18話 それぞれの想い
結論から言う
私は一階体育館女子トイレには行かなかった
私が……
私が向かったのは
体育館女子トイレでは無い
体育館、だ
トイレに用は無い
もよおしても居ない
正直
なぜ今ココに居るかもわかって居ない
大事な事を忘れている気がする
なんだったろう?
ただ、体育館に立ち尽くす
誰も居ない体育館
その中央に居ると、これほどまでに、広さが解る
いや元々大きな高校だ
この位は無いと全校生徒を集められないだろう
そんな事を思った時だった
「泉!!」
声を掛けられた
そちらに目をやる
龍斗だ
体育館の壇上から降りてきた
「大丈夫か!?」
「うん……」
「そうか、なら良いんだ……」
龍斗が言葉を続ける
「なぁ、泉…… 急に悪い…… 昨日の事、覚えてるか?」
「昨日の事……?」
「ああ、俺の気持ち…… だよ」
「……覚えてるよ」
「こんな時で悪いけど、僕の気持ち…… 答えてくれないか……?」
「でも、今はそんな時じゃ……」
「今が良いんだ!!」
「私は…… 私の気持ちは…… 龍斗…… あなたが……」
その時だ
怒号が割って入る
「てんめぇーーー!!!!!」
修だ
彼は私の姿を見て躊躇した
「い、泉か…… いや、悪りぃ…… 俺が、龍斗と先に話させてくれないか……?」
伏し目がちに私に了承を取る
「うん……」
そう答えた
「サンキュな…… そしてごめんな…… これから言うことは、なんつーか…… 忘れてくれ」
修は「え?」
と言った私の言葉に被せて話した
「龍斗…… なぜ藤田を殺った?」
「しょうがねぇだろ? 制御効かなくなったからな」
え?
この言葉使い……
龍斗、なの?
「制御ってなんだ!? アノ時に何をした!?」
「壊したんだよ」
「壊した!? ふざけんな!!!」
「ふざけてないさ、そのまんまの意味だよ」
そう言った龍斗が不気味なウィンクを見せる
「龍斗…… てめぇ、それでふざけてねぇってなんで言える! 人の命だぞ!!」
「修…… 善人ぶるなって…… 俺と一緒に来い」
「舐めんな! 信用できるか! それになぁ、それになぁ……」
修を見た私は、その眼の涙を見逃さなかった
「なぜ桜子を殺した!!」
え?
桜子?
なんで…… なんで……?
さっきまで心が磨り減りはしても、元気だったのに!?
言葉が出ない
「やれやれ……」
龍斗が口を開く、そして首を振る
いまだ片目を閉じ、もう片方の目は怒りが見える
「訳分かんねぇ事を言ってんじゃねぇ…… 消すぞ?」
「俺を舐めんな! 屈服するわきゃねーだろ!! アレはなぁ、形が無くても解んだよ!! 俺には!!」
鼻に掛かった声で修は続ける
「姿は無くても…… あの髪も…… 混ざり合っても解る懐かしい匂いも!!!! 桜子の事ならなんでもなぁ!!!!!」
「フゥ…… そっか…… 今までありがとな…… 楽しかったよ、とても」
龍斗はウィンクしていた目を開けた
その【右目は紅かった】
パン!
なんとも陳腐な音が鳴る
修が
消えた
彼の血の海を残して……




