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第十六話 ハリウッド版おむすびころりん

全米が苦笑した……

 良いジイさんに教えられた地面の小さな穴に、言われた通りおむすびをほうり込んでから、すでに三十分以上たっていた。

 が、何の反応もない。

 悪いジイさんは、苛立いらだたしげに地面をりつけた。

「くそっ。なめんじゃねえぞ、ネズミども。こうなったら、こっちから行ってやらあ!」

 ジイさんは近くにめてあったでっかい外車に戻ると、トランクをけた。

「オートマチックピストルと予備弾倉だんそう手榴弾しゅりゅうだんを二つ、バズーカは背中にしょって、と。うん、あとはナイフ類をありったけ、だな。ふん、待ってろよ。わしを怒らせるとどうなるか、思い知るがいい」

 穴に戻ると、ジイさんはうつせになってのぞき込んだ。真っ暗で何も見えない。

 耳を当ててみた。かすかに水滴の落ちる音がする。反響音から判断すると、内部にかなり大きな空洞くうどうがあるようだ。

 ジイさんはニヤリと笑い、ベルトのホルダーから手榴弾を一つ取り出した。

「ネズミどもの度肝どぎもを抜いてやるぜ」

 ピンを引き抜いて穴に投げ込むと、ジイさんはダッシュで離れ、耳を押さえてうずくまった。

 すぐに、ドーンという腹に響く爆音がし、バラバラと土砂が降って来た。

 爆風がおさまったところで立ち上がり、穴のあった場所に戻った。まだ少し土煙が立ち込めているが、直径三メートル程の穴がポッカリ開いているのが見えた。

 ジイさんは胸ポケットからペンライトを出し、穴の中を照らしてみた。

「思った通りだ。横穴があるぞ」

 慎重しんちょうに穴の斜面をり、ペンライトで照らしながら横穴に入って行った。

 横穴の高さは二メートルほどもある。明らかに、人間並みの大きさの生き物が利用している通路だ。

 ジイさんは、ペンライトを左手に持ち替え、右手に安全装置を外したピストルを握った。万が一に備え、ペンライトはなるべく体から離して持っている。

 しばらく行くと、通路の分岐点ぶんきてんに出た。

 道幅みちはばは左側がせまく、右側が広い。少し迷ったが、ジイさんは右に進んだ。

 すると、いきなり岩陰いわかげから人影が飛び出して来た。反射的に相手のあしったが、一瞬立ち止まっただけで、すぐにこちらに向かって来る。ジイさんは、相手の顔をライトで照らしてみた。

「わっ、なんだこいつは。外人のゾンビか」

 それは、体が半分腐乱ふらんした外国人であった。それも一体ではない。奥の方から続々と出てきた。

 ジイさんは彼らの頭をねらい、ピストルを撃ちまくった。

 だが、撃っても撃っても、あとからあとから現れて来るのだ。

「くそっ、これじゃキリがねえな」

 ペンライトを口にくわえて弾倉を素早く交換し、ジイさんは撃ちながら後退した。

 少し距離が開いたところで、もう一個の手榴弾のピンを抜き、後ろ向きに放り投げると、全速力で走った。

 直後、爆風にドンと背中を突き飛ばされたが、間一髪で先ほどの分岐点に戻って来られた。

 振り返ると、右側の通路はくずれた土砂で完全にまっていた。

「仕方ねえ。こっちに行ってみるか」

 ジイさんは左側の通路に入った。狭いだけでなく、天井も低いため、少しかがまなければ頭を打ってしまう。

 中に進むにつれ、ケモノのにおいが強くなってきた。天井もどんどん低くなり、ついにジイさんは匍匐ほふく前進のような態勢たいせいになった。

 これ以上狭くなったら進めないというギリギリのところで、出口らしい穴が見えてきた。

「このままだと気づかれるな。まあ、仕方ねえ」

 ジイさんはペンライトのスイッチを切った。

 一瞬、真っ暗になったが、少し目が慣れると、出口の穴がぼんやり光って見える。

 ジイさんがその穴からそっと顔を出すと、ムッとするほどケモノの臭いが充満じゅうまんしている、大きな空洞があった。地下なのに薄明かりがあるのは、岩肌にヒカリゴケのようなものがビッシリ生えているからである。

