第八話 聖地巡礼
舗装の悪い田舎道を、そのバスは走っていた。
乗客はカニ・栗・ハチ・石臼である。
今しも、バスガイドの格好をしたメスのサルが、マイクを片手に案内を始めた。
「え、みなさまぁ。本日はぁ、おとぎ観光バスをぉ、ご利用いただきぃ、まことにありがとぅざぃまぁす。このバスはぁ、サルカニ合戦のぉ、史跡をまわってぇ、参りまぁす。って、面倒なので、ここから普通にしゃべりますけど、みなさま右手をご覧ください」
バスの右側に、大きな柿の木が見えてきた。
「これが発端となった柿の木でございます。申し訳ないことながら、我がご先祖さまはこの木の上に登り、罪もないカニのご先祖さまに、硬い柿の実をぶつけたのでございます」
車内に「おおっ」というドヨメキが起こった。
「幸い、一命は取り留められましたものの、これを知ったご友人の方々の怒りは治まらず、我がご先祖様に報復する計画を立てたのでございます」
再び「おおっ」とドヨメキが起きた。
「その舞台となったのが、左手前方に見えて参りました、我がご先祖さまの屋敷でございます。尚、現在は道の駅となっておりますので、一旦ここに駐車して、一時間のお昼休憩とします。レストランが中央、左がトイレ、右がギフトショップになっております。え、みなさまぁ、くれぐれもぅ、集合時間にぃ、遅れられませんよぅ、お願い、申しぃ、上げまぁーすぅ」
乗客が全員降りると、オスザルの運転手がガイドに話しかけた。
「おまえ、よく冷静にしゃべれるな。おれなんか、ご先祖さまの無念を思うと、腹が立って腹が立って、しょうがねえぜ」
だが、メスザルのガイドはフフンと鼻で笑った。
「いいじゃないの。ご先祖さまは性急に利益を得ようとして失敗したのよ。わたしたちは、のんびりゆっくりヤツらが汗水流して稼いだお金を搾り取るの。二束三文の土産物を、うーんと高く売りつけてね。いつの時代だって、賢いのはわたしたちの方よ」