2話 龍斗の想い
ウチの高校
程良く咲き誇る桜並木
風が吹くたび、桜の花が宙を舞う
何かが髪を撫でた
何事かとウチはブンブン顔を振る
その視界に入った物
顔の直ぐ傍をハラリと落ちるソレもまた、桜の花ビラだった
優しい桃色にウチは笑みを溢す
「ええ春やな♪」
ウチはそう、呟いた
スタスタと歩みを進める
校舎側に向かって居た
並木道の途中から一本横に伸びる小道
そこに足を踏み入れる
その先には生徒達の憩いの場
そんな屋根の付いた休憩所があった
そこに向かって歩いていると先客の姿が見える
いや、先客では無い
ウチは、その人呼ばれたのだ
「泉! こっちこっち!」
顔立ちの良い男性、いわゆるイケメンがウチを呼ぶ
そしてウチは泉、少し前に転校してきた女子高生
「いや、解ってるし…… てか、見えるし……」
ウチは歩幅も速さも表情も変えない
何故呼ばれたのか見当も付かない
「で、龍斗…… 何の用や?」
「んーーーーー……」
彼は少し表情を歪ませ言葉を濁す
「ん? 用が無いんなら学校戻るけど……」
「いや、待って…… なんつーかさ……」
「ん?」
「ハズいから一回しか言わない」
「はぁ?」
「僕と…… 付き合ってくれないか?」
頭が真っ白になるとはこの事か……
何とか思いついた言葉は
「はぁ!?!?」
だった……
ウチは必死に脳内を働かせる
何?
付き合う!?
ドコに!?
いや、違うか……
この場合は交際やろ!?
嘘やん!?
ウチはキョロキョロと周りを見回す
それらしき物
携帯?
カメラ?
ウチに向けたソレらは無い
ドッキリでは、
無さそうだ……
考えを巡らす
最近、少し話が出来るようになった程度の関係だ
そんな感情を抱いている事など想像もつかない
少し考えを纏めたかったが、目線を放すなと言わんばかりの真剣な眼差しがこちらを射抜く
考えた
ウチなりに精一杯
そして出した答え
それを口にした
「……あんね、龍斗」
「ああ」
「ウチさ…… まだ半年、かな? 大阪から転校してきたばかりやん」
「ああ」
「龍斗、意外と顔良いからさ…… 転校したてのウチとちょくちょく話してると、ウチさ……」
「ん?」
言ってもいいのだろうか……?
でも言わなきゃ伝わらない
だから言葉にした
「実は…… ちょい…… イジメられるんよね……」
「……え?」
そうだろう
そんな顔になるよね
彼は目を丸くし、固まって居た
しようが無い
本人には解らん事やもんな
龍斗のファンは沢山居んやで……
嫌われたくないから……
そりゃ女の子は態度に出さんよ……
だから、私は彼に言った
「つまりな…… 私の龍斗を取るなって事やない?」
ありがちな学校ドラマの様な展開がウチには起きていた
靴が無くなったり、筆箱が…… まあ、そんな事は日常茶飯事だ
友達も転校生のウチには少ない
逃げ場すら無い
だからウチの答えは一つ
「……友達でいよーや?」
そう伝えた
ホンマは嫌いじゃ無い
けど、好きになってもいかんと思うんよ
だから、ウチは、この言葉を選んだ
悲しげな表情に変えた龍斗は
「……そっか」
と、答え……
「うん、ごめんな……」
とウチは答えた
私は一呼吸置いて口にする
「それにな、あんな事…… あったばっかりやん……」
「ああ、そうだな……」
あんな事
それだけで伝わったのだろう
彼は視線を足元に移した
ウチは向きを変え、足取り重く学校へと戻る
そんな背中に彼は言った
「でもさ! 僕は待つから! 諦めないから! ……好きだから!!!」
とっさに振り向き、彼の顔を見たウチは、悲しいような、困ったような表情を浮かべてこっちを見る龍斗に
「うん、いつか…… いつかホンマに答えられる時 …… 応えるわ……」
とだけ伝えた