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第六話 草食系

食べ物の好みは人それぞれだが……

 食べ物の好みというのは、地域や文化によって千差万別だ。

 以前、『イスラムの人たちはブタ肉が食べられなくて可哀想かわいそうね』と言ったアホなアイドルがいたらしいが、逆に、オーストラリアのアボリジニなどは『文明人はイモムシが食べられなくて気の毒だ』と思っていることだろう。

 かく言うおれは、ベジタリアンだ。家族はおれの健康を気づかい、皆反対している。だが、おれにはおれの生き方があるのだ。

 そんなことを考えながら、部屋のベランダで夕日を眺めてジュースを飲んでいたら、親父から声をかけられた。

「よくそんな不味まずいものが飲めるな」

 親父は、おれが手にしているグラスを嫌悪けんおの表情で見ている。

「慣れると結構うまいんだよ」

「ふん。それより、そろそろ食事の時間だ。早く出かける準備をしなさい」

「いや、おれは行かないよ。これで充分さ」

 親父に見せつけるように、ゴクゴクとトマトジュースを飲んで見せた。

「勝手にしろ! 我ら一族の面汚つらよごしめ。体をこわしても知らんぞ」

 そう捨て台詞ぜりふを残すと、親父はパッとコウモリに変身し、夕暮れの空に飛んで行った。

 まったく、生き血をすするなんてゾッとする。そんな野蛮な食事はまっぴらだ。

「よお、また親父さんとケンカしたのか」

 そう言っておれの部屋に入って来たのは、親友のセバスチャンだった。

「いや、ケンカというわけじゃないさ。食べ物に対する考え方の違いだな。なあ、知ってるか?」

「何をさ」

「動物というのは元々肉食系ばかりで、そこから進化して草食系のものが生まれてきたらしい」

「ええっ、逆じゃないのか。先に草食動物がいて、それを食べる肉食動物が出てきたんだろ?」

「いやいや、動物の消化器官は植物の繊維を分解できない。微生物と共生するように進化して、初めて草食が可能になったんだ。たぶん、おれたちも」

 返事がないのでセバスチャンの顔を見ると、目がランランと光り、歯をむき出している。

「う、う、うーっ、がおーっ!」

 セバスチャンは雄叫おたけびをあげ、体中から剛毛が伸びてきた。

 話に夢中になっていて気が付かなかったが、いつの間にかすっかり日が暮れ、山の向こうから満月がのぼっていたのだ。

「セバスチャン、そんなにあせらなくても、おまえの分はちゃんと冷蔵庫に入ってるよ」

 すっかり狼男に変身したセバスチャンは、冷蔵庫からキャベツを一たま取り出すと、バリバリと丸かじりで食べだした。

「おいおい、キャベツは今高いんだぞ。もっと味わって食えよ」

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