7話 チャラ男
泉が龍斗と食事を楽しんで居た頃、駅前から少し離れた公園に桜子の姿が在った
この公園に修と共に歩いて来た
今は修の姿は無い
彼は自動販売機に向かったのだ
ジャンケンをして負けた方が飲み物を買う
そんな些細な賭け事をし、桜子はパーを、修はグーを出して彼女が勝利した
いつも勝つのは桜子
修は最初に出す手はグーと知っているからこその勝利だった
ベンチに座り、空を眺める彼女
不意に小さな影が桜子目掛けて放物線を描く
彼女は慌ててソレを受け取った
「ナイスキャッチ♪」
そう言ったのは修だ
「危ないじゃん! 止めてよ、そーゆーの……」
「悪ぃ悪ぃ♪」
明らかに反省の色の見えない修がドカッと桜子の隣に腰を下ろす
そして手に持つソレの、プルタブを摘まんでプシッと開けた
桜子の手の中にも同じ物が収まっている
缶コーヒー
飛んできたのはソレだった
同じ仕草で缶を開け、口へと注ぐ
ふぅ……
そう溜息にも似たソレを吐き出しては、また、空を見た
「龍斗と泉…… 無理矢理過ぎなかったかな……」
「大丈夫だろ?」
桜子の問いに、修の質素な答え
「そうかな……? でもさ、意外だったよ」
「何が?」
「修が、龍斗と泉の仲を取り持つなんてさ♪」
「そっか?」
「うん!」
「龍斗がな…… 決めた女だ…… 上手くいって欲しーからな……」
「へー! 龍斗と仲良いもんね♪」
「ん♪ つか、アイツな…… あんまり心開かねぇから…… そんなアイツがどうしようも無く好きになった女が泉だ…… だから、さ♪」
「そっか…… でも龍斗は結構ざっくばらんだよ?」
「今は、だろ?」
「まあ?」
「んーーーー…… 龍斗は…… こういうのも何だが…… 実は養子なんだわ」
「え!?」
驚きの表情に変えた桜子に修は静かに告げる
「んでな…… 昔、それで虐められてた…… 【嘘の子供】って言われてな」
「そ、それで……?」
「初めて会ったのは中1さ…… 俺の仲間が言った…… 【いつも睨みきかせて気に入らねぇ奴が居る】ってな」
「うん…… それが……?」
「ああ、龍斗だ…… 仲間に連れられて行った…… アイツの元に…… そして、ソコで初めて会った」
「うん」
「アイツを見たらイライラしたよ」
「え? まさか……」
「ああ…… 殴った」
「ちょ!!」
「アイツな…… この世の不幸を全部背負ってるような…… そんな顔してた…… だからブン殴った」
「手出すの早過ぎっしょ!?」
「ああ、大人気無かった…… でもな、龍斗は一度俺を睨んで…… そして、無言で席に着いたんだ」
「殴り返しもしないで!?」
「そうさ」
「龍斗らしいといえば、らしいけどね……」
「で、放課後、昇降口で待つと言って呼び出した」
「来たの?」
「来たよ…… 表情も変えずにな」
パクパクと口を開いては閉じる彼女に修は言葉を続ける
「逃げずに来た…… 恐怖の表情も無く来た…… 俺な、この界隈じゃそれなりに有名人なんだわ」
「なんで?」
「強ぇから♪」
「やれやれ……」
そう言う桜子は呆れて首を振る
そんな彼女をクククと笑いながらも彼は表情を戻した
「でも、奴は来た…… オモシレぇ奴だと思った…… だから、ケンカとか抜きで話をした」
「それで?」
「ソコで知ったのが養子、そして虐めさ…… 俺の問いにアイツは隠さずに話した」
「そっか……」
「だから殴りに行った」
「は? 誰を?」
「虐めた奴らさ」
「龍斗が名前まで話したの!?」
彼は大きく手を振る
「まさか! アイツはそんな事しねぇよ! 俺が聞いて回ったのさ」
「それで!? いや、まさか!?」
「全員ブチのめした♪」
「アンタねぇ……」
桜子は引き攣る顔を隠せずに居た
そんな彼女に目を向けた彼は空を見上げる
「嫌なんだよ、そういうの…… 相手の事を、心情を、痛みを知りもしないで自分様が上位の人間かよ?」
「ま、まあ……」
「で、ソレを龍斗に話した」
「喜んでくれた?」
「んなわけねぇじゃん! いきなりぶん殴られたよ♪ 【余計な事すんな!】ってな」
「龍斗が殴ったの!? 修を!?」
「そ! で、殴られてるのも性に合わないから俺も殴った…… そして、殴り返され、また殴るの繰り返し…… んで、アイツは膝を着いてその場に仰向けに倒れた」
「アチャー……」
「俺も結構痛かったしな…… アイツの隣に寝転んだ」
空を見上げた修がフッと笑う
何かを思い出したのように彼は言った
「寝転んだまま、空を2人で見上げてな…… そん時にアイツは言ったよ」
「なんて?」
「ククク…… 何て言ったと思う?」
桜子は少し苦笑いを浮かべる
「クイズ? めんどぉー…… でも、ま…… んーー…… 【チャラ男のクセにやるな!】とか?」
「いーや…… アイツはな…… 【裏表の無い奴だな、お前……】って言ったよ♪ ウケるよな! そして続け様に、こうも言った」
「ん?」
「【お前みたいなバカ正直だけが周りに居たら良かったのに……】ってな」
「そか♪」
桜子はそう言って笑う
修もまた、つられたかのように笑った
「で、コイツだって思った」
「つまり?」
「コイツなら親友になれると思った♪ 他の仲間は、俺の強さが欲しいダケなんだよ…… 俺の後ろに居れば自分も粋がってられるからな…… 利用されるのは懲り懲りだ…… でもアイツは、龍斗は俺に損得無しで付き合ってくれる…… そう直感したのさ」
「だね♪」
「ん♪ だからその後…… ケンカの後に握手してな…… それからは、いつも一緒だ」
「いいね、そーゆーの♪」
「だからさ…… ズッと心を開かなかったアイツが決めた女だ…… 泉とは幸せにしてやりてぇ……」
「だから、か……」
「そ♪」
桜子は笑顔で修に目を向けた
不意にソノ表情を捉えた彼は疑問の表情を浮かべる
そして、彼女に聞いた
「どした?」
その問いに彼女はフフフと軽く笑う
そして彼に向け答えた
「ん♪ 惚れ直した♪」
修もまた、ハハハと笑うと……
「そっか♪ じゃあ俺もずっと惚れてて貰えるよーに頑張んなきゃな!」
と、少しはにかんだ表情で言葉を返した