6話 放課後
正直、意外だった
龍斗のあんな顔を見た事が無い
加藤君とは知ってる仲
そんな事を言っていたが、あれ程怒れるのだ……
知ってる仲以上の友達
多分、親友だったのかも知れない
そう思うと、午後の勉強に身が入ら無かった
終業のチャイムが鳴った時、ほぼ同時といって良いタイミングで教室の戸が開く
ウチはソレに目もくれずに教科書を仕舞い込んで居た
だがスタスタと近寄る足音
ふと目を向けると、隣には笑顔の桜子が立って居る
「桜子? どしたん?」
「うん♪ 買い物行こーよ!」
「買い物?」
突然の誘いに理解が出来ず繰り返す
またも隣に現れる人影
それは修だ
「泉ぃー! 行こーぜ♪」
何度見てもイチイチチャラい男だ
なんでこんな男と付き合っているのか疑問にすら思う
まあ、そんな事はどうでも良い
「何を買いに行くん?」
「何でもいーよ♪ とりま、外を歩きたかっただけ!」
桜子はそう言うとウチの腕を掴んでは、教室から連れ出そうとする
「チョイ待ってや! 教科書片付けな……」
「いーから、いーから♪」
拉致にも似た強制力でウチは校外へと連れ出され、気が付けば駅前へと足を運んで居た
「買い物って駅前でなん?」
「うん、そうだよ♪」
そう言った桜子は周りを見回した
そして表情を変えると走り出した
ウチは目だけを、そちらに向ける
ソコには男性が一人立っていた
「こっち、こっち♪」
その人に駆け寄ったと思われた後、彼の手を引きまた戻る
桜子の手を引かれた男性は龍斗だった
「あ……」
ウチはその言葉が口から出た
今朝、あんな事があったばかりなのに……
昼休みには気が付かなかった感情の揺れ
噂話に気を取られ、あの時はいつものように接していた
だけど今は違う
ウチに気を逸らす逃げ場は無く、彼もまた、チラチラと視線を掛ける
ウチはバツの悪さを感じていた
「春とはいってもまだ肌寒いじゃない? 2、3着くらい今の時期に丁度良い服が欲しーんだ!」
そう桜子はウチを含めた3人に言った
「修に選んで貰ったらえーやん?」
その言葉に桜子は
「修はセンス無いから♪」
そう、明るい声でバッサリと斬り捨てた
「そりゃねーぜ……」
ま、修の言いたい事も解る
やれやれ……
ウチが選ぶならそれでも良い
ただ、やはり……
龍斗が居るのは緊張する
ウチは極力、龍斗の顔を見ないようにショップへと入店した
あれやこれやと桜子に似合った服を探す
何着も試着しては取り替える
お気に入りが見つかって値段を見ると……
やはり不採用となった
結局、いまだ1着もカートに入れること無く時間が過ぎた時だった
新しい服に手を掛け、桜子に持って行く
「桜子♪ コレとかどうや?」
キョロキョロと周りを見回す
「アレ? 桜子?」
格子状のラック、その縦通路を抜け、通路が見渡せる様に横の通路を歩く
姿が見えない
どこやろ?
そう思った時だった
肩にポンと手が乗る
振り向くと、ソコには龍斗が居た
「なんかアイツら急用出来たとかで走って行っちまったよ……」
「そっか…… じゃ、しゃーないな……」
「まーな……」
ふと龍斗に目を向けた
彼はウチの視線を感じると目を逸らす
2人で理由も無い買い物をしていてもしようが無い
解散を切り出そうとした時だった
「なぁ、泉…… 時間あるか?」
そう問い掛ける
別段、ウチには急用は無い
だからウチは
「構わんよ? 何かしたい事あるん?」
そう答えた
フッと和らぐ龍斗の顔
「じゃあよ、飯食わねぇ……?」
食事の誘いか……
ウチはポケットに手を入れ携帯電話を取り出す
ポチリと電源スイッチを入れると時間は17:38を示して居た
「悪ぃ! 門限とかあったか!?」
彼は申し訳なさそうな顔を見せる
「大丈夫や♪ ウチ、門限ないもん! それにな……」
「ん?」
「んーーーー……」
「なに?」
一度言葉を濁したが、ソレに食い付いてしまった龍斗に再度はぐらかすのは失礼に思えた
「ウチな、夜の9時までは家に帰っちゃならんのよ」
え? っと驚く彼
「何で!?」
「さあ、何でやろな…… まぁ、ウチはパパの言い付けが絶対やさかい……」
「仕事の関係とか?」
「ソレも解らへん…… 聞かんといて…… 解らんもんは解らん」
「そっか…… 悪かった」
「良えんよ♪ で、どする?」
彼は少し迷いの有る表情を笑顔に戻して言った
「じゃ、行こ!」
「あいさ♪」
あ……
ウチ……
龍斗と普通に喋れてる……
そっか、桜子か♪
この時間をくれる為に龍斗を呼んでくれたのかもなぁ……
(おーきに、桜子……)
そんな事を心で感謝し、龍斗と連れだってショップを出ては食事が出来る店を探す
見付けた店に入ると、どうでもいい事を笑いながら話した
帰る時間まで、本当に色々話した
告白を断った仲だなんて、周囲は気付かないだろう
そんな恋人同士の様に笑いながらただ、本当に楽しい時間が過ぎた