表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

第十一話 覗かないでください

帰ってきたツルの恩返しとは……

 老夫婦の元に、あのツルが戻って来た。以前、みずからの羽根を抜いて布をったため、すっかり地肌があらわになっている。その代り、筋骨隆々であった。

「おまえ、随分たくましくなったねえ」

 おうなにそう言われると、ツルはニッコリ笑い、力こぶを作って見せた。

「羽根が足りない分、筋力で飛ばなければなりませんので」

「しかし、よく帰って来てくれたね。もう会えないかと思っていたよ」

 媼は目頭めがしらを押さえた。

「まだまだ、恩返しが済んでいませんから」

 横で聞いていたおきなが首を振った。

「いや、もう充分じゃよ。おまえの織ってくれた布を売り、何とか暮らしておる。もうこれ以上、おまえの羽根を減らす必要はないぞ」

「いえ、心配ご無用です。もう機織はたおりはいたしません。ご夫妻の元を去ってから、特技を身に付けてきました」

「特技?」

 声をそろえて驚く老夫婦をまあまあとなだめ、ツルは例によって「絶対にのぞかないでください」と言い残し、離れの部屋に向かった。中に入るとキッチリ扉を閉めたが、夜通しカチャカチャという音が響いていた。

 翌朝、老夫婦が離れの部屋の前に行ってみると、二人が今まで見たことのない、人間が乗れるほど大きな金属製の箱のようなものがあった。透明なギヤマンの窓が付いており、中にツルの姿が見えた。

「何じゃ、これは?」翁は中のツルに尋ねてみた。

 すると、窓のギヤマンがスーッと下がり、ツルが顔を出した。

「これは自動車というものですよ、おじいさん」

「じどうしゃ?」

「そうです。これからの時代、何をするにしろ、まず自動車が必要です。では、ちょっと試運転を兼ねて、ドライブに行ってきます」

 ツルは老夫婦のために、食料品などを買ってきてくれた。

 その夜も、ツルは離れの部屋に入った。

「絶対覗かないでくださいね」

 また、夜通し音が響いた。

 次の日、老夫婦が離れに様子を見に行くと、平べったい真四角なものが載った台が置いてあった。

「これは何だい?」今度は媼がいた。

「液晶テレビですよ、おばあさん。これで毎日が楽しくなりますよ」

 さらに、翌日には冷蔵庫、次の日には洗濯機と、次々に家電製品が増えていった。

 さすがに老夫婦も心配になり、こっそり離れの部屋の中を覗いてみた。

 すると、畳に寝そべったツルがパソコンを操作し、ネットオークションで次々に品物を落札しているのが見えた。

「これはどういうことじゃ!」

 翁の声に振り向いたツルは、溜め息をついた。

「あれほど覗かないでくださいと言ったのに」

「おまえ、まさか悪いことをしてるんじゃないだろうね?」

 媼の不安げな問いかけに、ツルは苦笑した。

「別に不正行為はしていませんよ。ちゃんとデイトレードで稼いだ仮想通貨で決済していますから」

「では、なぜ覗くなと言うのじゃ!」

 翁の詰問口調きつもんくちょうに、ツルは肩を、いや、つばさの付け根をすくめた。

「わたしが苦労して習得したノウハウを、誰にも見せたくなかったのですよ。まあ、仕方がありません。もう十分恩返しできましたし、これで失礼します」

 そう告げると、ツルは自家用ヘリコプターに乗って飛び去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