 そのまま下を向くと、暗くて良く見えないが運動場ぐらいの広場に何かがモゾモゾうごめいているようだ。

 水平方向を見渡すと、広場の周囲はぐるりと岩壁に囲まれていた。岩壁にはいくつも穴が開いている。ジイさんが顔を出している穴もその一つで、下の広場から十メートルぐらいの高さだろう。

 薄明かりに目がなれると、眼下の広場を埋め尽くす無数のネズミたちが見えた。

 広場の正面にはステージのように一段高い場所があり、黄金にかがやく巨大なネズミの像が安置されている。その像の前に、ジイさんが放り込んだおむすびがそなえられていた。

「あの像が本物の黄金なら、とてつもねえ価値があるぞ。だが、宝物は見つけたものの、ちょっと相手が多すぎるな」

 たとえバズーカで撃ったとしても、広場にいるネズミ全部を一度にたおすことはできないだろう。

 すぐに反撃され、体中をかじられ、あの外国人たちのようにゾンビとなって地下を彷徨さまようことになる。

 一旦村に戻って仲間をつのり、出直した方がいい。

 音を立てぬよう、ジイさんが少しずつ後退し始めた時、広場の方から声が聞こえてきた。

《人間よ。かくれているのはわかっている。大人しく出て来るがいい》

 その声はネズミたち全員の口から、ユニゾンのように同時に発せられていた。リーダーのような存在はいないようだ。

「ふん。大人しくゾンビになれってことか」

 もちろん、ジイさんの声は彼らに届かない。

《この黄金像は我らの守り神だ。たとえCIAだろうと渡しはしない。抵抗するなら、おまえたちもゾンビの仲間入りをすることになるぞ》

「ああん? CIAって、どういうことだ?」

 その時、広場を囲む岩壁のあちこちの穴から、一斉にマシンガンの銃声が響いた。

 たちまちネズミたちはパニックにおちいり、我先われさきに逃げ始めた。

 どうやらお宝をねらっていたのは、ジイさんだけではなかったようだ。ゾンビが外国人ばかりだった理由がようやくわかった。

「ちくしょうめ! わしの方が先客だぞ!」

 だが、ネズミたちの側も、一方的にやられてはいなかった。

 広場の奥の通路から、わらわらとゾンビが現れ、岩壁をよじ登り始めたのだ。CIAのマシンガン部隊が応戦しているが、なにしろ人数が多く、脳天に命中しないと効果がないため、じりじりと押されている。

 やがて、一つ、また、一つと、マシンガンが沈黙していった。

「ざまあみろ!」

 だが、喜んでばかりもいられない。ふと、下を見ると、ジイさんのところにもゾンビが押し寄せて来ているのだ。

「わっ、こりゃいかん」

 ジイさんは匍匐のままあとずさったが、スピードが出ない。

 ついに穴からゾンビが入って来た。それも、次々に。

「やばい、やばいぞ」

 ジイさんは、確実に脳天をピストルで撃ったが、いかんせん数が多すぎる。すぐに弾が尽きた。

 その代わり、天井が高くなってきたので、少し腰を屈めれば走れるようになった。

 ジイさんは、走りながら時々振り向いては、ありったけのナイフを投げつけた。

 それすらなくなると、ただもうひたすら無我夢中で走った。

 分岐点に戻ったところで立ち止まり、振り向いてバズーカに弾を込めた。

「ゾンビ野郎め! おととい来やがれ!」

 ものすごい轟音ごうおんとともに弾が飛び出し、通路は一瞬で破壊された。

 だが、安心はできない。ジイさんはバズーカをその場に放り投げ、さらに走って逃げた。

 ようやく地上にたどり着いた時には、精根せいこん尽き果ててたおれこんだ。

「ふーっ、助かった。だが、これで終わりじゃねえ」

 ジイさんはムクッと起き上がり、穴に向かって叫んだ。

「わしは必ず戻って来るぜ!」

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