流した。すると、夜空を一つの星が流れていった。まるで、詩音達を哀れんで涙を流すように。

 これからも詩音達は崩壊した世界を歩き続けるのだろう。

 たとえそれが、三人の思いを歪ませる結果になるとしても。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

感想等、ございましたら是非。

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