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プロローグ 少女の決意

 私はいつも憧れていた。困難に立ち向かえる力を。

 私はいつも渇望していた。心踊る冒険に。

 私はいつも倦んでいた。変わらない日常に。


 私は、冒険者になりたい。


 でも、私には冒険者になれる可能性がまるでなかった。スキルが皆無なのだ。

 この世界はどんな人間でも[まもの]でもスキルを持っている。


 例えば、『剣術』、『キャンプ』、『鍛治』、『清掃』。


 そして、私のような無能力者の存在は聞いた事がない。皆、生まれた時からスキルを持っているのが普通だ。後天的にスキルを覚える事もあるけど、それは既存のスキルあっての話。

 

 異世界人、転生者は別格のスキルを持って活躍している。『勇者』、『賢者』、『ヒーロー』。


 彼等は新しいスキルを覚醒して取得する事もできるそうだ。

 そんな彼等は、前人未踏の大地を開拓。深層のダンジョンに潜り強大なボスを倒して財宝を見つける。災害に匹敵する巨大な[まもの]を倒す。一般人が何千、何万居て出来る事を彼等は単独でこなせるスキルを持っている。別次元の存在だ。

 

 だけど私、ヒカルには何も無かった。

 努力したところで元のスキルが無いからレベルが上がる事もない。

 この世界の戦闘における強さとは、持っているスキルの種類、数、そしてスキルのレベルが関係してる。

 相性次第では、低レベルのスキルを一個だけ持った人が、高レベルのスキルを豊富に持った相手に勝つ可能性もあるだろうけど、確率はかなり低いだろう。百年に一度あればいいぐらいに。

 スキル格差は著しい。

『清掃』を例に挙げると。スキルレベルが上がれば短時間に広範囲でとても綺麗に掃除は出来るだろう。

  王宮のメイドさんにはいいスキルだと思うけど、それ以上は『清掃』では見込めない。

『勇者』スキルであれば、剣術、体術、魔術等の複合スキルでほぼ何でも出来てしまう。ピンチになれば逆境を乗り越える為のスキルが自然と覚醒される。

 この世は、結局スキル次第。

 そして、私は何にもないただの女の子だ。


 異世界人の祖先から受け継いでるのは、異世界人らしい名前と黒い髪だけ、十六年間生きてスキル一つも発動できない私は、何かを目指す事が許されなかった。

 大好きな冒険は勿論、料理だってスキル持ちには敵わない。私が作った料理がたとえば普通に美味しく作れたとしても、スキル持ちが作ったものは、素晴らしく美味しい。今生に於ける至高の美味しさだ。幸福感に満たされ賛辞の言葉を言わずにはいられない程。はなから勝負にならない。

  ただ、冒険なら機知を生かせばまだ目はある。スキルなんかなくてもダンジョンには潜れる。知らない土地にだって行ける。

 スキルが無い私には死の危険が他の人より多いけど。木の矢のトラップでも致命傷になりかねない。宝箱に入っている金貨の山に、クリーピングコインが一枚擬態しているだけでも、私を倒すには十分すぎる。道に迷ったら最後、飢えて死ぬまで戻れないかもしれない。

 それでも、未知の世界は私を誘う。私の好奇心は死神の鎌を潜り抜けて先を見たがる。

 そんな冒険を諦めない私に母は言う、

「お嫁さんになって家庭に入ればスキルなんか関係ないわよ。」

  真っ平御免だ。有り得ない。死んだほうがましだ。退屈は魂を殺してしまう。

「大好きな冒険は、冒険譚を読んでも満たされるでしょう?外の世界はヒカルには危険すぎるわ。」

 読書は好き。知らない世界を知ることはとても楽しいし、私の冒険に役立つから。

 冒険は私にとってのたったひとつの生きる希望。諦めてただ緩慢に生きるなんて魂の冒涜だ。

 

 私は、この世界初のスキル無しの冒険者になる。


 私の友人達は冒険者になる為、ギルドのある都市へと旅立つ。異世界人と転生者である彼等はきっと冒険者として成功する。

 こっそりついて行く計画を立てた事もあった。でも、それはただの荷物にしかなれないだろう。

 私は、私の冒険がしたい。

 仲間と一緒じゃなければ駄目だ。友人達の庇護を与えられるだけでは意味がない。

 私の冒険譚を作るんだ!

 

 友人達は今日、冒険者になる為に旅立つ。

 私も彼等とは別に今日旅立つ。死ぬかもしれない、それでも自分の為に生きたいから、私は冒険者になるんだ。

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