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第二話 帰って来た男

故郷に戻った太郎を待っていたのは……

 生まれ故郷の村に帰ると、自分が竜宮城で過ごしたわずかの間に、こちらでは何十年も経過していることを知って、太郎は愕然がくぜんとした。

 住んでいた家は畑に変わっており、親兄弟の行方ゆくえもわからない。近所の知り合いはほとんど亡くなっているか、運良く生きている相手に出会っても、若いまま変わらぬ姿の太郎を本人とは信じてくれなかった。それどころか、自分が太郎であることをわかってもらおうと話せば話すほど、頭のおかしな若者と思われてしまう。

 途方に暮れた太郎は、行くあてもないまま浜辺をふらふら歩いていた。ふと前方に目をやると、老婆が一人、夕焼けの海をながめながらたたずんでいる。その横顔を見て、なぜか太郎はハッとした。

「あの」

 思わず太郎が声をかけると、振り向いた老婆は一瞬笑顔になりかけたが、すぐ残念そうにため息をついた。

「はあ、なんでしょう」

「あ、いえ、急に声をかけて、すみません。この辺りの方ですか」

「ええ」

「立ち入ったことをお尋ねしますが、何をなさっているのですか」

「待っているのです」

 老婆は遠くを見るような目をしている。

「ああ、どなたか漁に出られているのですね」

 老婆は少し首を傾げた。

「さあ、どうでしょうか。あの人は何も言わずに行ってしまいましたので」

「ご亭主ですか」

「いえ、お互いにそのつもりはあったと思うのですが、もう何十年も前のことですので、この頃では自分だけが勘違いをしていたような気もします」

「な、何十年も待っているのですか」

「ええ。雨の日も風の日も、こうして浜辺で待っていれば、ふいにあの人が帰ってくるような気がしてねえ。馬鹿みたいな話でしょう」

 太郎は激しく動揺していた。

「その相手の方というのは、どういう人ですか」

「それがねえ、不思議なことに、あなたは若い頃のあの人によく似ているんですよ」

「あ、あの、失礼ですが、あなたのお名前を教えていただけませんか」

「はい。お初といいますけど」

 太郎はガタガタ震えていた。

「すみません、ちょっとここで待っていてくれませんか」

「ええ、いいですよ」

 太郎は近くの松の木のかげで、乙姫からもらった玉手箱を開いた。

 白い煙が消えた後、すっかり年相応の老人の姿になった太郎は、老婆のところに戻って来た。

「すまない、お初。ずいぶん長い間待たせてしまったね」

 老婆の両目から大粒の涙があふれた。

「お帰りなさい、太郎さん」

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