5話 被害者
突然だった
ガラガラララッッ!!!
ビクッ!!!!
急なベランダへの戸が開く音に、ウチは小さく体を振るわせる
ゆっくり、戸の方を見ると……
開けた戸に手を掛け、龍斗がこちらを見て居た
「おど……」
そこまで言ったウチは小声に変えた
(驚かせんでよ!)
「ん? どした??」
龍斗は素っ頓狂な声で聞き返す
私は教室の方にクイッと無言で指差した
一度教室に目を向けた龍斗が私の隣に腰を下ろし、耳を澄ませ、中の会話に聞き耳を立てる
(でね、アノ件、続きがあってね……)
(何? 何!?)
(その血の海の横に【覚醒】って書いてあったんだって!)
(え?)
(【覚醒】?)
(そ! 血で!)
(え? 血で!?)
(そ、血で……)
(どゆこと??)
そこまで聞いて居た時、ふと、龍斗を見た
嫌悪なのか、激怒なのか……
いつもの優しい龍斗からは想像もつかない怖い表情が見て取れた……
怖くなった
こんな顔の龍斗は知らない
「あ、あの…… 龍……」
ガバッ!!!!!!
声掛け際に龍斗が急に立ち上がり、ウチは仰け反りながら危うく椅子から落ちそうになる
「もう止めろよ!!」
教室の中の女生徒に声を叫声にも似た声を上げた彼
「龍斗君!?」
「龍斗君!?」
「龍斗君!?」
驚いた女生徒達は皆、総立ちの姿を見せた
そんな彼女達に龍斗が声を荒げ続ける
「お前らさ、アレは! アレは…… 被害者は……」
龍斗は一呼吸置き、そして、呟いた
(…… 加藤かもしれないんだぞ…… アノ日から学校来てないし…… なぁ…… もう止めろって……)
女生徒達は沈んだ顔を見合わせる
「うん、なんか…… ごめん……」
そう静かに言葉を絞り出した彼女達は、蜘蛛の子を散らす様に散り散りに教室から逃げて行った
ウチは顔が強張っているのが鏡を見なくても解る
それでもウチは
「り…… 龍斗?」
とだけ、何とか声を出せた
こちらに顔を向けた彼が驚きと共に歪ませる
「あ、ああ…… 怖かったか…… ごめんな…… なんてーか…… ホントに加藤だったらって思うと、な……」
そう言った龍斗は教室の後ろ側に視線を送る
そして、ゆっくり口を開いた
「しってる仲だしさ…… 嫌じゃん、そーゆーの……」
後ろ側に彼の机があった……
加藤君の机だ
今は無人
ウチは懸命に言葉を探したが……
「うん……」
としか、応えられなかった
キーンーコーーンーカーーーンーコーーン♪
そんな音色で、お昼休憩の終了を告げる
他の学校ではほとんど聞かれなくなったチャイム
ガサガサと教科書に手を掛ける音が部屋中に響く
5限目が始まる準備を皆が整え始めた
龍斗もまた、ウチに手を上げ、
「じゃな……」
と、力無く言い……
自分の教室へと去って行った